2019年05月29日 11:41 弁護士ドットコム
登校途中の児童17人と保護者2人の計19人が男性に刺される事件が5月28日、川崎・登戸で発生した。男性は直後に自殺した。報道によれば、神奈川県警は男性を殺人容疑などで捜査していくという。
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今回のように、被疑者が死亡している場合、刑事手続はどのように進むのか。元警察官僚で、刑事事件に詳しい澤井康生弁護士に聞いた。
ーー被疑者が死亡している場合、一般的に刑事手続はどのように進むのか
「被疑者が死亡している場合には逮捕、勾留などの身柄拘束ができないので、身柄拘束をしない在宅事件と同じように捜査をおこなうことになります。
具体的には、被害者の方(亡くなられた被害者の方の場合にはご遺族)や目撃者から事情聴取をおこなって参考人供述調書を作成したり、防犯カメラの映像を入手したり、実況見分をおこなったりして事件の全容の解明に努めます。
これに対し、被疑者に対する捜査としては身元の確認、前科前歴の有無、通院歴の有無、親族や勤務先への聞き込み捜査による動機の解明、自宅にパソコンを所持していた場合にはその解析、携帯電話の通話履歴やメール履歴の確認、凶器の入手経路、犯行に至るまでの行動などについて捜査をおこないます」
ーー被疑者が死亡していても、書類送検されるのだろうか
「警察官は犯罪の捜査をした場合には、例外的な場合を除き、原則として全ての事件を検察官に送致しなければならないとされています(全件送致主義、刑事訴訟法246条)。
犯罪を捜査した後に被疑者を起訴するか不起訴とするかの決定権限を検察官がもっていることから(同法247条)、警察が捜査した事件は最終的にすべて検察官に送致しなければならないのです。
したがって、被疑者が死亡している場合であっても、全件送致主義に基づいて事件を検察官に送致することになります。
被疑者死亡で書類送検を受けた検察官は、警察の捜査に足りない点があれば補充捜査を指示しますが、最終的に被疑者死亡により不起訴処分とします。被疑者が死亡した場合には訴訟条件が欠け(刑事裁判にかけるための要件がなくなってしまう)、たとえ起訴したとしても公訴棄却となるからです(同法339条4号)」
ーー被疑者が死亡した場合、どのような問題があるのか
「被疑者本人の供述を得ることが全くできなくなってしまうので、犯行動機や凶器の入手経路を突き止めることが難しくなります。また、万が一共犯者がいた場合には、共犯者に対する捜査が困難になるなどの問題点が生じます。
警察は、被疑者の供述以外の証拠等(証人も含め)を収集することによって、事件の全容解明を図ることになります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:弁護士法人海星事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kaisei-gr.jp/partners.html