2019年06月05日 10:01 弁護士ドットコム
ショッピングモールに設置されている「フードコート」。利用者は、さまざまな飲食店で料理を買って、共通の座席スペースで食べる。休日は、たくさんの家族連れでにぎわっている。
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そんなフードコートの座席スペースで、まったく別の場所から飲食物を持ち込んで食べるという人もいるかもしれない。ニュースサイト「しらべぇ」によると、外から「持ち込んだものを食べたことがある」と答えた人が、22.4%もいたという。
グルメジャーナリストの東龍さんは5月6日、ヤフーニュース個人に「フードコートへの持ち込みや無銭滞在が断じて許されない理由」という記事を投稿。テナントの機会損失につながるなどとして、フードコートに持ち込んで食べることは「良くない」と指摘している。
たしかに、フードコートに持ち込んで食べることは、マナーという点では「良くない」かもしれない。では、法的な問題はないのだろうか。池田誠弁護士に聞いた。
――持ち込みによる飲食は、法的に問題でしょうか?
まず、フードコートではない、一般の飲食店について考えてみましょう。一般の飲食店で、何も注文せず、持ち込んだ飲食物を食べるために客席を占拠した場合、店はその客に対して損害賠償請求権を取得するでしょう。
理屈としては、一般の飲食店では、注文した飲食物を食べるために客席の利用が許可されているという「黙示の合意」があると考えられるからです。
その合意に違反した、つまり債務不履行を生じさせたと考えることができるからです。また、単に不法占拠者として、不法行為責任が生じていると考えることもできます。
――フードコートも同じことが言えるでしょうか?
フードコートの特性は、施設の構造やスタッフの配置などから、「入退場が自由である」という点を挙げることができます。
また、フードコートの管理者が持ち込みによる飲食を禁止する趣旨かどうか、掲示などで明示しているのでない限り、明らかでない場合も多いと思います。
このような特性から、フードコートは、一般の飲食店とくらべると、利用者の裁量が広く、その行為が違法と評価されるのは限定的だろうと考えます。
――多くのフードコートでは、「持ち込み禁止」の掲示は見かけないように思います。
先ほどの債務不履行について考えると、入退場が自由な構造で、入場時に持ち込みによる飲食を禁止するような掲示が存在しない場合、入場時に、フードコート内の販売店からの注文を条件とするという「黙示の合意」が成立していると考えることは難しいと考えます。
また、不法行為については、同じく入退場が自由な構造で、入場時に持ち込みによる飲食を禁止するような掲示なども存在しない場合には、持ち込みが制限されていることを知ることは困難です。そのため、フードコート内に持ち込んで飲食しても、違法とは言えず、少なくとも故意または過失がないと考えることができます。
――フードコートに持ち込んで飲食しても、法的に問題ない、ということでしょうか?
そうとはいえません。たとえば、持ち込みによる飲食が禁止されていて、そうと知らずにフードコートに持ち込んで飲食している利用者に対して、フードコートのスタッフが持ち込みによる飲食禁止を告げるとします。
それでもなお、利用者が、持ち込みによる飲食を続けた場合、以後の飲食行為は不法行為にあたり、損害賠償請求権を発生させる余地を生じると考えます。違法な状態であると知って、故意にその状態を維持していると考えられるからです。
しかし、掲示などで禁止が明示されていない場合、スタッフによる注意が無用のトラブルを招くおそれもあります。
飲食物の持ち込みを禁止している場合には、入場口はもちろん、場内の見やすいところに持ち込みによる飲食を禁止する内容の掲示をおこなうことが、持ち込み利用者への法的措置を検討するうえではもちろん、店側と利用者、そして利用者間のトラブルを避けるうえで重要でしょう。
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【取材協力弁護士】
池田 誠(いけだ・まこと)弁護士
証券会社、商品先物業者、銀行などが扱う先進的な投資商品による被害救済を含む消費者被害救済に注力している下町の弁護士です。
事務所名:にっぽり総合法律事務所
事務所URL:https://nippori-law.com/