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瀬戸康史と高橋克実は“擬似親子”? ネットの悪意に挑む『デジタル・タトゥー』を紐解く

2019年06月08日 11:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『デジタル・タトゥー』(写真提供=NHK)

 ネット上に拡散されてしまった誹謗中傷や知られたくない個人情報のことを“デジタル・タトゥー”と呼ぶ。消そうとしても消せない、タトゥー(入れ墨)のようなものだからだ。


【写真】一人娘の早紀演じる唐田えりか


 高橋克実、瀬戸康史主演のNHK土曜ドラマ『デジタル・タトゥー』は、それによって人格を否定され、セカンドチャンスを潰されてしまう絶望に苦しむ人々を救おうと奮闘する主人公たちの姿を描く。


 主人公はインターネットにまったく疎い50代のヤメ検弁護士・岩井(高橋)と、年収数千万を誇る人気ユーチューバー・タイガ(瀬戸)。岩井は検事の頃、タイガの父親である右派の大物政治家・伊藤秀光(伊武雅刀)の疑獄を追っていた。


 ある動画で炎上し、さらに何者かに狙われて身の危険を感じたタイガは、岩井の事務所に転がり込む。こうして、頑固で頭が固いアナログ人間の岩井(携帯はガラケー)と、インターネットに精通する現代っ子のタイガというバディが誕生する。


■インターネットに渦巻く「論理」と「悪意」


 インターネット文化に首までどっぷり浸かっている人には、非常に親しみが深いストーリーになっている。SNS、炎上、匿名掲示板、アフィリエイト広告、アクセス解析ツール……などの道具立てだけでなく、登場人物たちが語る「論理」までがネットに蔓延しているものだからだ。


 1話では、美少女Vチューバーに扮する“バ美肉おじさん”緒方(近藤公園)が、荒稼ぎするタイガを憎み、彼の過去の不祥事を暴き立てる。緒方にしてみれば、政治家の親に傷害事件をもみ消してもらったタイガは「ズルい」から、ネットで正義の鉄槌が下されるのは当たり前。デジタル・タトゥーを撒き散らす側は、過ちを犯した側の自己責任だという考えを持っている。SNSなどでよく見る論理だ。


 2話では、痴漢冤罪で有罪判決を下された男・大野(中村靖日)の苦しむ日々が描かれた。“痴漢冤罪の恐怖”は、現代のネットで大いに幅をきかせているテーマの一つ。個人的には、女性が受ける性犯罪のほうに焦点を当てたほうが良かったと思ったが。


 3話では、“キラキラ港区女子”に扮して人気ブロガーになった地味な女性・加代(徳永えり)が、「子どもを産まない女は非国民」と公言して選挙に乗り出そうとする美人経営コンサルタント・中西あや子(矢田亜希子)にネットで誹謗中傷を繰り返すが、結局両者ともいろいろなものを失ってしまうという話だった。


 ただし、これらの登場人物たちの「悪意」はあくまで「火元」に過ぎない。人々を苦しめる「炎上」の部分を担うのは、匿名のネットユーザーたちによる無責任な書き込みだ。菅田将暉主演のドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)は、匿名のネットユーザーを明確に“敵”として描いていたが、『デジタル・タトゥー』ではそれほど重要視されていない。そもそも、このドラマはそんなものを相手にしていない。


■瀬戸康史と高橋克実の疑似親子関係


 アナログ人間の岩井は、とにかく愚直に当事者たちを訪ねて回り、話を聞き、時に叱責する。インターネットのことはまったくわからないし、それに振り回されている人たちのことも理解しているとは言えない。物言いも考え方も雑だが、それでもなんとか当事者たちのそばにいようとする。そうすることで、ネットで匿名のまま悪意を振りまいていた人たちを、顔と名前のある人間に変えていく。


 タイガはそんな岩井のことをどうやら慕っているようだ。けっして居心地が良さそうとは思えない岩井の事務所兼住居にテントを張って同居し、傍若無人で騒ぎばかり起こしていたユーチューバーとは思えないほど、岩井の仕事もかいがいしく手伝っている。


 ふたりを結びつけるキーワードは“親子”だ。


 タイガは父・伊藤秀光と深い確執があった。父は自分にまったく関心を持たず、優しい異母兄・壮輔(竹財輝之助)を自殺に追いやっている。さらに、選挙に邪魔な自分の存在を消そうとしている疑いもある。タイガは父を失った子どもなのだ。


 一人娘の早紀(唐田えりか)を可愛がっている岩井は、娘と同年代のタイガを放っておけない。突き放そうとしたこともあるが、結局、自分の体を張ってタイガを守ろうとした。物分りが悪くて頑固だが温かい心を持つ岩井に、タイガは擬似的な父親の姿を見ているのではないだろうか? そういえば、高橋克実と伊武雅刀はシルエットがよく似ている。


 2話に登場した痴漢冤罪を起こす常習犯、マキ(松林うらら)は両親から見放された子どもだった。3話の加代は、早くに父を亡くしている。親子のつながりを失った人たちが、社会の中で宙ぶらりんになり、問題を起こしていると見ることもできる。


 瀬戸康史と高橋克実の“擬似親子”コンビが、どのようにしてネットにいる人々の心の闇を救っていくか。今後の展開に注目だ。


(大山くまお)