誰がマルケスに戦いを仕掛けることができるだろうか? それはおそらくルーキーのファビオ・クアルタラロだろう。母国フランスでの初めてのMotoGPレースでは内容が芳しくなかったことを示している。しかし、現実を理解するためには、時には結果を超えたところを見なければならない。
20歳のクアルタラロは予選で10番手となり、レースを8位でフィニッシュした。第4戦スペインGPでの歴史的なポールポジション獲得から2週間後、第5戦フランスGPでのグリッド位置は4列目となったが、それは予選セッションが雨の影響を受けたためだ。
クアルタラロはスリックタイヤで予選をスタートしたが、レインタイヤに履き替えることになった。それはクアルタラロにとってMotoGPバイクで雨の中を走る初めての日だった。だから予選10位はそれほど悪くない。
決勝日、クアルタラロはスタートでしくじり、2コーナーではあやうくクラッシュするところだった。
「フロントのコントロールを完全に失っていた。そのせいで順位が下がってしまった」とクアルタラロは語った。
オープニングラップの終わりまでに、クアルタラロは15位まで後退した。首位のマルケスとは3秒の差がついており、大きく挽回しなければならなかった。
そのような状況では、多くの若手ライダーは気が動転してしまうものだ。新たなヒーローとして臨む母国GPで、観衆の半分が自分に多くを期待しているのだ。だがクアルタラロはレースウイークを通して冷静さと落ち着きと集中を保ち、たとえレースがうまくいかない時も変わらなかった。
レースも4分の3を迎える頃、クアルタラロはマルケスのベストタイムより0.007秒速い最速ラップタイムを叩き出した。このタイムは重要だった。なぜならクアルタラロの驚くべきスピードを再度示したことになるからだ。
クアルタラロはスペインGPでのポールポジション、カタールGPでの最速ラップ、そしてフランスGPでまたしても最速ラップを出したのだ。
■決勝レースでクアルタラロが使った一種の“ずる”
一方で、クアルタラロはずるをした。まあ、一種のずるだ。
「僕はやるべきでないことをやってしまった」とクアルタラロはにやりと笑った。
「マッピングをタイムアタック(予選用マッピング)のものに切り替えたんだ。僕は『OK、やってみよう』と言った。もしタイヤがダメになったら、それは自分の問題だ」
「(アレックス)リンスを抜いた時、限界までプッシュしていて、タイムアタック用のマッピングをさらに使うことができた。マッピングに適応するのはそれほど大きな問題ではなかった。僕は本当に限界だったんだ」
「このマッピングだと、加速時にバイクがスピンしやすくなるが、それはライディングスタイルで制御できた。このマッピングでバイクに乗るのは身体的にとても厳しかった。だからレースが終わった時はうれしかった!」
「僕が学んでいる主なことは、タイヤの労わり方だ。今年の初めには、加速時にめちゃくちゃにプッシュしてラップタイムを出していた。だからタイヤがよくスピンしていたんだ」
「でも今は違うやり方でラッップタイムを出している。それは加速時よりもコーナースピードとブレーキングでだ。だから今年の初めとは逆のことをやっている。MotoGPでのレースはまだ5戦目だ。こういうことを毎回のレースで学べるよう願っているよ」
クアルタラロはマルケスから8.4秒遅れでチェッカーフラッグを受けた。2周目からフィニッシュするまでのクアルタラロの平均ラップタイムは、集団のなかで進路を確保しようとしていたこともあり、マルケスよりコンマ2秒遅かった。
「(決勝で)できたかもしれないことについては考えたくない。このペースを出せていたのだから、もっと上の結果が欲しかった。でも僕たちは冷静になり、目標に到達するよ」
母国レースにおいて、その国のヒーローは結果を出せないことが多い。特に若きヒーローはそうだ。クアルタラロが、賢明かつ悪賢いウィルコ・ズィーレンベルグ率いるペトロナス・ヤマハSRTのクルーを称賛する理由はそこにある。
「母国GPでプレッシャーを感じなかったのは本当に今年が初めてなんだ」とクアルタラロは付け加えた。
「チームや周囲の人たちが、僕をリラックスさせてくれた。でももちろん僕は多くのファンがいたことを楽しんだよ。母国GPへどう自分が対処したかについては、本当に満足している」
不吉なことを言うつもりはないが、クアルタラロがMotoGPバイクでまだクラッシュしていないことは、注目に値する。2019年はこれまでのところ、ルーキーのジョアン・ミルが8回転倒してる。一方で、ジャック・ミラーは7回、マルケスは6回だ。このことはクアルタラロの才能の大きさについて多くを物語っているだろう。