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ネットいじめ、エスカレートの構図…「LINEはずし」に始まり「爆サイ」で中傷まで

2019年06月08日 10:01  弁護士ドットコム

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埼玉県川口市の市立中学校に通っていた元男子生徒(16)がこのほど、インターネットの匿名掲示板「爆サイ.com」に実名を書き込まれて中傷されたとして、同じ中学校に通っていた生徒2人の保護者を相手取って、損害賠償をもとめる訴訟をさいたま地裁に起こした。学校のいじめがネット上に広がったケースだった。どのような背景があったのだろうか。(ライター・渋井哲也)


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●発信者情報開示で書き込んだ人を特定したところ・・・

元男子生徒の母親は提訴翌日の5月28日、埼玉県政記者室で記者会見を開いた。



「(爆サイの)スレッドが立ち上がるまでに、(息子は)LINEグループはずしや部活内の暴行があり、靴に『死ね』と書かれました」



訴状などによると、インターネットの匿名掲示板「爆サイ」で2017年10月、元男子生徒に関するスレッドが立ち上がり、そこから誹謗中傷がはじまった。元男子生徒は、投稿者を特定するため、東京地裁に発信者情報の開示をもとめた。



東京地裁は2018年12月、スレッド内の4件の書き込みについて、実名か実名に近く、原告を簡単に特定できることから、「プライバシー侵害は明白」と認めた。そのうえで、通信事業者に対して、発信者情報の開示を命じていた。



この開示命令にもとづいて、元男子生徒側は、書き込みをした端末の契約者3人を特定した。いずれも、同じ学校に通う子どもの保護者だった。このうち和解の見通しが立たない2人に対して、今回損害賠償をもとめたのだ。



●LINEで「しねかす」「ごみおつ」と送られていた

学校側の対応もずさんだった。元男子生徒に対するいじめがはじまったのは、2015年5月ごろ。当時中学1年の元男子生徒がサッカー部に入ってすぐのことだ。



同級生のLINEグループができたが、どういうわけか、元男子生徒はそのグループからはずされた。サッカー部の顧問が、LINEグループに参加する他の生徒たちを注意したところが、「チクった」ということにされ、元男子生徒は無視や仲間はずれにあうようになる。



LINEでは「しねかす」「ごみおつ」といったメッセージが送られていた。



2016年になると、学校側は、いじめを受けた元男子生徒への支援を約束するが、それは守られなかった。いじめは続いて、元男子生徒は自傷行為をおこない、不登校にもなった。



そんな中、当時の校長は、保護者会で「いじめはない」と説明した。すると、「学校に行かせないのは母親が悪い」「いじめは嘘」といった噂が流れた。



●爆サイで「親に人生をめちゃくちゃにされた◯◯くん」と書き込まれた

「爆サイ」にはどのようなことが書き込まれたのだろうか。



問題になったスレッドには、元男子生徒が通っていた学校名と部活が書き込まれて、「◯◯くん」「◯◯がくえんもんだい」「親に人生をめちゃくちゃにされた◯◯くん」などと記されていた(編集部注:『◯◯』は実名)。



元男子生徒は登校するようになっていたが、実名が書き込まれたことを友人から知らされて、ふたたび学校へ行けなくなってしまった。



「息子は心を閉ざしてしまいました。今でも、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が改善されていません。当時は書き込みに関しては、『許せない』と何度も言っていました」(元男子生徒の母親)



「爆サイ」での書き込みがはじまったあと、学校側は注意喚起の手紙をつくったが、結局、「印刷漏れ」として、すぐに配布されなかった。



元男子生徒の母親が何度もこの手紙を配布することを要望したところ、2017年11月末になってようやく配られたという。保護者への説明会も開かれることになった。こうした最中で、誹謗中傷の書き込みがエスカレートしていった。



「スレッドには、息子と私の名前が掲載されるようになりましたが、(いじめはない、という)学校の説明が、事実と異なるため、エスカレートしていきました」(元男子生徒の母親)





●「自分たちがしたことについて向き合ってもらいたかった」

元男子生徒側はまず、特定できた端末の契約者に対して、事実確認と謝罪、和解のための解決金について記した内容証明を送った。当初は、損害賠償請求の裁判までは考えていなかったという。



「匿名による投稿は許されることではないですが、裁判ではなく、自分たちがしたことについて向き合ってもらいたかったのです」(元男子生徒の母親)



契約者3人は、同じ学校に通っていた生徒たちの保護者だった。実際に書き込んだのは、生徒たちと考えられるが、今回の裁判では保護者を被告としている。



3人のうち1人は、契約者の子どもが書いたことを認めて、文書による謝罪もあった。解決金についても話し合いになっており、裁判という手段を避けたかたちだ。



残りの2人のうち1人からは連絡があり、契約者の子どもが書いたことを認めて、こちらも文書での謝罪もあった。しかし、解決金の支払方法で折り合いがつかなかった。



もう1人はいまだに連絡がつかない。そのため、「書いたのが契約者なのか、子どもなのか、いまだに断定できていない」(元男子生徒の母親)という。



●スレッドそのものは今でも残っている

東京地裁でプライバシー侵害が認められた書き込みは、すでに削除されている。しかし、スレッドそのものは今も残ったままだ。



「スレッドごとの削除はできないため、息子はいつ、誰かに書かれてしまうのか不安にかられています」(元男子生徒の母親)



また、対象になった書き込み以外に、プライバシー侵害の疑いのある書き込みはある。しかし、プロバイダがデータを一定期間しか保存しないため、過去にさかのぼって、発信者情報を開示させることができなかったのだ。



「ネットいじめは急増していると言われています。大人が気づきにくい点もありますが、ケータイやパソコンを買い与えているのは、親です。情報モラルやネットリテラシーの教育の充実をさせて、誰もが被害者にも加害者にもならないことが大切です」(元男子生徒の母親)