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『きのう何食べた?』内野聖陽が指輪に喜ぶ姿が愛おしい 調理シーンの「語り」の違いにも注目

2019年06月08日 12:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)の第9話が6月8日に放送された。西島秀俊が演じる筧史朗(以下、シロさん)が内野聖陽演じる矢吹賢二(以下、ケンジ)とお揃いの指輪を購入する。シロさんとケンジの「パートナーを大事にしたい」という思いが伝わってくるあたたかい回となった。


 ドラマ冒頭、同期の結婚パーティーに出席したシロさん。だが、同性愛者であることを周りに公表していないシロさんは、シロさんが独身だと知った周囲の女性たちから猛アピールを受け困惑する。結婚パーティーでの演出はとてもコミカルだ。同期が「これで同い年だよ」「しかも独身だからね」と言うたび、パーティーに参加している女性たちがシロさんのほうへ振り向き、目を爛々と輝かせながらにじり寄ってくる。猛アピールする女性たちに困惑するシロさんが、男性の指に光る「結婚指輪」を見て「猛烈にあれ(結婚指輪)がほしい……」と心の中で発する描写が面白い。


 一方、ケンジは三宅祐(マキタスポーツ)の悩みを聞いていた。浮気現場を娘に見られてしまったと落ち込む祐。「そんなの浮気しなきゃいいだけでしょ」と言ったケンジに、祐が困り顔で「正論言うなよ」と返すシーンには思わずクスリとしてしまう。だが、「夫婦なんてさ、わびしいもんなんだぜ。たまに無性にさみしくなるときだってあるしさ」と発した祐に、ケンジはどこか悲しげな顔を見せる。内野は本作でケンジの天真爛漫な姿を魅力的に演じている。だが、時々見せるケンジの悲しげな表情が、彼の繊細な性格やシロさんとの関係、同性カップルだからこそ味わう悩みなど、ケンジの背景にあるものを伝えてくれる。ケンジは祐にこう伝えた。「わかってる? 自分がすっごく恵まれてるって」「別れるつもりがないなら、パートナーは大事にしなよ」


 その後、結婚式会場でまともな食事にありつけなかったシロさんが家で1人、ナポリタンを作って食べるシーンがある。ここで印象的なのは、ナポリタンをつくるシーンでいつもの「語り」がないことだ。調理シーンは無音で、淡々とナポリタンが出来上がる。だが、帰宅したケンジがお腹を空かせていることを知ると、サッと出来るお茶漬けにも関わらず、いつもの「語り」が聞こえる。この対比で、調理シーンでの「語り」が、ケンジと囲む食卓を楽しむシロさんの気持ちを表しているのだとわかる。


 また、1人で食事を終えたシロさんの「結局、俺が毎日ちまちまと品数多くおかず作ってんのは、ケンジがいるからなんだよな」という語りも、ケンジへの思いを表すものだ。だが相変わらずシロさんは素直ではない。「あいつの存在って大事」と思いかけたところで言葉を切り、「つくづく健康にいいな」と言い直す姿は実にシロさんらしい。


 食卓で、シロさんは「俺とお揃いで指輪買ってやるって言ったらどうする?」とケンジに提案する。ケンジが喜ぶだろうと考えているような、シロさんの少し自信ありげな表情が印象的だ。ケンジは突然の提案に驚き、息が止まったり大声を上げたりして可愛らしい。シロさんが指輪を求めている理由は、結婚式パーティーなどで女性に囲まれないための「結界」がほしいからなのだが、「理由はどうあれ、ほしい!」とはしゃぐケンジ。ケンジの嬉しそうな顔と、合理的に済ませたいシロさんの対比に笑ってしまう。


 2人で買いに行くのをためらっていたシロさんだが、ケンジにおされて、2人で指輪を見に行くことになる。はじめのうちは、指輪選びにはしゃぐケンジをシロさんは距離を置いて見ている。だが、2人の関係に奇異の目を向けない店員の反応や、ケンジが楽しそうに指輪を選ぶ姿を見て、徐々に距離が縮まっていく。またケンジも、店員に「ここって男性同士で買いに来る人たちも結構いますよね」と聞いたり、「こういうときは2人の世界に入っちゃってるから、別のカップルのことなんか目に入らないって」と話したりして、シロさんを気遣っている。普段は人前でいちゃつくことを嫌がるシロさんだが、指輪をつけて嬉しそうな表情を浮かべるケンジに向ける笑顔はとても幸せそうだ。


 2人で食卓を囲んでいるとき、シロさんが「1人の飯ってつまんないって言うかさ……」とつぶやいた後、黙々と食べるケンジの姿を微笑みながらじっと見つめるシーンがある。ケンジと違って、あまり感情を表に出さないシロさんの「パートナーを大事にしたい」と思う気持ちが滲み出るシーンだった。


 結局、仕事の都合上、2人ともお揃いの指輪をつけて生活することができないのだが、それに対して駄々をこねるケンジとなだめるシロさんの描写が、2人のあたたかな日常を物語っている。2人の幸せな日常が続くことを願う。(片山香帆)