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「プロメア」天元突破した演技合戦はどう生まれた? 堺雅人×今石洋之×中島かずきが明かす【インタビュー】

2019年06月01日 09:52  アニメ!アニメ!

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「プロメア」天元突破した演技合戦はどう生まれた? 堺雅人×今石洋之×中島かずきが明かす【インタビュー】
TRIGGERファン待望の、今石洋之×中島かずきのタッグ初のオリジナル劇場アニメーション『プロメア』が遂に公開を迎えた。中島が座付き作家をつとめる劇団☆新感線の出演経験者である、松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人の3人が声優をつとめることでも、話題を集める本作。


脚本を書いている段階から、ぼんやりと役者のイメージがあったという中島。その中島の提案で、「独特のリズム感を持つ中島脚本に慣れている人に演じてもらいたい」と、キャスティングを決定した今石監督。

アニメ!アニメ!では、クレイ・フォーサイト役の堺雅人、今石洋之監督、中島かずきの3人による鼎談インタビューを実施。堺は内なる炎を秘めたクレイをどう演じたのか? そして今石監督、中島が語る「芝居の圧に心震わせた」という壮絶なアフレコ現場の模様とは――。
[取材・構成=中村美奈子/写真= HitomiKamata]

■知性と暴力性を両立させる、堺雅人の役者力

左から中島かずきさん、堺雅人さん、今石洋之監督

――中島さんは前回のインタビューで、脚本を書いている段階で、クレイのイメージが堺さんになったと発言しています。具体的に堺さんのどんな部分がクレイのイメージと合致したのでしょうか?


中島:クレイはすごく理知的な人物に見えるけれど、内にものすごい狂気を抱えているという芝居を想像したんです。そのときに、抑制が効いてクールで理知的な振る舞いから、ポンと弾けて感情が吹き出すテンションまでの芝居が、堺くんらしいなというイメージがありました。

――今石さんは、役者としての堺さんにどんな印象を抱いていましたか?

今石:劇団☆新感線の『蛮幽鬼』で堺さんが演じたサジを観て、すごくアニメっぽいなと思いました。キャラクター設定も含めて。

中島:「常に笑いながら、人を殺す人」というのを体現しているよね。

今石:「喜び」と「殺意」というまったく別の感情が、ひとりの人間の心に同時にあり続けているというキャラクターは、マンガやアニメの中ではわりとあるのかもしれませんが、生身の人間がそれをやるには、どうしても感情が途切れてしまうだろうから、実現させるのは難しいと思っていたんです。

ところが、堺さんのサジは見事にそれをやってのけたうえに、説得力を持って存在し続けていて。「アニメが人間になった! 堺さんってすごいな」と思いました。

だから中島さんのキャスト案に賛成でしたね。ただ、本当に実現するかわからなかったので、とりあえずオファーをしたら、快諾していただけたので「ヒャッホー♪」でした。

堺:僕は、かずきさんが「堺で」とおっしゃったと伺ったので、うれしくてついやっちゃいました(笑)。


――オファーを受けた決め手はなんでしたか?

堺:『蛮幽鬼』の舞台に出ていたときに、お客さんが喜んでくださっているのがすごくよくわかったんです。舞台に立つと、作品が放つパワーがお客さんにひしひしと染みこんでいくというか、突き刺さっていくのが、伝わってくるんです。
しかも、僕が台本を読んだときや稽古でやったときよりも、もっともっと強く突き刺さっている。それは、僕の理解を超えた“なにか”なので、そんな現象を起こしてしまうかずきさんはすごい人なんですよ。

だから作品どうこうではなく、「この人の遊びに混ぜてもらえたら、お客さんに喜んでもらえるんじゃないか」という確信が、僕の中で勝手にあって。『プロメア』にもきっと、僕がわからない“なにか”があるだろうから、「やります」と即答しました。

中島:それは光栄だな。

――堺さんは、『天元突破グレンラガン』や『キルラキル』など、おふたりのアニメをご覧になったことはありますか?

堺:ないです。あえて観ないでいこうかなと思って。

中島:アニメ自体も観ないよね?


堺:観ないです。アニメもドラマも、フィクションが苦手なんです。

中島:フィクションが苦手なのに、なんで役者になろうと思ったの?

堺:以前、中学時代の自由研究で、誰が何を研究してたか、調べたことがあるんです。なんとなくみんな現在の職業と似たようなテーマを選んでて、おもしろかったんだけど、僕はいろいろな昆虫の巣作りを観察してた。多分僕は、演技というよりも、与えられた状況のなかで“巣を作る”作業がすきんなんじゃないかと最近思っています。そこに“根を張る”行為というか。

役者の仕事は、監督や脚本家が作った作品世界の中で、自分の役の居場所をつくり、生きていく作業のような気がします。虫の巣作りに似た感じがして好きなんです。


――声だけの芝居になると、実写や舞台と違って表現の幅がある程度決められてしまうということはありませんか?

堺:その「幅」がよくわかっていなくて。『プロメア』は、「そういえばこれ、声だけなんだ」と途中で気がついたくらい(笑)。

→次のページ:「今、この瞬間も燃えている」クレイの炎の正体

■「今、この瞬間も燃えている」クレイの炎の正体
――クレイを演じるにあたり、役柄をどう解釈し、どんな風に演じようと思いましたか?

堺:はじめに思ったのが、実写だったら相当準備に時間をいただかないと、体の大きさが無理だと思いましたね(笑)。

――たしかに、逆三角形のメチャクチャ良いガタイをしています(笑)。

堺さん演じるクレイ・フォーサイト

堺:1年かけてプロテインを飲んでも、体が作れないから、別をあたっていただくか、僕でというならちょっと違うことをしようと思いました。それくらい、クレイの体の大きさに違和感を感じていたというか、最後まで悩んでいたんです。
今も、悩んでいるんですよ。クレイのあの体の大きさと生命力、迫力というものを表現するためには、もっと頑張らなければいけなかったのでは、初号試写を観た時に思いました。

中島:アフレコの様子をブースで見ていた僕たちは、全然いけていると思った。でも脚本もそうですが、当事者は常に「ここはこうすれば良かった」と思ってしまいますよね。

堺:クレイは、もっと要求していた感じがしました。収録前は、ラストから逆算して、大体5段階くらいの声の大きさを考えていて、熱量がどんどん高くなるクライマックスでレベル5を出す予定だったんです。

ところが、半ばの「旦那と呼ぶな!」というセリフでいきなりレベル5を要求されて。
一応できるからやりましたが、「レベルMAXをここで使っちゃった」と目眩がしました。プロレスラーが、技を全部出し切ってカウント2も取れなかった心境でしたよ。この後どう戦えばいいのって(苦笑)。

中島:そのセリフで初日の単独アフレコが終わって帰って、「次の日またよろしく」ですからね。

堺:終わった後、正直に「もうないです、明日が心配です」と打ち明けたんですが、「やってください!」と言われたので、まあ、なんとかなりましたね(笑)。


――実際、クライマックスの演技は、レベル5を振り切っているように感じました。ちなみに、今石監督からは、堺さんになにかアドバイスされましたか?

今石:アクションシーンで、細かい息の芝居が必要なところだけでしたね。パンチのタイミングや体の動きなどを1回説明しただけで、すぐに演技をバッチリ合わせてくれたので、本当にすごいなと思いました。

――後半は、松山さん、早乙女さんと3人で収録に臨んだそうですが、やはり相手がいて実際にセリフの掛け合いがあると、テンションも上がりましたか?

堺:やっぱり3人でやらせて頂いたのは、とても良かったです。特に、松山くんの全力な演技に、助けられましたね。「この感情を出すために、声だけでどう表現すればいいのかな」と考えた瞬間は、一度もありませんでした。気がついたらまずやるという。

松山さん演じるガロ・ティモス

中島:まるで劇団☆新感線の稽古を見ているようでしたよ。吹き替えではなく、3人が普通に芝居をやっていましたね。

今石:アフレコを聴きながら、普通の絵を描いたら負けると感じるくらい、生のお芝居の迫力がすごかったです。

堺:クレイの面白いところは、他人に影響をされないところです。彼は殴られても、「ウガーッ!」と殴り返さないんです。彼の炎は、わかりやすい表層ではなく、もっと奥のややこしいところで燃えている。でもそこが素敵なところだと、映像を観て感じました。

クレイの熱は、過去のエネルギーが溜まっていて、それが吹き出しているんだと思っていたんですが、実はずっと燃え続けていた。悲しかったり、自分に対するモヤモヤや違和感だったり、悩みだったりで、「今この瞬間も、クレイの炎はある」と。クレイの炎は、自分と世界との摩擦で燃えているんだと思って。

中島:僕の中で、そういう役が“堺雅人的”だったんだよね。後半テンションは上がりっぱなしだし、尺もないからかなり駆け足で終わりになるんだけど、ガーッと燃えていた炎が、ちゃんとクレイの一言で燃え尽きている。そこが、やっぱりさすがだなと思いました。「フォーサイト」にちゃんとなっていると、ホッとしましたよ。

堺:なるほど。ギリシャ語の「プロメテウス」と英語の「フォーサイト」は、実は似た意味を持つ言葉だったんだなって、さっき知ったんです。2人とも全然教えてくれないから、そういう話。


中島:教えちゃったらつまらないじゃない(笑)。『蛮幽鬼』のサジはわかりやすかったでしょう?

堺:今石さんがおっしゃった「アニメっぽい」という感じですかね。アニメって時々、人物が二等身になるときがあるじゃないですか。サジは、二等身になってもパワーと凶暴さは変わらない。。
住む世界がぐっと変わって、力が抜けているのに、質量が保存されている感じがおもしろい。そういうことを思いつくかずきさんが、本当におもしろいと思います。

――ちなみに、松山さん、早乙女さんとのアフレコで、印象に残っていることはありますか?

堺:休憩になったら、すぐに松山くんが弁当を食い出したことです。どうしたのって聞いたら、「腹減ったんで!」と。ついさっきまで、丁々発止をやっていた人間がですよ(笑)。そういう座長には着いていていこうと思いました。だから結局は、人間力なんですね。
太一(早乙女)くんとは、『蛮幽鬼』で共演していましたが、当たり前だけど芝居の色が増えましたね。大人になって、さらに上手くなられたなと思いました。


――最後に堺さんの演技の見どころと、作品の注目ポイントを教えてください。

中島:ある意味、ファンの皆さんが予想していた通りのクレイですが、その想像を超える存在感を、堺雅人が見事に出してくれました。そんな堺くんの役作りを観ていただけると、うれしいです。

今石:クレイの常識から外れた“なにか”が、完全に声で再現されていて、この声に合う画をどう描いてやろうかと、意欲を掻き立てられたことが、すごくうれしかったです。
そんなレベルの演技は、ブースで「もっと、もっと」と要求しないと出てこないのですが、一発目でこれかと唸ってしまいました。堺さんが声を枯らしたほどの「叫び」を、ぜひ劇場でお楽しみください。

堺:僕のつたない言葉では、作品の魅力を語ることができないのですが、新しい“なにか”であることには間違いありません。僕たちは作品を皆さんに渡す作業をしたので、今度は作品を観た皆さんが自由に作品を楽しみ、いろいろな言葉で語っていただければと思います。そしてまた、松山くん、太一くんの3人でやれたらいいなと思います。

中島:ぜひやりたいですね!