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布袋寅泰は“自由”を楽しみ未来へ進む MWAMや高橋まこと&松井常松ともコラボした最新作に注目

2019年05月31日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 布袋寅泰が、『GUITARHYTHM』シリーズの10年ぶりとなる最新作『GUITARHYTHM Ⅵ』をリリースした。本作には、元BOØWYのメンバーである高橋まこと、松井常松をはじめ、Cornelius、MAN WITH A MISSIONらアーティスト、作詞家の森雪之丞、岩里祐穂、いしわたり淳治。さらに海外の名うてミュージシャンなどが多数参加し、シリーズ史上最高傑作との呼び声も高い。


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 布袋寅泰は、BOØWYのギタリストとして1981年にデビュー。BOØWYが東京ドームでラストライブ『LAST GIGS』を行った1988年10月に、アルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たした。映画『キル・ビル』のテーマ曲「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」などで世界的に知られ、現在はイギリスを拠点に活動。昨年はベルギー、フランス、イギリスなどヨーロッパ5カ国でツアーを開催するなどワールドワイドな活動を行っている。


■MAN WITH A MISSIONとロック問答


 この『GUITARHYTHM』シリーズは布袋のライフワークとも呼べるもので、これまでに5作をリリース。『GUITARHYTHM』という言葉は、「ギター」と「リズム」を合わせた造語で、8ビートを主体にリズミカルなサウンドを得意とした布袋のギタリストとしての特徴を言い表している。そのシリーズ最新作となる『GUITARHYTHM Ⅵ』は、シリーズのこれまでのどの作品よりも自由で、偉大な先達のロックミュージシャンへのリスペクトも感じさせる、デビューからの約40年を総括しながら未来を予感させる作品になった。


 SF映画のようなインタールード「Welcome 2 G VI」で幕を開ける『GUITARHYTHM Ⅵ』。続く「Middle Of The End」は、布袋の作品に数多く歌詞を提供してきた森雪乃丞が作詞を手がけ、まるで映画『ブレードランナー』のような世界感だ。後半のロマンチックなギターは、ハリソン・フォードが演じたデッカードとレプリカントのレイチェルが逃避行するラストを彷彿とさせる。他にも、エフェクティブなギターと前衛的なピアノが絡む、ロックの実験室といった雰囲気の「Clone(feat. Cornelius)」や、布袋らしい未来型ロックンロールの「202X」などが収録されている。


 MAN WITH A MISSION(以下、MWAM)と共演した「Give It To The Universe(feat.MAN WITH A MISSION)」もまた、どこかSF映画のような世界感だ。作詞作曲は布袋とJean-Ken Johnnyによる共作で、究極生命体であるMWAMから投げかけかけられる問いかけに布袋が答えるといった形で、互いのロックスピリットを戦わせる“ロック問答”といった様相を呈している。


 MVでは、布袋の目がオオカミの目になり、MWAMのメンバーの顔に布袋のトレードマークである幾何学模様が刻まれていく。ロックの熱いスピリットを持った両者が融合していく様子が表現された。ヘヴィロックをベースにしたサウンドはMWAMらしさ溢れるものだが、布袋のリズミカルなギターが加わったことで、これまでのMWAMとも違ったテイストになっており、見事な化学反応を引き起こしたと言える。また、間奏では布袋の多彩なテクニックも堪能することができる。布袋とJean-Ken Johnnyによるギターソロのかけ合いがインタープレイといった雰囲気で、実にスリリングだ。ポイントで登場する〈Woo oh oh oh oh〉と歌うコーラスも、アンセム感たっぷりでライブ映えすること間違いない。


■「Thanks a Lot」はBOØWY世代への賛歌


 このアルバムには、過去の経験やその時の感情を思い出しながら、ただそれを懐かしむのではなく、それらを胸に抱き未来へ進んでいこうという気持ちが表現された楽曲も多数収録された。例えば「Shape Of Pain」は、布袋と共に今井美樹の楽曲を支えてきた岩里祐穂が作詞を担当している。岩里が布袋の作品に歌詞を提供するのは、2013年のアルバム『COME RAIN COME SHINE』以来6年ぶり。過去の恋愛をドラマチックな言葉で歌った歌詞ではあるが、胸の奥に今も眠っている情熱を呼び覚まされるような感覚になるのは、BOØWY時代を彷彿とさせる8ビートと、どこか80年代を彷彿とさせる独特なシンセの音色などのサウンド感によるところが大きいだろう。


 さらに「Thanks a Lot」には、かつて共にシーンを駆け抜けた、高橋まこと(Dr)と松井常松(Ba)が参加した。それぞれがライブなどで共演することはこれまでにもあったが、3人がレコーディングを共に行ったのは実に31年ぶりのこと。レコーディングと映像撮影は、ロンドンで行われた。ロンドンは、現在布袋が居住する土地であると同時に、かつてBOØWYとしてマーキークラブでライブを行ったことから3人にとっての思い出の地でもあり、布袋に影響を与えた偉大なロックミュージシャンを数多く生んだ国でもある。この楽曲が初期衝動を感じさせるのは、ロンドンという街には布袋の思いと記憶が刻み込まれているからだろう。


 青春を感じさせる爽やかなイントロ、そこから一転階段を駆け下りるようなフレージング、メランコリックなメロディライン、リズミカルに奏でられるギターカッティング……。高橋と松井によるタイトなビートと三位一体となったサウンドの随所には、BOØWYを彷彿とさせるパーツが散りばめられ、これを聴いた40~50代のBOØWY世代は、きっと血が沸くような熱さを感じたことだろう。歌詞に出てくる〈俺たち〉とは、布袋と高橋、松井のことであり、あの頃の気持ちは決して色褪せてはいない、だからお前達も一緒に行こうぜ! と、青春を共に過ごしたリスナーたちに呼びかけてくる。〈限りある時間を無駄にはしない〉など、フレーズの言葉一つ一つが実に胸に響くものばかりで、布袋と共に時代を過ごしてきたBOØWY世代への賛歌だと言える。


 『GUITARHYTHM Ⅵ』の特設サイトを開くと、ロゴマークと共に「自由になれよ。」という一言が表示される。ソロデビューから31年、激動する時代の流れの中で自由でいることは実に困難だったはず。しかし背中を押したのは、後悔はしたくないという思い。「Thanks a Lot」では〈夢を追いかけていた あの日の自分が今も 心の奥で 叫び続けている〉と歌っている。在りし日の経験と感情を携えながらまだ見ぬ新たな自由へと導く、実にフューチャリスティックな作品だ。(榑林史章)