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乃木坂46、欅坂46、日向坂46――同性も惹きつける彼女たちの「坂道性」

2019年05月31日 12:41  CINRA.NET

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乃木坂46
昨夏に『坂道合同オーディション』が行なわれ、今年の3月にはNHK『坂道テレビ ~乃木と欅と日向~』が放送され、雑誌『Seventeen』には「坂道系女子」になるためのあれこれを紹介するコーナーが設けられ、7月末から合同企画『ザンビ』の第5弾が始動するなど、乃木坂46、欅坂46、日向坂46(と吉本坂46)という、いずれも秋元康がプロデュースする個々のグループの垣根を超えて「坂道シリーズ」というブランド自体によりいっそうの注目が集まっていると感じられる昨今、ここではそれぞれの違いを踏まえつつ、その彼方にある「坂道性」を探っていきたい。

■乃木坂46、欅坂46、日向坂46の成り立ちと、グループのロゴにも象徴される関係性

坂道シリーズの先陣を切り、その姿を目にしない日はないほど、いまなおその勢力図を拡大し続ける乃木坂46がAKB48の公式ライバルとして誕生したのはいまからおよそ8年前の2011年8月のことであり、その4年後の2015年8月に欅坂46が結成されたのも束の間、同年11月には、先日欅坂46からの卒業を発表した長濱ねるだけのためにけやき坂46が発足し、欅坂46のアンダーですらない自らの存在意義を問い続ける不遇の時代を経て、けやき坂46は2019年2月に晴れて日向坂46と改名した。現時点でのメンバー数は乃木坂46が46人、欅坂46が27人、日向坂46が21人となる。

グループ名の由来は乃木坂46が赤坂の乃木坂、欅坂46が六本木のけやき坂通り、日向坂46が三田の日向坂(ひゅうがざか)という実在の坂とされ、それぞれのグループのイメージカラーを基調とした(左下の内角が46度らしい)三角形のロゴは、乃木坂46が紫、欅坂46(とけやき坂46)が紫の上に緑、日向坂46が紫の上に空色(吉本坂46が紫の上の緑の上に橙)となっており、日向坂46のロゴの誕生によって、日向坂46が欅坂46ではなく、欅坂46と同じく乃木坂46の直系であり、両者が双子的な関係にあることが視覚的に示された。

シングルのタイトル曲を歌うメンバーは、乃木坂46が選抜制であるのに対して、欅坂46と日向坂46ではメンバー全員が参加する「全員選抜制」が採られており、センターは乃木坂46と日向坂46(けやき坂46時代も)が流動的であるのに対して、欅坂46は8枚連続で平手友梨奈が務めている。

楽曲のパフォーマンスやPVの見せ方としては、前の世代を受け継ぎながら新たな物語を紡いでいるという意味で最も「伝統校感」の強い乃木坂46は髪の毛で顔が見えなくなるほど激しいダンスはしないが、常に深読みを誘う欅坂46はライブ会場や映像自体がそもそも暗めで、激しいダンスもあって顔を見せることに重きを置いていない。そして、ときおり激しめのダンスを採り入れつつウインクなどのサービスを忘れない両者のハイブリッドであるような日向坂46は、坂道シリーズで唯一メンバー自身がファンの総称を「おひさま」と発信してファンとの結束力を高めようとするなど、より「アイドル」的な存在を目指しているように映る、というようにそれぞれ重なる部分があるにせよ棲み分けができている。

■『Seventeen』『CanCam』『non-no』……ファッション誌のモデルも多数。女性から支持される坂道グループ

LINEが1月に発表したアンケート調査「女性アイドルグループ 最新の人気ランキング 2019」(出典:LINEリサーチ)では、1位に乃木坂46、4位に欅坂46がランクインしており、ファン層の男女比率は乃木坂46が男性69.6%、女性30.4%、欅坂46が男性52.3%、女性47.7%となっている。久保史緒里(乃木坂46)と小坂菜緒(日向坂46)が専属モデルを務める『Seventeen』の読者層でもある10代女性では欅坂46が1位、乃木坂46が僅差で2位、20代女性では乃木坂46が1位、欅坂46が3位を獲得している。改名前のけやき坂46の最高ランキングは10代男性と20代男性の8位である。

5月18日放送のNHK『シブヤノオト』でも乃木坂46のアートワーク展『乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展』に訪れる女性ファンの多さが強調されていたが、坂道シリーズが女性にも注目される要因のひとつとして、『Seventeen』の久保史緒里、小坂菜緒だけでなく、乃木坂46から『sweet』の齋藤飛鳥、『CanCam』の山下美月、『ar』の堀未央奈、『with』の梅澤美波、『MAQUIA』『bis』の与田祐希、欅坂46から『with』の小林由依、『JJ』の土生瑞穂、『non-no』の渡邉理佐、『Ray』『LARME』の渡辺梨加、日向坂46から『Ray』の佐々木久美、『non-no』の佐々木美玲、『CanCam』の加藤史帆、『JJ』の高本彩花など、女性ファッション誌の専属ないしレギュラーモデルを輩出していることが挙げられるだろう。

■共通するイメージは「清楚さ」? 「全方位モテ」「ちょい高嶺の花感」の坂道系女子

『Seventeen』4月号の「男女2万人がガチ投票☆いま学校で友だちになりたいのはこんなコ♡Best of 人気者JK大はっぴょー!!!」というコーナーでは、1位に「坂道系JK」がランクインしており、「清楚で品のあるかわいいコ=坂道系女子」という定義と共に、日向坂46の最新シングルのタイトル曲“キュン”でセンターを務める小坂菜緒が誌面を飾っており、そこには「男子からはちょい高嶺の花感のある上品な王道制服女子」といった記述も見られる。

同5月号の「両モテ確実♡坂道スクールメイク」「サラツヤ坂道ストレート髪&制服美少女ヘアアレ」および6月号の「坂道系&韓国っぽ どっちもいける♡トレンド服」というコーナーには、「両モテ確実」「みんなに愛される」「優等生」「ハッピー感」「かわいい」「やわらかな雰囲気」「好感度ばつぐん」「透明感ある白肌」「清楚な幸せ感」「ふんわりピュア」「クールビューティー」「“今めっちゃなりたいテイスト”」「最高清楚」「シンプル無地コーデ」「全方位モテ」「清潔感」「お嬢様っぽく」「清純派」「優し気なカラー」「凛とした女性らしさ」「王道」「上品」「脚以外は露出控えめで♡」「キュート」「まろやかな印象」といったワードが並ぶ。

「全方位モテ」が期待される「坂道系女子」になるための要素には、乃木坂46に言われるような「清楚さ」だけでなく、欅坂46に言われるような「クール」、日向坂46に言われるような「ハッピー」といったワードも入っているが、「清楚で品のあるかわいいコ=坂道系女子」という定義からもわかるように、ここで想定される「坂道系女子」のエッセンスとはなによりもまず「清楚に見えること」であり、欅坂46も日向坂46も乃木坂46の妹である限りにおいて「清楚さ」を纏ったうえでそれぞれの色を出している。

■制服のスカートに織り込まれた夢と儚さ

5月29日リリースの乃木坂46の23rdシングル『Sing Out !』に収録されている、昨年11月に加入した4期生にとって初のユニット曲“4番目の光”には<遠くから憧れていた その清楚で凛々しい先輩の姿 坂道のあの高校と 同じ制服を着たい その夢が叶った>と歌われる歌詞があり、2012年発表の乃木坂46のデビュー曲“ぐるぐるカーテン”のPV(監督は操上和美)を彷彿とさせるPV(監督は月田茂)には、学校を舞台に「4番目の光」としての4期生たちが坂道を上る姿などが描かれている。

「清楚で凛々しい先輩」が着ている坂道シリーズの制服は原色ではなく間色を基調とし、新調されるたびに長くなっているような気さえするスカートは、身長にかかわらず床丈基準で揃えられており、細部まで作り込まれた制服には、“4番目の光”の歌詞に<坂道を今 すれ違う 卒業生がやさしく頑張れと微笑む。とあるように、アイドルにはやがて必ず卒業の日が訪れるという儚さが織り込まれている。こうした坂道シリーズの制服(衣装)の要素は、AKB48グループのSTU48ほか多くのアイドルグループに採り入れられている。

■活動の場としての「坂道」。簡単に「会いに行けない」からこその距離感

坂道シリーズの主な活動場所は、ドーム、アリーナ、ホールなどのライブや握手会会場、テレビ、広告、CM、雑誌、舞台、映像作品、ラジオなど多岐にわたり、AKB48グループがそれぞれ備えるような「劇場」を持たない代わりに、それら全てが「坂道」という活動の場となる。劇場を持たないことで「会いに行ける感」は薄まるが、そのことと坂道シリーズが体現している「清楚さ」は無関係ではなく、そうした距離感こそが「坂道」を上った先にある、しかし「坂道」であるというまさにそのことによって決して辿り着くことのできない「(ちょい)高嶺の花感」を醸し出している。

かつて坪内逍遥、正岡子規らが暮らした本郷の炭団坂が「近代文学発祥の坂道」とされるように、「坂道」とは「物語」が生まれる場所であり、江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』のようにタイトルに「坂」を冠した作品も多数ある。「坂道」が物語を生み出す場であるのは、ときに険しく、ときになだらかになりつつも常に起伏を内包し、決して平坦になることはないからである。だから「坂道」は「清楚さ」と反するが、そうした相反する要素を縦糸と横糸のように織り合わせることで坂道シリーズは各々独自の物語を紡いでいる。

昨年の11月に『坂道合同オーディション』での配属が決まった乃木坂46の4期生11人、欅坂46の2期生9人、日向坂46(加入時はけやき坂46)の唯一の3期生である上村ひなの、という新たな風と共に坂道シリーズがどのような「坂」を描いていくのか、観察を続けたい。

(文/原友昭)