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EXID、WINNER、NCT 127……注目グループの新作に見る、K-POPメジャーシーンの潮流

2019年06月02日 10:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 厳しい状況と言われて続けてきた音楽マーケットだが、ここ数年は変わってきている。たしかにCD販売や音源のダウンロードは減少したものの、ライブやグッズなどの売り上げが伸びたおかげで業界全体としては上向きだと言っていいだろう。


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 この流れに誰よりもはやく気付いたのがK-POP勢だ。韓国には「音楽そのものは知名度を上げるためのもの、収入は他で確保」と割り切るアーティストがかなり多い。だからこそインパクト重視のポップなサウンドメイクを常に心掛けているようだ。EXID、WINNER、NCT 127が最近リリースした新作も、そうした傾向を強く感じる内容に仕上がっている。


■EXID『WE』(2019年5月15日リリース)
 メンバー2名が他の事務所へ移籍することが決まったため、韓国での活動を休止することになったEXIDだが、この作品を聴く限り、悲しみはあまり感じられない。グループとしての魅力を前面に出した収録曲の数々からは、「必ず戻ってくる」という強い意志を感じ取れる。


 リードトラックは敏腕プロデューサー・シンサドンホレンイが中心となって制作した「ME&YOU」。BTS(防弾少年団)のブレイクを機に注目が集まったジャンル=ムーンバートンを取り入れた楽曲で、ノスタルジックなダンスポップを得意とする彼女たちにとってはフレッシュな1曲となった。


 とはいえ、「WE ARE..」ではボコーダーを、「惜しまないで」ではリズムマシンの名機・TR-808(通称:ヤオヤ)を使用するなど、従来のレトロ路線も健在である。こうしたサウンドで昔からのファンもしっかりとつなぎとめているのはさすがと言えよう。


 そして本作で最も注目すべき曲は「どう過ごしている」だ。全体としてはディープハウスと呼べなくもないものの、フュージョン風のギターカッティングやベースのスラップ奏法はフューチャーファンク(80年代の日本産シティポップや洋楽をベースにしつつもリズムをアップデートしたサウンド)を意識しているのがわかる。


■WINNER『WE』(2019年5月15日リリース)
 WINNERもEXIDと同じタイトルのアルバムを同じ日にリリースした。こちらも各メンバーの個性よりもグループとしてのカラーをしっかりアピールしようという狙いで作られている。


 オープニングを飾る「AH YEAH(最初から)」は、メランコリックなギターリフやEDMのエッセンスを挿入しながら中毒性のあるダンスポップに仕立てた、ヒット間違いなしのリードトラックだ。このように親しみやすいサウンドにひと工夫加えるのがWINNERならではの美意識なのだろう。続く「動物の王国(ZOO)」では、意図的に音質を落としたボサノバ風のギターリフとTR-808で制作したリズムを組み合わせて独自の世界を作り上げる。しかしながらアーティスティックな香りはそれほど強くなく、メンバーらはいつものように明るくパワフルに歌っている。これこそがWINNERの持ち味と言いたげだ。


 収録曲は6曲と多くはないものの音楽的に充実した本作は、どんなジャンルでも難なく吸収するK-POPならではの自由度の高さを教えてくれる。


■NCT 127『WE ARE SUPERHUMAN』(2019年5月24日リリース)
 1曲のみが先行公開されて以来、だいぶ待たされた感のあるニューアルバム。だが、待ったかいがあったと痛感するほど魅力的な楽曲が並んでいる。


 中でも耳を引くのはリードトラックの「SUPERHUMAN」だ。コンプレクストロと呼ばれるジャンルのサウンドで、勢いのあるボーカルとラップで発信するポジティブなメッセージが印象に残る。他にもトロピカルなムードに包まれたダンスポップ「あっ、びっくりした(FOOL)」やアーバンR&B「時差(Jet Lag)」など、収録されている楽曲はいずれも“スタイリッシュ”という表現がよく似合う。


 特にそう思わせるのが、先行公開された「Highway to Heaven」である。80年代のエレクトロポップを意識した音作りは“懐かしさ”と“新しさ”の境界線上を進んでいく。本作のトップに置かれたこの曲と「SUPERHUMAN」が放つまぶしいほどのオーラは、彼らが近い将来に“第2のBTS”的な存在になることを暗示しているのかもしれない。


 個性の強い3組ゆえに共通するものはそれほど多くないが、やはりどのアルバムもフューチャーファンクを多少は意識して制作しているようだ。レトロな音色で組み立てながらリズムは音圧が高くフロア仕様に。この方向に進むアーティストは今後増えていくはずだ。まもなくK-POPのメジャーシーンの大きな潮流になるのは間違いないだろう。(まつもとたくお)