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金子大地が高いポテンシャルを発揮 『腐女子、うっかりゲイに告る。』での演技アプローチを考察

2019年06月08日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 NHK総合で放送中のドラマ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』が最終回を迎える。キャッチーなタイトルからも、若者層へのアピールを図ったものだと推測されるが、LGBTを題材にしながら、世代や性別を超えた視聴者へ響く良質な作品に仕上がっている。そこにはスタッフの丁寧なアプローチだけでなく、キャスト陣、特に本作で主演を務めている金子大地の存在が大きい。


 自分がゲイであることをひた隠しにして生きてきた高校生の純を演じる金子は、「アミューズオーディションフェス2014」で俳優・モデル部門を受賞し芸能界入り。俳優として本格デビューを飾った2015年から、まだ数年のキャリアながら、多くの作品に出演を果たしてきた。なかでも一般への認知度を格段に上げたのは、やはり昨年放送され、一大ブームを巻き起こしたドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)での通称・マロ役だ。


 当初こそ、なにかにつけ「パワハラだ!」と叫ぶモンスター社員のイメージが強かったが、吉田鋼太郎演じる黒澤部長の元妻であり、親子ほど年の離れた蝶子(大塚寧々)に恋することで、人として男として変化し、厚みを増していく様を好演。田中圭、林遣都、吉田の代表作となったといわれる本作で、引けをとらぬ人気を得た。


 射抜くような瞳が魅力的な金子だが、『おっさんずラブ』以外にも、これまでに演じてきた役柄を見るに、『明日の約束』(カンテレ・フジテレビ系)、『わたしに××しなさい!』(TBS系)、映画『家族のはなし』『がっこうぐらし!』と、作品ごとに全く違った印象を抱かせ、それぞれに異なる人物になりきれる演技力を持っていることが伝わってくる。


 そしてそのポテンシャルがこれまででもっとも発揮されているのが『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』だ。初回の冒頭から、谷原章介演じるマコトさんとのベッドシーンから始まる、挑戦的なスタートを見せた本作だが、自分は「普通ではない」と苦しむ純のもがきは、自分を認めてあげられずにいる多くの人の共感を誘った。そして「人が人を好きになることに性別など関係ない」とのメッセージとともに「人を好きになることのすばらしさ」、さらには「自分が自分を好きになること」の難しさと大切さを浮かび上がらせる。


 その純のもがき、苦しみ、せつなさ、喜び、怒りといったさまざまな感情を金子が身体全体で伝えている。本当に言いたいことを飲み込むかすかな頬の動き、紗枝(藤野涼子)の屈託のない明るさに思わずこぼれる笑み、親友を見つめる優しいまなざし、心から自分の幸せを願っていることが分かるからこそ、よりそのプレッシャーが辛かった母親に痛みを吐き出したときの首元の紅潮、そして自分を押し込めたような佇まい。すべてのシーンに純が宿っていた。


 「逃げてもいい。でもね、自分からは絶対に逃げ切れないよ。いまじゃなくてもいいから、どこかで戦う覚悟を決めなさい」。マコトと通っていたカフェバーのケイト(サラ・オレイン)の言葉だ。自分と戦い始めた純が迎える最終回、その一歩を金子が全身でどう見せてくれるのか、しっかりと目に焼き付けたい。(文=望月ふみ)