2019年06月03日 19:01 弁護士ドットコム
埼玉アスベスト弁護団(団長:南雲芳夫弁護士)は6月3日、アスベスト(石綿)を原因として死去した元労働者4人について、和解が成立したと発表した。内訳は国を相手にした訴訟が3件、企業を相手にした訴訟が1件。
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石綿による健康被害の補償・救済は、(1)労災、(2)「石綿救済法」による補償(仕事外が原因のとき)、(3)国への損害賠償請求、(4)企業への損害賠償請求――の主に4パターンがある。今回は(3)と(4)の事例。
国を相手に、さいたま地裁熊谷支部で和解が成立したのは、旧・秩父セメント(現・太平洋セメント)関連の工場で30年以上働いていた労働者3人について。このうち2人の和解日は3月18日。残る1人は秩父セメントの下請企業に所属しており、和解日は6月3日。
同弁護団によると、秩父セメントの関係者が起こしたアスベスト訴訟で国と和解した事例は初と見られる。
2014年10月の大阪泉南アスベスト訴訟最高裁判決では、国が石綿規制を怠ったことが違法と判断された。以降、国は石綿被害で提訴されたとき、一定の要件を満たした相手には和解により、賠償金の支払いを進めている。
具体的には、1958年5月26日~1971年4月28日までの間に、石綿工場で働くなどの要件を満たした場合で、厚労省のリーフレットなどで公表されている。
2017年10月からは労災の記録などをもとに、国から訴訟を促す通知が送られるようにもなった。今回の3人の遺族のもとにも届いたといい、2018年8月に提訴した。和解金は3人のうち2人が1430万円、残る1人が1045万円だった。
同弁護団が担当している石綿の国賠訴訟は、被災者ベースで64人。うち21人が和解済みだという。
厚労省によると、通知は2018年4月までに対象予定者2107人に送った。一方、国賠訴訟は2019年4月末までに732件提起され、470件で和解しているそうだ。
弁護団事務局長の竹内和正弁護士は、「救済の情報をまだ知らない被災者がいる。除斥期間(死後20年など)の関係で、相談が1カ月遅かったら提訴できなかったという人もいた。相談をしたくなってからでは遅い」と述べ、早期の相談を呼び掛けた。
企業との和解成立として報告されたのは、旧・日本エタ二ットパイプ(現・リソルホールディングス)で働き、2015年に亡くなった男性(当時67)の事例だ。
男性が同社で働いたのは1966~1968年と短かったが、2014年に悪性中皮腫を発症。翌年には労災認定を受けた。死亡後の2016年、遺族が国賠訴訟を起こし、和解金1430万円も支払われた。
さらに2017年には、会社の責任を問うため、約5800万円を求めて提訴。さいたま地裁は2018年10月、会社の安全配慮義務違反を認めて、約2500万円の支払いを命じる判決を出した。
遺族代理人の増田悠作弁護士は、地裁判決の意義について「短期間の曝露でも請求が認められた」と語る。
石綿被害で会社の責任を問う裁判は、複数の原告による「包括・一律請求」が多いが、この事件は個別の損害をきちんと計算し、認められた珍しいケースだという。
ただし、金額面が不服ということで、双方が控訴し、東京高裁で審理が続けられていた。
弁護団によると、和解が成立したのは3月20日。守秘義務があるとして詳細は語らなかったが、遺族側としては「納得いく内容」だったという。一方、会社側は「守秘義務があるため、和解したかどうかを含め、コメントは差し控えたい」とした。