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King Gnu「The hole」、みゆはん「恋人失格」……観終えた後に余韻残すドラマ風MVが増加

2019年06月03日 10:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 近年、ドラマ風のMVがますます増えてきた。アーティストが出演しないストーリー仕立てのMVは今までにもあったが、作品のクオリティが年々上がっていることで、まるでドラマを観終えた時のような余韻を残すものも多い。例えば、昨年の冬に公開されたRADWIMPS「そっけない」のMVは、小松菜奈と神尾楓珠演じる男女の「届きそうで届かなそうな」恋愛のワンシーンが切り取られている。細やかな心理描写から伝わってくる切ない恋心に、SNSやYouTubeのコメント欄には共感の声が飛び交うなど、大きな反響があった。


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 もともと、TVドラマと主題歌の相性の良さは話題になりやすいものであるが、ドラマタイアップは大体が既存のストーリーを基にした書き下ろしになるため、アーティストがドラマの世界観を楽曲で表現していると言った方が近い。一方で、ドラマ風MVの中で展開されるのは紛れもなくその楽曲から生まれたストーリーであり、楽曲の世界観が限りなく100%に近い純度で映像に落とし込まれている。聴覚と同時に視覚からも届けられることで、楽曲の世界観により厚みや彩りが加わり、曲単体で聴くのとはまた少し捉え方が変わってくるパターンも少なくない。


 そんなドラマ風MVの中から、最近公開されたもので特に印象に残っている2作品を紹介していきたい。まずは、男女3人の揺れ動く恋模様が描かれたKing Gnuの「The hole」だ。


 清水尋也演じる主人公は、MVの中に出てくる男性と女性どちらとも恋人のような関係にある。それぞれを繋ぐものが「愛」なのか「情」なのか、はたまた「情欲」に近いものであるのか、観る人によっては解釈が異なるかもしれない。私の目には、程度は違えども誰もが持ちうる「心の穴」を埋めてくれる相手と、埋めたい相手が違うことで悲しい結末を迎えてしまったラブストーリーに映った。恋愛においてそれが一組に合致するのがベストだが、現実はズレてしまう可能性もある。〈愛を守らなくちゃ/あなたを守らなくちゃ〉という歌詞が女性に対する主人公の気持ちと重なるものだとすれば、どこか翳のある主人公の表情には、純粋に「あなたを守る」と言い切れないもどかしさや迷いが現れていると言える。最終的に気持ちが定まったかと思われたところで悲劇が起こり、ラストは女性がベッドの上で涙を流すシーンで終わる。この曲はどこまでも立ち込める暗闇と、そこに微かに光が差す可能性が同居した作品だが、その絶妙な神秘性や光の儚さがこのドラマで表現されている。


 そしてもう1つは、横浜流星が出演したことでも話題になっている、みゆはんの「恋人失格」。女子から絶対的な人気を集めるシンガーソングライター・コレサワが自身の楽曲「たばこ」のアンサーソングとして書き下ろした同曲は、同棲していた恋人との別れが男性目線から綴られている。


 女性目線の「たばこ」のMVは、部屋にひとりぼっちになってしまった彼女の姿がアニメーションで描かれていたのに対し、「恋人失格」のMVでは彼氏役を演じる横浜が、2人で住んでいた部屋から出て行ったその後が映し出されている。〈だけれどやっぱ泣かないんだね/そういうところが嫌いだった〉という歌詞のとおり、「恋人失格」の冒頭のシーンで彼女はうつむいているだけだったが、「たばこ」のMVは彼女が感情を露にして大泣きしているシーンが印象的であるなど、この2作品を比べると恋人同士の「すれ違い」が浮き彫りになってくる。どちらか片方のMVだけでも充分に楽曲の世界観は伝わってくるが、彼女と彼氏それぞれにスポットを当てた楽曲とMVが作られたことで、この恋愛にさらに奥行きやリアリティが生まれている。復縁ソングを希望する声も上がっていたが、まさに続きが観たくなるほど感情移入してしまう作品だ。


 一口にドラマ風MVと言っても、観る人に様々な解釈を与える「The hole」と、続編になっている「恋人失格」の違いからも分かるように、その表現方法や魅力は様々。今やMVは、楽曲のプロモーション映像というよりも「独立した映像作品」としての色合いが濃くなっている。これは、YouTubeで音楽を楽しむことの日常化、優れたMVを表彰する音楽アワード「MTV VMAJ」の盛り上がりなども影響しているのかもしれない。ドラマを超えるドラマが誕生するMVの新潮流は、今後さらに音楽・映像業界を面白くしていきそうだ。(渡邉満理奈)