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「SSSS.GRIDMAN」「楽園追放」のグラフィニカ、攻めの姿勢だけど「受託の仕事は辞めない」その理由とは?【インタビュー】

2019年06月01日 18:52  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「SSSS.GRIDMAN」「楽園追放」のグラフィニカ、攻めの姿勢だけど「受託の仕事は辞めない」その理由とは?【インタビュー】
アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.14 グラフィニカ

世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。


【会社プロフィール】
グラフィニカ 代表作:3DCGで『ガールズ&パンツァー』など多数の作品に参加するほか、『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『十二大戦』、『HELLO WORLD』(2019年9月20日公開予定)などがある。


グラフィニカ代表作品のひとつ『楽園追放 -Expelled from Paradise-』は海外からも高く評価された

今回のインタビューでお邪魔したグラフィニカ新宿スタジオ(本社)

エントランスには代表作のポスターが並んでいた

新宿スタジオ内部の様子

新宿スタジオでは主に3DCGの制作チームの現場となっている

3DCG制作の様子 アニメーターの表情は真剣そのものだ

◆ ◆ ◆

3DCGなどでさまざまな作品に参加してきたグラフィニカ。

2014年には3DCG映画『楽園追放 -Expelled from Paradise-』を制作し、2017年には制作元請けとして西尾維新・中村光原作によるTVアニメ『十二大戦』を手がけるなど活躍の領域をどんどん拡大している。
グラフィニカは何を目指しているのか。

伊藤暢啓社長と、CGディレクターの篠原章郎、宮風慎一に話を聞いた。
[取材・構成=藤津亮太]

最初にグラフィニカ代表取締役社長 伊藤暢啓氏よりインタビューに応じていただいた

——2014年の『楽園追放』、2017年の『十二大戦』、そして今年公開になる『HELLO WORLD』と、ここ数年のグラフィニカは“攻め”の姿勢だと思うのですが。

伊藤:弊社は今年の春で設立10年です。
成立当初から約5倍以上の規模になり、この10年でクリエイターも育ったことで、社内に自分たちが中心となってものづくりをしたいという気持ちが盛り上がってきたということはいえます。
その中で、いろんな作品にチャレンジするチャンスが生まれてきた結果だと思います。

——『楽園追放』は、東映アニメーション発の企画だったわけですが、それをどうして引き受けようと思われたのでしょうか?

伊藤:『楽園追放』のお話をいただいたのは、札幌にスタジオを設けたり、新しい人材を集める活動をしていた時期でした。
その時点で我々はやれるだろうという自信もありましたし、若く新しいクリエイターを育成していくためにも、「これはやるべき作品だ」と判断しました。

確かにハードルの高い部分もありましたが、水島精二監督を中心に、スタッフが一致協力して制作したおかげで評価をいただける作品として出来上がりました。

——一方で『十二大戦』は元請けですが、3DCGではなく手描き中心のTVアニメでした。それまでのグラフィニカの仕事とは全く違う作品です。

伊藤:実はTVシリーズも以前からチャレンジしたいと思っていたんです。
そこにエイベックスさんから声をかけていただいたので、『十二大戦』が始まりました。確かに3DCGは弊社の大きな柱です。

でも、フルCGにこだわらず、与えられた条件の中でベストな作品にするにはどうしたらよいかを考えた時に、作画を中心にしたほうがよいという結論になりました。
実は弊社にはアナログやデジタルの作画スタッフもいますから、そこはそれほど問題ではなかったのです。

一方でアクションシーンは3DCGのディレクターが腕を振るってくれました。
これからはより一層、3Dクリエイターと作画のクリエイター、両方のクリエイターが作品のテイストや条件に合わせて、ベストな体制を組んでいけるようなスタジオになっていきたいです。

(C)西尾維新・中村 光/集英社・十二大戦製作委員会

——今後は元請けのスタジオに舵をきっていくのでしょうか?

伊藤:いえ、そうは考えておりません。通常は会社の成長に合わせて下請けから元請けへと転換するスタジオが多いですが、グラフィニカは、デジタルプロダクションとしての受託の仕事は辞めないというスタンスです。

受託の仕事を大事に継続しながら、自分たちが主役になって生み出す作品も徐々に増やしていくというつもりです。

——それはなぜでしょうか?

伊藤:弊社はメモリーテック・ホールディングスグループの一員です。このグループは映像制作と光ディスクの製造に非常に力を入れているグループで、グループ内には、アニメに強いポストプロダクションのキューテック、音響制作のポニーキャニオンエンタープライズ、編集を担っているREAL-Tなどの会社もあります。
こうした各企業の仕事を通じて日本のエンタメ業界に貢献していくというのが、グループ全体の考えなのです。

私自身も業界に貢献できない企業は継続しないという持論を持っていますので、今後もグラフィニカが成長していくためには、さまざまな作品に貢献することを止めるということはないです。

メモリーテック社の光ディスク製造工場の様子

——これまでの10年を振り返って、転機といえるのはどこでしょうか?

伊藤:地方展開を始めたことが転機でした。現在は札幌と京都にスタジオがあります。
これはどちらも人との出会いが大きくて、それぞれの地元でグラフィニカと一緒にやろうという方と出会えたからこその展開でした。

地方でクリエイティブな仕事をしたいと思っている人も決して少なくはないと思うので、今後も地方拠点は積極的に増やしていきたいです。それもまたアニメーション産業に貢献できる大きな点だと思います。

——グラフィニカという会社の“強み”はどこにあるとお考えですか?

伊藤:ひとつは社員教育ですね。

入社したばかりの若いクリエイターを教育して、スーピーディーに現場で力を発揮できる状態に持っていく、ということについてはこの10年間でかなりのノウハウを蓄積しました。
弊社はもともとGONZOのデジタル部に所属していた62名からスタートしているのですが、そこに若いスタッフを加えてもトータルの経験値が薄まることがなく仕事ができてきたのは、この社員教育があったからだと思います。

その点では設立当初からご協力をいただいているアニメーター・監督の板野一郎さんの存在は非常に大きいです。
板野さんは、技術的な点での存在感も大きいですが、それ以外でも、リエイターとしての視点の持ち方や働き方などについても、先輩として若手にいろいろ教えてくださるので、非常によい関係だと思います。

もうひとつは先ほど話しました、受託の仕事をやっている、という点もそうですね。

板野一郎氏による指導風景。アクロバティックな戦闘シーン描写は「板野サーカス」と呼ばれあまりに有名。このDNAは楽園追放の戦闘シーンにも引き継がれているようだ

——受託の仕事をやることは会社の強みに繋がるのですね。

伊藤:そうです。受託の仕事をするということは、いろんなスタッフ、いろいろなジャンルと出会うことになります。

自社作品だけだと制作する作品のカラーにある種の傾向が出てきたりもしますが、受託の仕事をしているとそうやって外からの刺激を受けることができます。

これがやはりクリエイターを成長させるひとつの機会になっていますね。
そういう意味では、一緒に仕事をしていただけている、業界のトップクリエイターの方々に非常に感謝しています。

——実際にファンの声を聞く機会などはありますか?

伊藤:我々は基本国内で活動しているので、やはり国内のイベントなどに出展した時がそうですね。
イベントで実際に直接声をかけていただいたこともあります。

あとはやはりSNSがありますから、「グラフィニカいいよね」とか「グラフィニカがいい仕事したからいい作品になってるよね」といっていただいているのを目にすることもあります。

今後は機会があれば海外の方ともそうやって接点を持つようにしていきたいと思いますし、グラフィニカ自体でイベントをやるようなことを考えたいです。

いずれにせよ、ファンとの接点は増やしていきたいですね。



——2019年は元請け作品としてTVアニメ『Re:ステージ! ドリームデイズ♪』と先述の『HELLO WORLD』が控えています。

伊藤:制作プロダクションのゆめ太カンパニーさんが、一昨年12月にうちのグループに入られて、そこでうちと共同制作を行うのが『Re:ステージ!』になります。

また『HELLO WORLD』は、弊社の10周年の節目となる作品になるだろうと思っています。
これは東宝さん、『ソードアート・オンライン』の伊藤(智彦)監督からチャンスをいただき、弊社のクリエイターも加わって作り上げているオリジナル企画です。

グラフィニカとしては、この作品にがまた新たなターニングポイントになるはずですので、是非楽しみにしていただければうれしいです。

(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会グラフィニカ10周年記念の注目作『HELLO WORLD』は2019年9月20日公開予定

→次のページ:CGディレクター 篠原章郎、宮風慎一インタビュー

CGディレクター 篠原章郎(左)、宮風慎一(右)にもお話を伺った

——お二人はどういう経緯でグラフィニカに参加したのでしょうか?

篠原:僕は元々GONZOだったので、CG班が分離してこちらに合流する時に、そのままグラフィニカに来ました。
当時は自分も若手だったので、「ああ、そうなるんだ」というぐらいの感じしかなかったです(笑)。
だから会社も「いつの間にか大分大きくなっていたなぁ」という感じです。

宮風:僕は、フリーランスである会社に席を置いていたんですが、5年前にグラフィニカに応募して、中途採用で入社しました。
社員として雇用してくれるというのが一番の決めてでした。

あと3DCGだけではなく編集や撮影の仕事もやっていて、経営的にも安心できそうだという気持ちもありました。


——篠原さんは『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』、宮風さんは『SSSS.GRIDMAN』に参加して、どちらも話題となりました。宮風さんは『SSSS.GRIDMAN』担当していかがでしたか?

宮風:『SSSS.GRIDMAN』は怪獣とグリッドマンの戦いを特撮っぽいテイストで見せるというのがオーダーで、「特撮っぽく」「着ぐるみっぽく」っていうことなら、これはできるだろうと思いました。

これが「怪獣を本物の生物らしく見せる」だとハードルがかなり高かったと思います。

篠原:『SSSS.GRIDMAN』は見ていて、楽しそうでしたね。
たとえばエフェクトひとつとっても、「絶対2Dでなくてはいけない」とか、そういう制約が少ないんですよ。

「カッコよければOK」っていう精神だから、アニメーターの個々の自由な発想が画面に出ていて、すごくいいなぁと思いました(笑)。
ああいう仕事ってありそうでなかなかないんですよ。


——カメラアングルは大変なものも多かったような気がしましたが。

宮風:いえ、それほどでもなかったです。
絵コンテの段階で意図的に足元を省いたアングルにしてくれていたので、それがすごく助かりました。

カメラ位置がグリッドマンや怪獣の足元あたりに置かれることが多く、基本はあおりなので、足元が自然と切れているんです。
カメラワークは時々大きかったですが、視点を変えられるのは3DCGの強みでもありますからね。

ただカメラを大きく動かす時は背景も3DCGになるので、そこはTVアニメの領分を越えないように注意はしました。
たとえば回り込みなどは空間を正確に作り込むのではなく、“回り込みしている風”に処理したカットもあります。


——『ANEMONE』のほうは、主人公アネモネとヒロイン・エウレカが少女になった姿が3DCGで描かれました。

篠原:うちとしてはこういうノウハウは『楽園追放』で一本積んできてるので、「やれなくはないだろう」というのは元々ありました。
しかもアニメーターの倉島(亜由美)さんがチェックに参加してくれて、僕らに「2Dの作画はこういうふうに考えて描いている」ということをいろいろ伝えてくれたんです。

そこに若い子たちの頑張りが加わって、2D的な表現と、3D的な特徴がうまくミックスされたかなと思います。

宮風:『ANEMONE』は僕も少し手伝ったんですが、結構難しいことをやっているなと思いました(笑)。

篠原:(笑)

宮風:例えば、動きの激しいシーンであれば、相手を掴んでいる手が多少ずれたりしても気にならないんです。

でも『ANEMONE』はすごく自然な演技内容だったので、そういうちょっとした違和感が致命的なんです。
これはTVではとてもできることではなくて、劇場版だからなんとかなったと感じました。

篠原:今回は、開発を含めて時間的に断念した部分もありました。
表現的にも影の出し方とかはまだまだ改善の余地があるので、もう少し効率的にかつ作画っぽい表現になるように挑戦してみたいと思っています。

そこに向けてちょっと仕込みや開発をしてみようかと周囲のスタッフとも話をしていますし。

——『SSSS.GRIDMAN』の時は時間的な余裕はどうでしたか?

宮風:進行状況はとてもよかったです。それも3DCGがうまくいった理由ですね。

僕としては「これを機にアニメの作り方自体が変わってくれたらいいのに」と思うぐらい、よかったです。
というのも、3DCGというのは結構事前準備がかかるので、今の作画アニメの、最終的にアニメーターが描いた段階でフィックスするというフローとは相性が悪いんです。

だから『SSSS.GRIDMAN』と同じぐらい進行状況がよければ3DCGもいろいろできるんだよ、ということがもっと広まるといいなと感じました。


——グラフィニカは10周年を迎えましたが、その中で何が大きく変わったでしょうか?

篠原:キャラクターをがっつりやったという意味では『楽園追放』は大きかったんじゃないでしょうか。

そこから5年が経って、今は、キャラクターの作り方もクオリティーも当時とは全然違うところにまで到達しています。

自分は10年前から3DCGでキャラクターを描いていて、今でも目指しているものは変わっていないんですが、それを表現するための手法は昔と今ではだいぶ変わったという印象です。

宮風:求められるものは変わってないですよね。

あと作画と近いのは、濃度や密度みたいなものをより求められるようになったところです。
僕個人としては、『ガールズ&パンツァー』のインパクトはとても大きかったです。週刊であの物量をよくやりきったなと。

——先ほどの伊藤社長への取材で、スタッフの成長には板野一郎さんの存在が大きいというお話がありました。

篠原:その通りだと思います。
板野さんは、社内で講座を定期的にやってくださるだけでなく、案件ベースでチェックをお願いすることも多いです。

宮風:『SSSS.GRIDMAN』は完全に案件ベースで、板野さんの力を借りようと考えていました。
板野さんは映画『ULTRAMAN』にも参加されていますし。

篠原:講座は、3DCGの話題だけにとどまらず、手描きの作画の講習や絵コンテ・演出の勉強なども幅広くやっていただいています。

宮風:僕も入社してから講座に参加しましたが、単純に技術を教える以上の意味がある感じでした。

僕としては講座で学べる大事なことは「発想や答えの出し方」で、凝り固まらないで考えることの重要性を実感できるよい機会でした。


——ファンの反応を見たりしますか?

宮風:『SSSS.GRIDMAN』の時は検索してました。

放送時にはもう作品は完成していたので、反応を見てどうこうすることはないのですが、一度、こちらが参考にした作品を放送後、即当てられたことがあって、それはうれしかったです。
ちゃんとこちらが狙ったものがわかってもらえたんだなと。

そういう意味では、スタッフに声援を送りたければSNSに書いてもらうのが一番早いと思います。かならずどこかでひっかかってきますから。

篠原:僕も『アネモネ』公開になった後は、反応が心配で検索していました(笑)。
SNSでコメントしてもらえれば、見ることができるので、そういう声援はとてもありがたいです。

——ファンの方にメッセージはありますか?

宮風:グラフィニカはホワイトな会社で、オンとオフを守りながらちゃんと働いているので……。

篠原:好きな方にはどんどん入社してもらって、一緒に作品を作りたいですね。
今後もクオリティ高いものを作り続けますので、是非よろしくお願いします。