世界一のレース、インディ500の優勝ドライバーは、その直後から世界一忙しいアスリートになる。
今年から全米放送を行うテレビ局がABCからNBCに変わった。NBCの力の入れ具合は相当なもので、インディカー・シリーズ、そしてインディ500を取り扱う時間が飛躍的に増えた。
特にそれはインディ500で顕著だった。そんなレースで勝ったシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)には、昨年までとは大きく違う過酷スケジュールが待ち受けていた。
日曜のレースが終わり、長い表彰式と長い記者会見が終わった後、パジェノーはテレビ、ラジオの番組に出続けた。ゴール後7時間ぶっ続けでメディア対応を行った。
これだけでも驚異的だが、それが晩御飯もちゃんと食べさせてもらえない過酷さだと聞いてビックリだ!
2時間寝ただけで、翌日=月曜のPR活動はスタートする。まずはインディアナポリス・モータースピードウェイに戻り、朝の9時からメインストレートのブリック上でウイナー撮影会が行われる。
天気は幸いにも晴れ。個人の写真だけでも、“どんだけのパターン撮るのさ?”って感じるほどだが、その上にオーナーと、スポンサーと、チームのエグゼクティブと、エンジニアと、クルーチーフと、クルーたち全員と、クルーたちひとりひとと、家族と……、撮影は2時間以上もかけて行われる。
それが終わると、またインディのメディアセンターで記者会見。昼間も休む時間はほとんどなく、夜にはインディアナポリスのダウンタウンのホテルでレース後の表彰式兼パーティ=ビクトリーセレブレーションが開かれるので、着飾ってそこに出向くのだ。
レースに出場したドライバーたちは、ここで自分の獲得賞金を知らされる。パジェノーが獲得したのは、2,662,559ドル(約3億円)だった。史上最高額は2009年のエリオ・カストロネベスに贈られた3,630,633ドルだ。
ここでウイナーは長いスピーチを披露する。チームに感謝、スポンサーに感謝、クルーたちが最高!……というものだが、その文面を考える時間はいつ作るのだろうか?
表彰パーティが終わってもウイナーは解放してもらえない……というか、ここからが本番とも言える。
夜のうちに空路ニューヨークへ移動。ホテルで寝る間もほとんどなく、翌朝からは証券取引所で取引開始の鐘を鳴らしたり、レーシングスーツを着てウイナー用レイをかけ、タイムズスクエアを歩いたり、ニューヨークのテレビやラジオ曲のモーニングショーに次々出演。ニューヨークの紙メディアによる囲み取材もある。
インディアナポリスを離れている間に、担当エンジニアとデトロイト用のマシンセッティングについての意見交換なども行う。ダブルヘッダーだから、ポイントも2戦分。おそろかにはできない。
次なるレースの会場であるデトロイトに着いてからもPRは続く。
「インディカーレースというスポーツ、そして、インディ500というイベントを世の中にもっともっと知らしめるために全力を尽くすよ」と話していたパジェノー。さすが!と思うが、そんなに体力が持つだろうか?と心配にもなるくらいだ。
金曜から走行が始まるが、インディ500ウイナーのPR活動は続く。それもそのはず、このイベントのプロモーターはパジェノーのチームのオーナーでもあるロジャー・ペンスキーなのだ。ボスのイベントを盛り上げないわけにはいかない。
インディ500ウイナーの宿命。それは、レース後の1週間が驚異的忙しさとなるところ。翌週開催のデトロイトは、しかもダブルヘッダーという過酷さ。プロモーション疲れでパフォーマンスは下がりがちになる。
本末転倒の感が無きにしも非ずだが、それを跳ね返さないとチャンピオンにはなれない。インディ500もダブルポイントだが、デトロイトも2レース開催なのでポイントは普通のレースの倍。
インディ500優勝で得た勢いを手放さないためにも、デトロイトでの活躍はマストなのだ。パジェノーの戦いぶりはどんなものになるのか? 実に楽しみだ。
インディ500がシーズン2勝目。パジェノーは、ポイントランキングもトップになって、二度目のシリーズタイトル獲得のチャンスは十分にある。