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『パーフェクトワールド』は新たな展開に 松坂桃李×山本美月が目指す「心のバリアフリー」とは?

2019年05月29日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「障がい持ってる方が壁を作ったら、相手は入ってこようにも入ってこれない。それを取っ払うのが、心のバリアフリーってやつじゃないの?」。元久(松重豊)からの願いを受けて、悩みに悩んだ末につぐみ(山本美月)に別れを告げたものの、その後悔を抱えている樹(松坂桃李)。そんな彼に対して晴人(松村北斗)が語る「心のバリアフリー」というキーワード。これはこの『パーフェクトワールド』(カンテレ・フジテレビ系)というドラマの後半を支える最も大きなテーマとなるのではないだろうか。


参考:場面写真はこちらから


 28日に放送された第6話から、物語の第2章と呼べる新たな展開が幕を開けた。東京を後にし、松本に帰ったつぐみ。そんなつぐみを支えようと、樹への想いを拭い去れていないことをわかりながらプロポーズする是枝(瀬戸康史)。樹への長年積み重ねてきた想いをとうとう告白する長沢(中村ゆり)。偶然の出会いを果たし、運命的なものを感じながらもしおり(岡崎紗絵)に「好きな人がいるから」とあっさり振られてしまう晴人。登場人物それぞれの物語が、これまでより一歩先に進む中で、樹だけは元の位置に滞ってしまっているように思える。


 これまでの、第1章と括ることができる部分では高校時代の片想い相手である樹と再会したつぐみが、樹が障がいを背負って生活している状況を受け入れながら、いかにして彼を支えることができるのか模索していく様が描かれてきた。その模索の最中で、つぐみの父・元久の想いを聞かされ、自ら身を引く決意をした樹。言うなれば、第1章は「健常者が障がい者を受け入れ理解すること」を描くという健常者側の目線を軸としてきたのに対し、今回からの第2章では「健常者とどう向き合い、自分の心をどのようにして開いていくか」という、障がいを持つ側の内面的な部分へとフォーカスしていくものへと変化していくのではないだろうか。


 そうした中で、原作でも物語の極めて重要な部分を担っていた高木夫妻が登場する。インテリアデザイナーとして働き始めたつぐみは、美姫(水沢エレナ)の紹介で高木圭吾(山中崇史)と知り合う。彼の妻・楓は進行性の病を抱え、まもなく車椅子生活になるというのだ。そこで圭吾は、2人の家を建てたいという楓の夢を叶えるため、貯金をすべてつぎ込んで家を建てることを決意する。しかし楓は、何年生きられるかわからない自分のために圭吾が犠牲になっているのではないかと考え、彼の決意にためらいを感じるようになるのだ。


 そんな圭吾は、偶然にもバリアフリーの住宅設計を依頼しようと樹のもとを訪ねていた。樹はその依頼を断るのだが、何か助言できることはないかと考える。それは、圭吾が楓のためにしようとしていること、つまり自分のすべてを犠牲にしてでも相手に尽くすという愛情の示し方が、つぐみが樹へ向けた愛情の示し方と重なっていたからだ。そして樹が「パートナーに負担をかけたくない。介護が必要な人間にとって共通の想い」だと語っていたように、楓もまた圭吾の負担になりたくないと願っているのだと見抜いている樹。しかしそれは、前述の晴人の言葉にあったように、様々な負担をかけてしまっているという負い目から、パートナーに対して“壁”を作っているのと同じである。


 もともと樹自身は、「相手に迷惑をかけられない」という考えから恋愛すること自体を諦めていた。その壁を取り払ったのはつぐみであり、一度は “心のバリアフリー”が2人の間にできたのは、健常者側から障がい者に向けられていた“理解”や“受容”という壁をつぐみが突破したからに他ならない。しかしまた、つぐみのことを想うあまり再び現れることになった樹の側からの高い壁。それを樹自身がどのように乗り越えていくのか。そして愛する相手と一緒にいることが夢だと、楓に強く説く圭吾の想いを目の当たりにしたつぐみが、樹とどう向き合うようになるのか。このドラマの第2章は、より深い部分で、つぐみと樹の2人の物語が描かれることになるだろう。 (文=久保田和馬)