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世界的ホラーアイコン『貞子』は、日本映画界きっての「孝行娘」!?

2019年05月30日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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  先週末の映画動員ランキングは、前週1位の『コンフィデンスマンJP』が土日2日間で動員25万8000人、興収3億5100万円をあげて2週連続1位に。興収は前週比91%と、かなりの高推移で好調を維持している。初登場作品で最上位につけたのは2位の『空母いぶき』。土日2日間で動員19万4000人、興収2億4600万円。キノフィルム配給作品としては過去最大規模の331スクリーンでの公開と大きな期待がかけられていた作品だったが、大ヒット・スタートとはいかなかった。


参考:池田エライザ×清水尋也が明かす、映画『貞子』を通して気づいたこと 「なるべく嘘がないように」


 今週注目したいのは、動員ランキング4位初登場の『貞子』。言うまでもなく鈴木光司の『リング』を原作&源流とする、1998年から始まった『リング』フランチャイズ映画の最新作にして、日本製作の作品としては『貞子3D2』以来6年ぶりの作品なわけだが、土日2日間で動員11万8000人、興収1億6400万円、初日からの3日間で動員15万2000人、興収2億1000万円という数字をどう見るか。


 「日本製作の作品としては」というのは他でもない、『リング』及びそこから生み出された「貞子」のキャラクターは本作を入れて過去に日本で7作品(2016年のクロスオーバー作品『貞子vs伽椰子』を含めると8作品)、韓国で1作品、アメリカで3作品が製作されている日本発のグローバル・コンテンツ。今回の『貞子』では映画としてはオリジナルとなる日本版『リング』の中田秀夫が久々に監督を務めたことが話題となったが、中田秀夫監督がこれまで手がけたのは日本版『リング』(1998年)、日本版『リング2』(1999年)、アメリカ版『ザ・リング2』(2005年)の3作品。今回の『貞子』は14年ぶり4作目となる。ちなみにアメリカ版『ザ・リング2』は2005年5月の第3週に全米ボックスオフィス1位に初登場。中田秀夫監督は過去にたった二人しかいない全米1位を獲得したことがある日本人監督でもあるのだ(もう一人はアメリカ版『THE JUON/呪怨』の清水崇監督)。


 ちなみに日本国内において最も興収を稼いだ『リング』フランチャイズは、1999年公開の『リング2』(『死国』と併映)で21億円(当時発表されている数字は興行収入ではなく配給収入。興行収入では推定約40億円)。なんと、その年の実写日本映画の年間1位に輝いている。それ以降も、日本だけでクロスオーバー作品も含めて5作品が製作されてきたわけだが、時が経つにつれて大ヒットシリーズというより、比較的低予算の製作費で手堅く稼ぐことができるフランチャイズとして定着していった。


 直接の前作にあたる『貞子3D2』(2013年)のオープニング土日2日間の成績は動員11万4000人、興収1億6100万円。直近の関連作『貞子vs伽椰子』(2016年)のオープニング2日間の成績は動員14万1000人、興収1億9900万円。今回の『貞子』が金曜日公開であることを勘案すると、それらとほぼ横並びの、フランチャイズとしての恐るべき安定感を示していることがわかる。海外でも日本でも、ホラー映画の観客の中心層は10代から20代のカップルや友達同士。21年に及ぶ『リング』フランチャイズの歴史においては、当然のように何度も世代交代があったはず。ホームランを飛ばすわけではないが、それでも打席が回ってくれば確実に塁に出る「貞子」。そんな日本映画界の「孝行娘」に、恐ろしさよりも愛らしさを覚えるのは自分だけだろうか。(宇野維正)