川崎市で起きたカリタス小学校の児童らを狙った殺傷事件の報道を受け、ひきこもり当事者の支援団体「ひきこもりUX会議」は5月31日、声明文を発表した。
市は29日に開いた会見で、容疑者である50代男性が長期間仕事に就かず「ひきこもり傾向」で、「直接の会話がほとんどない状態」だったと明かしている。親族が訪問介護のスタッフを家に入れるにあたり、容疑者のことを気にして市の精神保健福祉センターに相談していたこと、容疑者に小遣いを渡していたことなども明かされた。
団体はこれらの報道について、
「これらが事実であったとしても、ひきこもっていたことと殺傷事件を起こしたことを憶測や先入観で関連付ける報道がなされていることに強い危惧」
「『ひきこもるような人間だから事件を起こした』とも受け取れるような報道は、無関係のひきこもり当事者を深く傷つけ、誤解と偏見を助長するもの」
として、公平な報道を求めた。
当事者や家族が追い詰められ「不安や絶望を深めかねない」
団体は、「これまでもひきこもりがちな状態にあった人物が刑事事件を起こすたび、メディアで『ひきこもり』と犯罪が結び付けられ『犯罪者予備軍』のような負のイメージが繰り返し生産されてきた」と指摘する。「ひきこもり」への誤ったイメージが作られ続ければ、当事者や家族が追いつめられ「社会とつながることへの不安や絶望を深めてしまいかねません」とも懸念した。
ひきこもり当事者とその家族の高齢化を受け、50代になった当事者を80代の親や親族が面倒を見る社会状況を「8050問題」という。事件の報道では、事件の内容と8050問題を絡め、「まさに8050問題」と表現するような例もあったという。そのため、
「報道倫理に則り、偏った不公正な内容や、事件とひきこもりを短絡的に結びつけるような報道はしないことを報道機関各社に求め、『ひきこもり』や『8050問題』に対して誤った認識や差別が助長されないよう、慎重な対応を求めます」
と呼びかけた。
また、報道の際に有識者や専門家だけでなく、ひきこもり当事者・経験者の声を取り上げることも要請した。「当事者不在で『ひきこもり』が語られ、実態に即さないイメージが拡大していくことは、さらなる誤解と偏見を引き起こす」ためだと主張している。