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社会を変える「みんなの訴訟」を作ろう 支援プラットフォーム「Call4」運営弁護士の思い

2019年05月31日 10:41  弁護士ドットコム

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クラウドファンディングなどを通じて、社会課題の解決を目指す訴訟を支えるウェブプラットフォーム「Call4」(https://www.call4.jp)が立ち上がった。入管収容所に収容中のカメルーン人男性が死亡した事件の国家賠償請求訴訟や、同性婚訴訟、5月28日に東京地裁で違憲判決が言い渡された海外在住日本人の裁判官国民審査権の確認訴訟など、社会性の強い訴訟について、支援を呼びかけている。


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運営しているのは、3人の弁護士が理事を務める社団法人「Citizen’s Platform for Justice」。今年2月に開設した。サイト名の「Call4」には、社会を形成するのに必要な立法、行政、司法の三権に加え、4番目の力として「人々の共感」を求めて呼ぶという意味が込められている。



●訴訟の背景にある物語を伝える「ストーリー」も

サイトの中核的な機能は、訴訟費用として市民から一口500円以上の支援を募る「クラウドファンディング」だ。各案件の登録には、忙しい弁護士でも手間なく準備できるテンプレートがあり、デザインやリターン(支援者への謝礼)に頭を悩ませる必要はない。



ただし「クラウドファンディングだけのサイトではない」と、代表理事の谷口太規弁護士は強調する。各案件のページでは、訴訟に必要な知見や人材を募集できたり、自由な意見を投稿できたりとさまざまな役割を果たす掲示板「ボード」がある。



市民の関心や共感を高めるよう、プロのライターや写真家が原告などを取材し、訴訟の背景にある人物の物語を伝える「ストーリー」の掲載もある。「訴訟資料」の公開機能もあり、準備書面や上告理由書等、弁護団の知の結晶とも言える書面を社会に発信することができる。いずれも、「何か役立ちたい」と考える市民と弁護団とをつなぐ機能だ。



「一般の人が『あの訴訟』と他人事でしか考えていなかった訴訟を、『自分たちの訴訟』と考えてもらえればいいなと思います。各機能は、一般の人にも当事者意識を持っていただく各論でしかない。リターンは、社会を変えること。多くの人がアクセスし、『社会課題の解決をめざす訴訟』が盛り上がればいいと思っています」(谷口弁護士)



●米国留学で感じた「ディスカッションする場」としての司法

谷口弁護士と、もう1人の立ち上げメンバーである井桁大介弁護士は、一般民事事件などの傍ら「社会課題の解決をめざす訴訟」に携わり、米国への留学経験があるという共通点がある。渡米経験もサイトの立ち上げに大きく影響した。谷口弁護士は3年間の米国留学から帰国後、「より良い社会のためにディスカッションする場が司法」であることを強く感じたという。



「アメリカから帰ってきて子どもを遊ばせようと公園に行ったら、遊具がすごく少なくなっていると思ったんです。では遊具をなくしているのは誰なんだろうと。まちづくりの問題であると共に、この問題は、実は子どもたちの発達の権利にも関係しているかもしれない。



夫婦別姓の問題を例にしても、同姓を強制されるのはおかしいと思っている既婚女性が多くても『訴訟するのはちょっと』と躊躇う人が大半ですよね。



誰もがちょっとおかしいと思っても、普通の人はなかなか声を上げられない。もっと気軽に訴訟に参加できる環境を作るためには、ディスカッションできる場がまずは必要であると思ったのです」(谷口弁護士)



●手間と労力を減らすサイト設計

クラウドファンディングのサイトは多数あるが、弁護士が「Call4」を利用する最大のメリットは、その手軽さだ。「訴訟ケース」を登録申請し、要件を満たせば数日で掲載がスタートする。



「掲載の要件は3つだけです。1つ目は、国や自治体を相手とする訴訟であること。2つ目は、例外もありますが、原告や原告の承認を得た支援団体が主体となること。このとき、すでに代理人がついて訴訟が係属しているか、まもなく係属する必要があります。



3つ目は、『社会課題の解決をめざす訴訟』であること。以上です。3つ目の要件は少し抽象的で議論があるところですが、基本的には緩めに考えています。なお、刑事事件については、現段階ではメインの争点が法律上の問題であることを要件としています」(井桁弁護士)



事件の掲載担当者に課される要件もシンプルだ。



「担当者にお願いしていることは、大きく2つだけです。1つは、期日ごとに進捗を報告すること。もう1つは、プライバシー情報に配慮した上で、訴訟資料を公開することです」(井桁弁護士)



クラウドファンディングにおける目標金額は設定されるが、目標に達成しなくても集まった金額は全て弁護団に支払われる「オールイン方式」が取られ、「Call4」が手数料を取ることもないためマイナスはない。必要な手数料はクレジットカードの手数料だけだ。これは同サイトならではの特徴であり、市民の善意が、そのまま弁護団の元に届けられる仕組みとなっている。



●市民や弁護団の議論を活発化させる仕組みに

いよいよ動き出したが課題もある。



「一番は、周知の問題です。市民に知ってもらわなければならない。我々は今、ウェブマーケティングの専門家にアクセス向上の知恵を共有してもらうほか、積極的にメディアや他の団体と連携して、発信できるようにしていこうとしています」(井桁弁護士)



今後、過去の公共訴訟を掘り起こし、訴訟資料を公開する機能も高める。国が廃棄したことが明るみになった「レペタ事件」や「在外日本人選挙権剥奪訴訟」などの訴訟資料も関係者から入手し、順次公開していく予定だ。井桁弁護士は「いずれ、主要な公共訴訟の資料が見られるアーカイブ機能になれば」と話す。



そのほか、「ボード」機能を活性化し、市民や弁護団で議論が活発化される仕組みも根付かせる必要がある。



井桁弁護士は「訴訟は、社会を変えていく大事な手段です。おかしいことが起きていると思ったら、選挙に行くみたいに気楽に訴訟に参加しましょう」と呼びかけている。