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LUNA SEA、SLAVEと共に歩んだ30年 “オールタイムベスト”的セットリスト披露した武道館公演

2019年06月03日 14:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 思い返せば色々なことがあったなぁ。


 5月31日、超満員の東京・日本武道館が暗転し、LUNA SEAの記念すべき30周年を祝う『LUNA SEA 30th anniversary LIVE –Story of the ten thousand days-』の初日公演のオープニングに流れた約10000日(=30年)を振り返る過去の彼らの映像を見て思った。


(関連:LUNA SEAの歴史は現在、そして未来へ続いているーーレア曲披露した『LUNATIC X’MAS』レポ


 1989年の結成以来、瞬く間にスターダムを駆け上がり、1995年には初の東京ドーム公演、さらに1999年には野外ライヴ直前に直撃した強風でセットが倒壊。中止も危ぶまれるなか、壊れたセットを廃墟に見立ててライヴを決行し10万人を動員。しかし、人気絶頂の2000年に突然の終幕宣言、復活はあり得ないと言われていたが2007年の一日限定復活、そして2010年のREBOOT(再起動)から今に至るまでLUNA SEAというバンドはとにかく人が想像もしないこと、ありえないことを平然とやってのけるバンドだ。


 スクリーンの新月が満月に変わると、おなじみのSE「月光」ではなくメジャーデビューアルバム『IMAGE』に収録されている「CALL FOR LOVE」が聴こえてきた。武道館が神聖な空気に包まれると、アルバムの流れをなぞるように「Déjàvu」でライヴは幕を開け、メンバーが早速花道へと飛び出す。LUNA SEAがステージに立つと武道館でさえも小さく見え、さながらライブハウスになってしまう。また、普段は終盤で演奏されることの多い「PRECIOUS…」が2曲目に演奏されることに物珍しさを覚えながらも、彼らの初の東京ドーム公演『LUNATIC TOKYO』のことを思い出さずにはいられなかった。


 この日のセットリストはいわば“LUNA SEAオールタイムベスト”のような内容で、この日演奏した楽曲のほとんどがシングルでリリースされた曲で構成されたものだった。数少ないシングル以外の楽曲でありながらも、この30年で幾度となく演奏されたライヴの定番曲「JESUS」ではシンプルながら30年の重みを感じさせる真矢(Dr)の力強いドラミングとJ(Ba)のベースソロに歓声があがる。


 祝われる自分たちを“世界で一番幸せな5人組”と称し、今一番自信がある世界とRYUICHI(Vo)がタイトルコールをしたのは最新曲「宇宙の詩~Higher and Higher~」。SUGIZO(Gt、Violin)の符点八分のディレイサウンドが武道館いっぱいに広がり、まるでどこまでもその世界を押し広げていく宇宙そのもののような楽曲に酔いしれる。その幻想的な世界は少しの気だるさを残し、INORAN(Gt)の象徴でもあるアルペジオを堪能することができる「gravity」へ。そして、この世界は8分を超える大作「GENESIS OF MIND ~夢の彼方へ~」へと続く。次第に熱を帯び、感情的になっていくRYUICHIのボーカリゼーションに圧倒されるこの曲は、先ほど“LUNA SEAオールタイムベスト”と述べたこの日のセットリストにおいて唯一の例外だろう。


 LUNA SEAに30年の歴史があれば、真矢のドラムソロにも同じだけの歴史がある。1996年に行われた『真冬の野外』での前代未聞の360°空中回転ドラムソロは語り草になっているが、この日は“四拍子”といわれる“笛、小鼓、大鼓、太鼓”という真矢のルーツでもある能と和楽器との融合にオーディエンスからはどよめきのような声があがる。厳かな張りつめた雰囲気の中、寸分の狂いもなく演奏とその間を合わせる両者に惜しみない喝采が送られた。


 また、先日この30周年を機にFenderとのエンドースメント契約を発表したJのベースソロでは彼の新たな相棒であるFenderのプレシジョンベースを骨太に鳴らし、Jが追い求める理想のサウンドを聴かせてくれた。しかし、この30年で変わらないことはJのベースソロはいつだって我々の気持ちを昂ぶらせてくれるということだ。


 変わっていくものと変わらないもの、そのどちらも持ち合わせながら30年間歩んできたLUNA SEAの5人はそれぞれが優れたミュージシャンであるがゆえに個性が強く、時に衝突し合いながら活動してきたことで生まれるその危うさが魅力の1つである。その5人が30年もバンドを続けてきたことの凄まじさは、RYUICHIの「よくもまぁこのメンバーで30年。すごくない?」の言葉に表れていたように思う。


 そして、この30年の歴史には必ずSLAVE(LUNA SEAファンの総称)の存在があった。メンバーはSLAVEに対して感謝の言葉を常々述べているが、LUNA SEAが活動していない時期も含め5人を支え続けてきたSLAVEにも同じだけの歴史があるのだ。この日のセットリストに話を戻すと、客観的に見れば初心者向けのお手本のようなセットリストに見えるが、数多く演奏されてきたこの曲たち一つひとつにもSLAVEの数だけの思い出と記憶があるのも事実である。蘇る思い出と記憶を噛み締めつつも、最新のLUNA SEAを味わう、なんとも贅沢なセットリストだったのではないかと筆者は考える。そんな感謝を込めて送られた「I for You」からライヴは終盤戦へ差し掛かり、「STORM」「ROSIER」「BELIEVE」とキラーチューンを立て続けにお見舞いして彼らは本編を締めくくった。


 アンコールは「宇宙の詩 ~Higher and Higher~」とダブルAサイドでリリースされた「悲壮美」から。壮大で優しくも切なくもある最新のLUNA SEA流のバラードで武道館を包み込んでくれた。また、メンバー紹介の際にはJが“RYUICHIのドーナツ差し入れ2個事件”(RYUICHIが当時LUNACYだったLUNA SEAに加入する際にメンバー4人に対してドーナツを2つ差し入れした事件)の思い出を語り、笑いを誘うと、「ちゃんと4つ差し入れたはずなんだけどおかしいな」とRYUICHIが振り返る。すると「30年経ったから言います。実は僕が隠れて2つ食べました」という真矢による驚きの自白が引き出され、30年目の真実が明らかになった場面も見られた。


 そしてこの日の最後を飾ったのはLUNA SEAの歴史で変わらずに、どんなときもラストナンバーとして演奏されてきた楽曲「WISH」だ。この日も降り注ぐ銀テープに幸福感を感じながら、これまでの喜怒哀楽様々な記憶を反芻し、またこの美しい瞬間を見ることが出来たと喜びを噛み締めた。また、途中でINORANのギターだけになるシーンで彼が観客席の最前列にいた小さな男の子の前で身を乗り出すようにギターを弾いていたのが見えた。そして、ギターを弾き終るとINORANはその男の子の頭を優しく撫でたのが印象的だった。同じように終演後に花道を一周するSUGIZOはファンと触れあい、その流れで近くにいた少女に手招きをした。その少女がSUGIZOの元へ歩み寄ると、彼は彼女の手の甲にキスをプレゼントしたのだ。


 去り際に「これは俺たちの30年でもあり、みんなの30年でもあるからな!」と叫んだのはJだった。SLAVEにもLUNA SEA同様、数えきれないほどの忘れられない瞬間があり、この少年と少女にとってもこの瞬間がそうであったと思う。INORANの言葉を借りれば、LUNA SEAの5人にも、SLAVEにも、この少年や少女にも“今日から新しい歴史が始まる”のだ。


 SUGIZOが“僕らにとって最高の翼”と表した『機動戦士ガンダム40周年プロジェクト』への参加とU2やThe Rolling Stonesを手掛けた世界的プロデューサー・スティーヴ・リリーホワイトとのタッグ、そして12月に発売が決定したLUNA SEA10枚目となるアルバムはその新しい歴史への第一歩である。


 手に入れた翼で彼らがどこへ向かうのか、その先でどんな景色を見せてくれるのか。来年でREBOOTから10年を迎えるLUNA SEAの未来に想いを馳せるとともに、その未来はもうこの瞬間から始まっているのだと思わせてくれた夜だった。(オザキケイト)