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MAN WITH A MISSIONとONE OK ROCK、2組のバラードに刻まれたバンドのアイデンティティ

2019年06月07日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 興行収入50億円を突破し、いまだ熱気が冷めやらない映画『キングダム』と医療の現場を舞台に出会いと再生を描く月9ドラマ『ラジエーションハウス』(フジテレビ系)。どちらも日本を代表するロックバンドが主題歌を手がけている。


 ONE OK ROCK(ワンオク)「Wasted Nights」とMAN WITH A MISSION(マンウィズ)「Remember Me」。壮大なスケールとサウンドをもつミディアムテンポのナンバーがドラマチックな世界観の演出に貢献している。


 パンク/ラウドシーンの出身で、海外の音楽シーンを射程にとらえながら独自の戦略でファン層を拡大する2バンドには、ミディアム~スローテンポの名曲が多いという共通項がある。なぜ、彼らのバラードは多くのリスナーの心を掴むのだろうか? そこにはバンドの音楽的な変遷とアイデンティティが刻印されている。


(関連:MAN WITH A MISSIONはシーンで“ニュートラルな存在”に? 最新ツアーで確認したバンドの現在地


■ワンオクのボーカル/メロディの魅力を新たな層にアピール


 2019年2月にリリースされたワンオク9作目のアルバム『Eye of the Storm』に収録されている「Wasted Nights」。


 ポップパンク路線の到達点となった前作『Ambitions』と比較して楽曲のブラッシュアップに注力した『Eye of the Storm』では、輪郭のはっきりとしたメロディと音数を絞り込んだサウンドのダイナミズムが全面に押し出され、外部ライターとのコライトは全曲に及んでいる。


 大胆なモデルチェンジは同じ<FUELED BY RAMEN>所属のレーベルメイト、Panic! At The Disco(PATD)のアプローチにも通じる。ブラスやストリングス、電子音を取り入れたPATDのアレンジを可能にしているのは、何十人もが関与するコライトとボーカル、ブレンドン・ユーリーの個としての存在感だ。


 『Eye of the Storm』では、Takaのボーカルとメロディを引き立てる形でサウンドが設計されている。「Wasted Nights」では、深いリヴァーブがかかったドラム音に合わせて空間を生かした奥行きのあるボーカル処理が施されており、キアーラをフィーチャーしたロマンチックなバラード曲「In The Stars」は、サビの後でEDMのドロップに相当するコーラスの繰り返しがエモーショナルさを増幅する。


 もともと「Wherever you are」などのバラード曲でエモーショナルの極致ともいえる表現力を示していただけに、サウンドの意匠が変わってもバンドの核にある熱量は不変。結果として『Eye of the Storm』ではギター音は後退しているが、Takaのボーカルを中心に据えてサウンドの強度を高める選択はバンドにとっての新たなマイルストーンを提示し、ワンオクが本来持つメロディの魅力を新たな層にアピールすることになった。


■マンウィズがコーラスワークで超えたラウド系の文脈


 オオカミと人間による究極の生命体であるマンウィズの場合、その使命(MISSION)を念頭に置いてもサウンド面の制約は少なくない。海外バンドとのコラボや外部プロデューサーの起用などの試みはワンオクと同様であるが、ロックミュージックをアップデートする使命を背負ったマンウィズは、2010年の始動以来、一貫して自分たちのコアにあるサウンドを進化させてきた。


 「Remember Me」は、マンウィズ史上最高にポップに振り切ったミディアムテンポのナンバー。音域の広いシンフォニックなサウンドは、バンドがネクストフェーズに入ったことを高らかに告げている。しかし、よく聴くとそこで鳴っているのはまぎれもなくマンウィズの音であることがわかる。澄み切った浮遊感のある上モノと、何層にも重ねられた鍵盤や弦のレイヤーの下には、歪んだギター音やラウド系特有のヘヴィネスが埋伏しサウンドの太い幹を形づくっている。


 マンウィズのもうひとつの武器がコーラスワークだ。群れで吠えるオオカミのように、ここぞという場面での美しいコーラスワークは、マンウィズがラウド系の文脈を超えて一般リスナーの耳に届く機会を提供してきた。


■それぞれの挑戦の結晶


 ワンオクとマンウィズが歩んできた10年間は、ロックミュージックの有効性が厳しく問われた10年間だった。アメリカで2017年上半期にヒップホップとR&Bがロックを超えてもっとも売れた音楽ジャンルになるなど、90’sマナーなロックサウンドから出発した2バンドにとって、新たなリスナーに訴求するサウンドの拡張は必然といえた。


 2バンドがとった方法論は異なるが、いずれもロックバンドにとっての生命線であるサウンドの改変に着手。失敗すればリスナーの支持を失う危険をはらんだギャンブルをそれぞれのやり方で切り抜けてきた。伝統的なロックでは定番のミディアム~スローテンポの楽曲も例外ではなく、「Wasted Nightes」と「Remember Me」には、それぞれが試行錯誤して得たアイデアが結晶化している。


 かたや大胆なモデルチェンジによって自身とロックミュージックを再定義するドリーマー。一方で、自らに課された制約に対して、サウンドを研ぎすますことで隘路を突破しようとするオオカミたち。〈Don’t be afraid to dive/Be afraid that you didn’t try〉とTakaは「Wasted Nights」で歌う。胸をしめつけるような「Remember Me」の余韻は、自己の存在を賭して挑戦した日々の記憶なのかもしれない。(石河コウヘイ)