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アニメ評論家・藤津亮太が語る“インタビューの極意” 質問や事前準備も「シミュレーションが大事」

2019年05月31日 19:22  アニメ!アニメ!

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アニメ評論家・藤津亮太が語る“インタビューの極意” 質問や事前準備も「シミュレーションが大事」
好きな作品や声優さんについて「もっと知りたい!」と思ったときに、よくみなさんが読まれるのがインタビュー記事ではないでしょうか?

今回はアニメライターの藤津亮太さんに、インタビューの際にどうやって面白いお話を引き出しているのかについて伺いました。

アニメ!アニメ!では、アニメファンに関する記事を年間4500本以上掲載しています。そんな数ある記事の中でも人気なのが、声優さんやアニメ監督、プロデューサーへのインタビュー記事です。

今回はプロのアニメ評論家として数々の実績を持ち、アニメ!アニメ!でも「藤津亮太のアニメの門V」を連載している藤津亮太さんに、5月28日発売のインタビュー集『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』(河出書房新社)での例を中心にインタビューの極意について伺いました。

知ることでインタビュー記事がもっと面白くなるプロのテクニックとマインド、ぜひお楽しみください!
[取材・構成=いしじまえいわ]

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』がある。最新著書は『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。

■アニメライター業に活きるロジカルなマインド
――今回は藤津さんにインタビューの極意を伺いたいと思いますが、その前に藤津さん自身について教えてください。アニメライターになる前はどんなことをされていたんですか?

藤津:2000年にフリーのアニメライターになったのですが、その前は新卒入社した地方新聞社(静岡新聞)に5年間、その後「週刊SPA!」編集部に2年半在籍していました。

――新聞記者や雑誌編集者時代にインタビューのノウハウなどを体系的に教えてもらったんでしょうか?

藤津:そういう機会もありましたが、どちらかというととにかく実践の中で学ぶ叩き上げ方式でしたね。たとえば「子どもに凧を教える凧あげ教室があるから行って話聞いてこい」という案件があれば現地に行ってお話を聞いてそれを記事にするわけですが、書く段になって「あーっ、これも聞いておけばよかった!」ということに気付く。そういった気付きの積み重ねでしたね。

――新卒で新聞記者にということは、元々文系の学生さんでそういったインタビューや執筆がお得意だったんでしょうか?

藤津:いいえ、理学部分子生物学科でした。

――えっ、それは意外です。異色のキャリアパスですね。

藤津:理系でしたが、所属していた合唱サークルの文集のために文章を書くのなんかは元々好きだったんです。
あと理系といっても、当時は面識はありませんでしたが同じ理学部の地学科の2学年先輩にマンガ評論家の伊藤剛さんがいますし、同級生にはマンガ家の都留泰作さん(代表作『ナチュン』『ムシユヌン』等)もいます。

――理系出身でコンテンツ分野で活躍されている方は意外と多いんですね。確かに藤津さんの記事はロジカルで読みやすい印象があったので納得です。

藤津:僕の記事を面白いと言ってくれる方はそういう僕の理屈っぽい面を楽しんでくれているのだと思います。逆に「こいつカタイな!」と思われている方もいらっしゃると思います。
インタビューを受けた方から「藤津さんに文章にしてもらうと、なんだか頭良くなった感じがする」と言っていただけることもあるんですが、そういうロジカルな面が出ているのかもしれませんね。

――分かります。そういったロジカルなインタビュー記事の書き方について、これから詳しく教えてください。

■取材準備は「会話のシミュレーション」
――インタビュー記事を書くにあたって、取材準備と実際のインタビュー、そして執筆と3つのステップがあると思います。取材準備にはどのくらい力を割いているのでしょう?

藤津:ケースバイケースですね。今回の『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』の場合、「Febri」という雑誌の連載記事が元になっているのですが、僕は声優さんに作品面での話を聞くことはあっても、その声優さんのパーソナルな部分についてお話を伺う機会はあまりなかったんです。なので毎回入念に下調べをしてからインタビューに臨みました。

逆に富野(由悠季)監督などキャリアや作品をよく知っている方へのインタビューであれば、ゼロから調べる必要はないので直近の作品や活動についておさえておく程度です。

【関連記事】藤津さんがアニメ!アニメ!で過去に担当した富野由悠季監督インタビュー>放送開始後、初の富野総監督スペシャルインタビュー「ガンダム Gのレコンギスタ」を語る(上) 

――では今回の本の場合、具体的にどういったことを事前に調べられたのでしょう?

藤津:まずはフィルモグラフィ(出演作品歴)を確認して作品リストを作り、見たことのない作品であれば時間の許す範囲で配信やレンタルで実際にその作品を見ておきました。

それと、今回特に気にしたのは、「各作品の音響監督」と「共演者」です。
インタビュー中に相手の方が思い出すのはその仕事をしていた時に一緒にいた人のことのはずですから、そういった話題が出た時に話に乗れるようにしておくための準備です。これも毎回リストを作りました。

――そこから作品本編もチェックされるかと思いますが、取材準備にかけられる時間も限られているわけですから、すべての作品はチェックすることはできませんよね。どのような作品を重点的にチェックするのか、基準はありますか?

藤津:ひとつは「誰もが想像する、その方らしい役」の作品です。有名な役は僕もだいたい知っているのでいいんですが、もし観たことがない作品があれば1話ぐらいは観ておきます。

もうひとつは「その人らしくない役」です。たとえば宮本充さん(『文豪ストレイドッグス』森鴎外役、『THE ビッグオー』ロジャー・スミス役など)はクールな男性の役をされることが多いのですが、2001年版『フルーツバスケット』では草摩綾女というテンションの高い役を演じられていました。その話を出したら、やっぱり話が膨らんだんですね。

――話の引き出しを増やしておく、ということですね。

藤津:そのとおりです。事前準備はシミュレーションなんですよ。
まずクールな役で人気がある方なのでそのお話は絶対に聞きたい。だからそういう種類の作品を調べておく。その流れで現場のことも知りたい。だから音響監督と、同じ音響監督の作品についても調べておく。
ある程度お話が聞けたら、次は「でもこういう種類の役もやってますよね?」と方向を切り替えて話を膨らませたい。そのために少し違った役のことも調べておく……という風にイメージします。

インタビュー中に話題が途切れてしまうとその瞬間に相手のテンションが下がってしまうかもしれません。でも、シミュレーションしたうえで話の引き出しを増やしておけば、仮に話が途切れたり想定しない方向に行ったりしたとしても、別の話題を出して対応できます。そのための事前準備ですから、単に出演作を全部頭に入れておく、というようなことではないんですね。

――準備される時点で記事の仕上がりも具体的にイメージされているんですか?

藤津:いや、事前準備は原稿を書くためではなく、インタビューでの会話のためのシミュレーションなんです。

――準備の段階では原稿をどう書くかについてはそこまで詰めないんですね。

藤津:記事に必要な情報が事前にある程度決まっている2000ワード以下の原稿などであれば、記事内容を固めてからインタビューしてもいいと思います。
でも6000ワード以上のインタビューであれば、具体的な記事の構成を作るのはインタビューの後ですね。あまり事前に形を決めすぎるとインタビューがうまくいかないので。

――そういう面で失敗された経験はありますか?

藤津:「SPA!」時代に『もののけ姫』の宮崎駿監督への取材があるということで、自分から手を挙げてやらせてもらったことがありました。
大好きな方へのインタビューにありがちなんですが、その方の本や過去の発言などを調べ過ぎていて「こう聞いたらこう答えてくれるに違いない!」と思い込んでいたんですね。

――分かります、自分の中でイメージを固めてしまうんですよね……。実際のインタビューではどうだったんですか?

藤津:やはりこちらが思っていたようなことは答えてくれませんでした(苦笑)。


富野監督もそうですが、トップクリエイターは日々先のことを考えていらっしゃるので、過去のインタビューと同じことを言うとは限らないわけです。
すると流れをガチガチにイメージしていたこっちは「あれ? 思ったような話にならないぞ!?」と固まってしまい、会話も弾まなくなってしまいました。

過去の記事やインタビューを読んでおくことはもちろん大事なのですが、「その話を聞きたい! それを引き出そう!」と思うと会話でなくなってしまいます。そこが分かっていなかったんですね。
結果的に記事としては形になったのですが、インタビューとしては苦い思い出です。

――シミュレーションといっても誘導尋問してイメージ通りのことを言わせるのとは違うんですね。

藤津:ですよね。

――逆に「先入観を持たないために、何も調べずに行ったほうがいいんだよ!」という方もいますが……。

藤津:僕としては、それは調べ過ぎるよりもダメだと思います。話に乗れないから途切れたら終わりですし、誰でも聞くような普通の質問をプロフェッショナルである相手に対してするのは失礼です。
また、基本的な質問はいろんな場で何度も答えているでしょうから相手もうんざりしますよね。

――相手の立場になって考えると、そうですよね。

藤津:アニメ!アニメ!さんのような専門メディアの取材であれば、インタビュアーはアニメ制作のワークフローや業界の直近のトレンドなど、基本的な知識や常識は知っておく必要があると思います。そういう意味での事前準備はいくらしてもいいと思います。

僕も今回声優さんにロングインタビューをするにあたって「演技者というのはどういう思いで取り組んでいるのか?」ということへの知識が不足していると感じていました。
そこで俳優の山崎努さんが『リア王』を演じた時の日記(『新装版 俳優のノート(文春文庫)』)や演出家の方の本などを何冊か読んで、声優という役者の方がどんなことを思って役に取り組まれているのか、どういう演技をいい演技と考えているか、などのイメージを持てるようにしました。

こういった知識がインタビューの際に直接役立ったわけではありませんが、相手の方が言ったことを受け取る力は確実に上がりましたね。

→次のページ:インタビューとは「共同作業で作り出す会話」

■インタビューとは「共同作業で作り出す会話」
――それでは続いて、実際にインタビューをするうえでのお話を教えてください。当日はどのようにインタビューに臨まれるんですか?

藤津:インタビューする30分くらい前に事前準備した情報を元に質問項目を5、6個にまとめたインタビューメモを作り、頭の中でインタビューの流れをシミュレーションしています。
最初の質問は何にするか、とかですね。

――最初の質問を何にするかは悩むポイントですよね。今回の声優インタビューではどうされていましたか?

藤津:普通に考えると第一声は「声優になったきっかけは?」ですが、これはありきたりだし相手も何度も聞かれているはずです。
でも読者の中には初めてその話を知る方もいますから、記事には必要な情報です。また、既によく知られているエピソードであっても、インタビューで聞いていないことを書くわけにはいきません。

――相手は話したくないけど、インタビュアーとしては聞く必要がある。難しい状況ですね。実際どうされたんですか?

藤津:これは小黒祐一郎(「アニメスタイル」編集長)さんが使われていたテクニックなんですが、一般的に知られていることや語り尽くされていることは「○◯さんのデビュー作は◯◯で、その時こういうエピソードがあったんですよね」というふうに自分から言って確認してしまうことです。

――なるほど、それなら一歩先の地点から話ができますし、前段の基本的なことも記事に書けますよね。

藤津:このように、相手の気持ちや立場を考えて「こういう風に話を切り出せば相手は面倒くさくないだろうな」「話が弾むだろうな」とシミュレーションをして、それを質問項目メモとして書き出しておく。

時系列に沿って話を聞くのは聞かれる方も思い出しやすいのでいいんですが、ありきたりになってしまいがちです。最初からありきたりだと、相手も「またこの話をしなきゃいけないんだ……」と飽きてしまったり、不安になってしまったりするかもしれません。

今回のインタビューでは最初に直近の作品やエピソードについて伺い、その後に過去にさかのぼって時系列に戻すという流れを意識しました。
この過去にさかのぼる時に、「何を起点としてさかのぼるか?」という部分にもシミュレーションが必要です。

――話をどう展開して次の話題に進むかを考えるわけですね。

藤津:「話は過去にさかのぼりますが……」と一旦話を切ってしまってもいいんですが、できれば流れはあったほうが話は弾みます。
この後「音響監督の話にいくか? それとも一気に過去にさかのぼるか? それならその間に何を聞いておくべきか?」などを考えます。

記事にするうえで最低限必要なことはインタビューメモとして手元に置いてあるので、もし流れを見失った場合はメモの質問に戻ればいいわけです。

――今回の声優さんへのインタビューでも、そういった工夫が活きた場面はありましたか?

藤津:大谷育江さん(『ポケットモンスター』ピカチュウ役や『名探偵コナン』円谷光彦役など)のインタビューの時、最初に対面した時「新鮮な話ができるかしら……」とご不安を持たれていたようなんですよね。
ですがシミュレーションを元に流れを工夫したことで、終わった時には「楽しかった」と言っていただけました。

――確かに、大谷さんには誰もがピカチュウや光彦の話を聞いてしまうと思います。どういった工夫をされたんですか?

藤津:大谷さんは海外ドラマの『フルハウス』の吹き替えでステファニーという主要人物をずっと担当されているので、聞かれたことが少なそうなそういった役についてお話を伺いました。
また、時系列に沿って話すのは何度もされているだろうから、今回はキャラクターごとにお話を伺うようにしました。

ピカチュウや光彦についてももちろんお話を聞く必要があるわけですが、単にそれぞれ聞くのではなく「ピカチュウは長く演じられている役ですが、同じく長く演じられているキャラクターといえば光彦もありますよね」といった風に、”長く演じている”という共通点でブリッジをかけるようにしました。
そうすると単に光彦について、ではなく、ピカチュウとの共通点や相違点なども話すイメージができますし、内容も自然と膨らみますよね。それが会話だと思うんです。

――単にキャラクターごとに切り分けて聞くより自然な会話になりますね。

藤津:時系列に聞けばこういったブリッジを作りやすいのでやはり基本ではあるんですが、要はトピックとトピックの間に流れがあればいいので、必ずしも時系列である必要はないんです。
逆に時系列に聞くにしてもブリッジがないと「では、次の作品について話してください」と、尋問みたいな雰囲気になってしまいます。学生インタビューなどではよくやってしまうのですが、これでは会話ではありませんよね。
「どうすれば会話になるのか?」を考えるのがシミュレーションなんです。



――藤津さんの考えるインタビューとは会話であり、相手のことを考えること、なんですね。

藤津:そうだと思います。
「インタビューは勝負だ」という考え方もありますし実際そういう現場もあるのですが、アニメ記事のインタビューであれば、多くの場合、インタビューは会話を紡ぐための共同作業であるべきだと思います。
相手の方はそう思っていないこともあるかもしれませんが、少なくともインタビューする側は一緒に作り上げていくようにすべきだと思います。一方的な共同作業、ですね。

――共同作業という点で、そのほか意識していることはありますか?

藤津:今回の声優さんへのインタビューであれば、僕はその人の人生の一貫性や芝居において大事にされているコンセプトなどが最後に浮かび上がってくるようなものになればいいな、と思ってお話を聞くわけです。
こういったことはインタビューの前には口にしませんが、会話を通じてご本人も「あ、自分はこういうことを大事にしてきたんだな」と思えてくる。それを一緒に作ることがインタビューの目指すべきゴールだと思うんです。

インタビューという限られた時間の中で「つまらなかった」ではなく「楽しくこれまでを振り返ることができたな」「発見があったな」と思ってもらうことを目指して会話をしていく。それが理想のイメージです。

■話者の論理を整え、読者が飽きない設計をする
――インタビューを終えたら、次は実際に記事として執筆する段になります。原稿を書くうえで藤津さんが意識されていることは何ですか?

藤津:大別するとふたつあって、ひとつは話者の趣旨を間違えないように論理を追うことです。インタビューで話をしている最中は、矛盾していることや少しズレたことを普通に話すものなんですね。

たとえば「赤が大事なんです」と言った後に「青が大事です」と言った、ということがあったとします。
そこで“場合分け”という作業を行います。上記の例では「通常であれば、赤が大事です」「でもこういったケースであれば、青が大事です」という風に、赤のパートと青のパートを切り分け、それぞれ補足することで相手の真意が伝わるように構成し直すんです。

――人が口に出していることとその人が伝えたいことが同じとは限らない、という前提があるわけですね。

藤津:むしろ口に出した言葉は真意とは少しズレていることのほうが多いんです。
相手が話したことを一字一句そのまま文章にすると、逆に趣旨が伝わりにくかったり誤解を生んでしまったりすることさえあり得ます。たとえば、富野監督なんかは発言と発言の間にかなり距離がある方ですね。

――たしかに富野監督は、ワンセンテンス毎におっしゃることがバラバラなように感じることもありますね。

藤津:でも富野監督は真摯に何かを伝えようと話をされる方ですから、飛躍しているように思える発言でも必ず間に思考が挟まっていて関連があるんです。すごい速さで次の事を考えているから、発言だけ切り取ると飛躍しているように思えるんですね。その発言と発言の間にあるものをどうやって見つけるか、それが難しいんです。

富野監督は顕著な例ですが、こういった一見飛躍に思える会話は誰にでもあります。それを見つけてつなぐのが、論理を追うということです。

――ということは、その前提となる相手の真意を正しく理解することが特に重要になりますね。

藤津:そうです。それはもう考えて考えて考え抜きますね。
もうひとつ大事なことは、読んでいる方を飽きさせずに最後まで読んでもらうようにするということです。特に途中でダレないようにすることが重要だと思っています。

今回の本ではひとつのインタビューが大体12,000字くらいなんですが、最初の6,000字までに最初の代表作の話は入れるようにしました。
その他つかみとなる話題を盛り込んでいくと大体前半の6,000字が埋まって、後半6,000字では前半に盛り込めなかったみんなが聞きたいキャラクターの話、という構成にしています。
結果的には全てのケースでこの形になったわけではありませんが、基本としてはこういう形をイメージしていました。

――確かに最初に知っている作品やキャラクターの話があると読みやすいですし、読んでいて飽きないように後半にもそれが散りばめられるようにしているんですね。

藤津:最初に余談も含めてジワジワとくるものがあって、その後トントントントン! とテンションが上っていくと楽しく読めるだろうな、というような、割と擬音で表現できるようなイメージなんですよね。

そのリズムを作るために、僕はテキストエディターを20字詰めにしてあって、行数でトピックを管理しています。20字詰めで6,000字であれば300行目までに最初の代表作の話が入っていないとダメで、400行目になったら、トップヘビーな原稿になって、ちょっともったりしている印象になる。。その場合、前半に面白い話を盛り込んでいたとしても、前半を削ります。

――映画監督も観客の感情の変化やテンションのアップダウンを考えてシーンを作っていくと聞きますが、それと似ていますね。

藤津:記事を読むという行為でも時間が経過するので、読み手の気持ちをタイムラインに即して考えるという意味では同じですね。適切なタイミングで新鮮な情報が入ってくれば、その度にテンションを上げながらダレずに読めますよね。特に長い原稿は起こるべきイベントが起こるべき行にまとまっている必要があると思います。

――インタビューと執筆、それぞれかけるパワーのバランスはどのようにお考えですか?

藤津:取材と執筆の力のかけ方は半々くらいですね。ただ、インタビューがシミュレーションどおりにうまくいっていれば流れができているわけですから、執筆の負担は減ります。
逆に話が弾んだ場合などは、それを論理的な流れに整理して読み物として面白くなるよう起伏をつける必要が生まれるので、それは執筆段階での作業になります。そういう意味では、取材は実写映画の撮影と同じですね。

――現場でいろんな映像を撮っておいて、編集段階で流れのある一連の映像作品にする、ということですね。

藤津:そのとおりです。

――リズムや流れを作っていった上で、やはりオチは重要だと思うのですが、記事のオチの部分で重視されていることはありますか?

藤津:これもケースバイケースですが、インタビューの中でオチになりそうないいフレーズが出てくることがあるんです。今回の本では平田広明さん(『ワンピース』サンジ役や『TIGER & BUNNY』鏑木・T・虎徹役など)のインタビューの中で「一生懸命やるのが大事だ」「でもこの歳だから一生懸命やってるなんて言わないんですよ」という会話の後に「今充実していますか? 楽しいですか?」と聞いたところ「楽しいですよ。でもつまらなさそうにやりますけど」と。

――カッコいいですね!

藤津:平田さんの含羞というか「肩に力を入れてがんばってます! なんて人に見せるのはカッコ悪いんだ」というカッコよさが出ていますよね。だから、このお話をいただいた時には、即「この話題で終わろう!」と思いました。

――読み物として綺麗に終われるところをオチに持ってくるんですね。

藤津:特に本や雑誌のインタビュー記事であれば、それが理想ですよね。宣伝媒体やWeb記事などメディアが違えば、また違った形でもいいと思います。

■若手ライターが成長できる環境を
――藤津さんのお話から、インタビューとは会話を通じた共同作業であり、執筆はインタビュー相手と読み手の気持ちを考えて構成するもの、ということが見えてきました。最後に、これからインタビューを始めようという方に期待することなどはありますか?

藤津:若手ライターやこれから目指す方には、失敗を恐れずチャレンジしていただけたらなと思います。インタビューは失敗すればするだけ上手くなれるので。

また、そのためには編集部が論理的なフィードバックをする必要があります。「なんかつまんないんだよね」ではなく、「この箇所は論理が飛躍しています」「ここではもっと面白いお話がありましたよね?」という具体的な指摘です。

――ライターは編集部とのチームワークの中で成長するということですね。

藤津:僕自身、「SPA!」時代にはそれがあまりできていなくて反省も込めてそう思っています。

フリーになって以降は、若手に仕事をお願いした時は必ず自分がゲートキーパーとしてチェックをしますし、修正した箇所に理由を添えてフィードバックをするようにしています。沖本さん(同席していたアニメ!アニメ!編集部員)にもしましたっけ?

編集部沖本:はい、フリーライター時代、『名探偵ホームズ』の友永和秀さんのインタビュー記事のときに。

(その記事はコチラ>「名探偵ホームズ」友永和秀氏(作画監督・原画)インタビュー前編 みんなで新しいアニメを目指していた)

自分が書いた原稿の文字数の1.5倍くらいのロジカルな修正とコメントをいただきました……その節はありがとうございました!


藤津さんによるフィードバック原稿。赤字の密度から手厚い指導のほどを感じ取っていただきたい。

――結論としては、若者は失敗を恐れずチャレンジし、各編集部はきちんとフィードバックをして若手の成長を促してほしい、ということですね。

藤津:そういうことですね。アニメ!アニメ!編集部もぜひスケジュールに余裕を作って、ライターにもきちんと論理的なフィードバックをしてあげてほしいです。

編集部沖本:はい、肝に命じます! 本日はありがとうございました!

◆ ◆ ◆

今回、インタビューの極意を伺うという目的で藤津さんのお話を伺いました。ですが、「論理の筋道を分かりやすく整理する」「相手や読者はどう思うだろうということをシミュレーションする」「若手はチャレンジし、大人はその成長を促す」という藤津さんの考えやノウハウは、実はインタビューに限らず仕事全般や日々のコミュニケーションにも活かせるものだと感じました。
これからインタビューをしてみようという方はもちろん、いい文章を書きたい、人とよりよい会話をしたいとお考えの方も、ぜひノウハウの実践編として『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』を手に取って藤津さんのノウハウを活用してみてください。