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山本彩から感じた、ソロ活動への覚悟と無限の可能性 『I’m ready』ツアーを振り返る

2019年06月07日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 山本彩のソロツアー『I’m ready』が、6月2日沖縄・桜坂セントラルで幕を閉じた。


参考:NMB48 山本彩加&梅山恋和&上西怜が語る、5期生の決意「グループの顔になれるように」


 昨年11月にNMB48を卒業後、今年元旦にロングヘアーを自身が持つハサミでバッサリ切るビジュアル写真と共にソロ活動を本格始動させた山本。2月からは全国24都市27公演の自身最多となる同ツアーを開催。4月17日、ユニバーサルシグマにレーベル移籍後、初のシングル『イチリンソウ』をリリースし、『ツタロックフェス 2019』『METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2019』といったロックフェスへの出演を経て、6月にツアー終了と、この半年は山本にとって激動の期間だった。


 シンガーソングライターとして山本を大きく成長させたのは、紛れもなくツアー『I’m ready』だ。山本はこれまでリリースしてきたアルバム『RAINBOW』(2016年)、『identity』(2017年)のタイトルを冠したツアーを開催してきた。全国のZepp会場を巡った2016年、全国ホールツアーの2017年に続き、3度目となる今回の特徴は、前半で小規模のライブハウス、後半でZeppを回るということ。昨年、大阪・万博記念公園で開催した彼女の卒業コンサートに訪れた数は3万人。通常ならば、前回よりもさらに大きい会場でのツアーを考えるが、山本が選んだのはファンと近い距離からの再スタートだった。


 4月4日、ツアーの折り返しを迎えてすぐの16公演目、福島・郡山HIPSHOT JAPANのキャパシティは約500人。山本が福島を訪れたのは、2014年にAKB48グループの被災地訪問で南相馬市にてミニライブを行って以来。ソロとしては初めての福島公演だ。新鮮だったのは、ライブ序盤に会場に流れていた少しばかりの緊張感。この日、半数が山本のライブは初だと挙手していたが、日常的にライブが開催されている関東や関西圏に比べて、地方は圧倒的に公演の本数は少ない。その分、待ち焦がれる気持ちは人一倍強くなっていくわけで、そんな会場に渦巻く思いが山本本人にも伝わり、相乗効果で気持ちのいい熱量が生まれていく。ままどおる、エキソンパイといった福島銘菓トークが展開されたMCでは、自然なファンとの掛け合いができるのも、小さなライブハウスの特徴。これまでのツアーでも山本は、ファン一人ひとりの目を見て歌声を届けていたが、福島の地ではその思いがより強く伝わってくる。福島公演からアンコール1曲目が「幸せの欠片」に変わるというサプライズもあり、山本は再び福島を訪れることを誓っていた。


 対して、5月14日ツアー終盤の24公演目、Zepp Tokyo。福島公演と比べて、様々な部分でスケールアップしていることに驚いた。1曲目「BAD DAYS」では、紗幕がバッと降り巨大なバックドロップが飛び込んでくる。Zepp公演から加わったバイオリン・Ayasa、コーラス・Asamiも、バンドアンサンブルを彩る大きな要素だ。中でも序盤の公演では演奏されなかった「イチリンソウ」は、Zepp Tokyo公演を観ていて最も印象的な1曲だった。


 「イチリンソウ」は、グループを飛び出し一人で歩んでいく決意、覚悟を道の脇に咲く一輪草に重ねた山本作詞・作曲の楽曲。桜以外で春を歌った彼女の鋭い着眼点が光る1曲である。シングル『イチリンソウ』には、スウェディッシュポップの「君とフィルムカメラ」、パンキッシュな「Are you ready?」と今の山本彩を多角的に映した楽曲が収録されており、すでにライブにおいても新たなアンセムとなっている。それら2曲に比べて、ミディアムナンバーの「イチリンソウ」は山本が自身の心境を歌った楽曲であり、誰かの背中を押す楽曲にもなっているということを、ステージをじっと見つめるファンの姿を見て、改めて気づかされた。


 2016年より変わることのないバンド・チームSYメンバーの仲もより強固なものになっている。本編終盤のバンドセッションで、山本がバンドマスターとして指揮を取る一幕は共に活動してきた3年の月日を感じさせる。ギター・草刈浩司とベース・奥野翔太が演奏中にイチャイチャしているのを発見し、それを山本がMCで冗談交じりにイジるのも、バンドとしてそれぞれが打ち解けた関係性だということが伝わってくる。


 「楽しそうな皆さんの姿を見て、私はライブが心の底から楽しいと思えています」ーーアンコールに山本はこう話していた。不安に押し潰され、ライブをすることを楽しめなくなった時期があったという山本だったが、今回のツアーを経て辿り着いたのが「楽しい」という、初めて音楽を聴いた時に覚える原点のような答え。そう思えるのも、観客と距離の近いライブハウスを巡り、一人ひとりに音楽を届けようと、“1年目の新人”として再スタートを決めた結果だ。


〈また次の春が来たら あなたに会いたい/その時は今よりも 強くなった僕だ〉


 「イチリンソウ」ラストの一節。来年の春、彼女は我々にどのような姿を見せてくれるのだろう。新たなスタートを切った山本の未来には、無限の可能性が詰まっている。(渡辺彰浩)