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『ポケモン』新作は睡眠をエンタメ化し、生活の全てに干渉する? 『ポケモンSleeP』の可能性を探る

2019年06月03日 07:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 5月29日、ポケモン事業戦略発表会が東京都内で行われたが、その目玉となったのが新たなゲーム『ポケモンSleeP』だ。株式会社ポケモンの石原恒和社長は「プレイヤーの寝た時間、起きた時間など睡眠をエンターテイメント化するゲーム」と説明する。


(参考:『ポケモンGO』は“優秀なヘルスケアアプリ”と“面白いゲーム”を両立できるか?


 同ゲームは、ポケモンアプリ『はねろ!コイキング』の製作にも携わったSELECT BUTTON社と共同で開発しており、2020年リリース予定だ。


 『ポケモンSleeP』に使用される新たなデバイス『ポケモンGO PLUS+』の開発は、任天堂が担当。日中は、『ポケモンGO PLUS+』として持ち歩き、夜は、内蔵された加速度センサーで眠っている時間を計測し、Bluetooth通信でスマートフォンに転送するという。


■『ポケモンSleeP』は『ポケモンGO』を補完する?
 1996年、ゲームボーイソフト『ポケットモンスター 赤・緑』として生まれたポケモンシリーズは、様々な派生プロジェクトが企画されてきたが、その節目ともいえる20周年にリリースされた『ポケモンGO』が、爆発的な人気を博した。その仕掛け役は、位置情報をゲームに採りこんだ米国のNiantic(ナイアンティック)だ。Nianticは、地球そのものを舞台にしたゲーム体験を切り開いて、人々に外出して新しい場所を訪れるきっかけをつくった。


 NianticのCEOであるジョン・ハンケ氏は、同ゲームについて会見でこのように語っていた。


「ゲームを通して、世界を違った視点で見ることで、野外での活動を増やし、より健康なライフスタイルを送っていただくお手伝いをしたい。健康なライフスタイルに欠かせないのが、歩く事に加えて良く休むことだと考えています。健康的なライフスタイルの増進を念頭に置いて、開発を進めています」


 ニューヨークタイムズは、『ポケモンGO』について、2016年にAR(拡張現実)をゲームに採りいれた先駆け的存在だったとしながらも、「少しおかしな時間に携帯を見入りながら通りを徘徊するという事態が起きた」と指摘。世界でも、モンスターを捕獲するために危険区域にまで足を踏み入れるという事態が発生したり、“ながら運転”による事故が起こるなど、爆発的人気がゆえの社会的な問題もあった。『ポケモンSleeP』は、その教訓を活かし、危険性を取り除き、人々が健全に寝起きをするように設計されているのではないだろうか。そういう意味では、『ポケモンGO』を補完するような存在といえるだろう。


 先日、WHOが「ゲーム障害」を病名に正式認定したりと、ゲームに夢中になることは、自制を失い、生活を破綻させうるという警鐘が鳴らされている。そんななかで、ゲームで子供たちを律するというこの逆転の発想は、ゲーム界を走るトップランナーの1社であるポケモンだからこそのアイデアだ。


■『ポケモンGO』の勝ちパターン継承
 現実世界を冒険することをテーマにした『ポケモンGO』により、ポケモントレーナーとなった人々が、それまでより多くの時間を歩くことに費やすようになった。


 今回の会見で石原氏は「歩くという基本的な動作がエンターテイメントとして成立するという変化を、世界にもたらすことが出来たと考えています。そして、歩くことの次に我々が注目したのが、睡眠。皆さんが人生で多くの時間を費やす睡眠のエンターテイメント化がポケモンの次のチャレンジです」と語っている。


 米国メディアTechradarは、発表会でも言及されたカビゴンが何か関わっているのではないかと推測し、任天堂がWiiといった生活の質に繋がる商品開発の実績がある事にも触れている。また、注目すべき視点として「いつか生活の全てがエンターテイメントに取り込まれるのではないか」とも論じている。


 石原氏はポケモンという存在を通して、現実世界と仮想世界の両方を豊かにすることをビジョンとしている。これこそが、ポケモンGOで見つけた勝ちパターンといえるだろう。


 テレビ全盛期の時代、「8時だョ!全員集合」という国民的なTV番組があったが、そのエンディングでよくドリフターズのメンバーが発した言葉に「歯磨けよ!」「風呂は入れよ!」といったものがあった。番組の社会的影響力を考慮し、善意で教育的な呼びかけをしていたわけだが、時代は変わり今、子供たちが夢中になるのはポケモンになった。場合によっては、入浴や歯磨きをエンターテイメント化することも、あり得ない話ではないだろう。


(Nagata Tombo)