今年のF1第6戦モナコGPは、60周以上に渡って、トップのルイス・ハミルトン(メルセデス)と2番手のマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)による優勝争いが繰り広げられた。彼らはふたりとも、2つの戦いを演じていた。ひとつはバトルしている相手で、もうひとつは自分との戦いだった。
2つ目の戦いは、ふたりともピットストップでのミスが原因だった。同時にピットインしたレッドブルとフェラーリはハードコンパウンドを選択したのに対して、メルセデスはミディアムコンパウンドをふたりのドライバーに装着させた。
レースが再開してしばらくすると、ハミルトンが自分が履いているタイヤが間違ったタイヤだと悟り、無線でピットに何度も不安な胸の内を明かしていた。
「もう、完全にタイヤが終わった。これで勝てたら、奇跡だ……」
そのハミルトンを追うフェルスタッペンが犯したミスは、トルクモードの設定変更だった。現在のF1はピットアウト時に最速かつ安全に発進できるようスタート用のトルクマップが割り当てられている。ただし、これはピットアウト時にしか必要のないマップなので、レース中、ピットアウトした後はすぐに通常の走行モードのいずれかに変更しなければならないというレギュレーションになっている。
ところが、フェルスタッペンはピットアウト時にバルテリ・ボッタス(メルセデス)と接触するというアクシデントがあり、その後もボッタスとピットレーン出口まで並走していたため、その設定を変更し忘れてしまった。
■ピットから出てしまうと変更できなくなるトルクモード
某エンジニアによれば、「現在のF1マシンのコンピュータ制御はマクラーレン製に統一されており、ピットレーンを出てしまうと、設定の変更ができない」のだという。
では、スタート用のトルクモードでレースを走行するとどうなのか。フェルスタッペンは、スタート用のトルクモードでのドライビングを次のように述懐した。
「正確な数字はわからないけど、スロットルを踏んでも反応にタイムラグがあって、突然パワーが出てくる感じだった」という。
某エンジニアも、「高回転域ではほとんど問題はないが、低速コーナーの立ち上がりでは、かなりドライビング難しかったはず。モナコは1速で立ち上がるコーナーがヘアピンとシケインとラスカスと3つあるので、かなり大変だったと思う」と追いかけるフェルスタッペンも厳しい状況だったのではないかと言う。
レースではラスカスやヘアピンへのブレーキングで何度も接近したフェルスタッペンが、その立ち上がりで引き離され、ストレートで追いつけないシーンが何度も見られた。
もし、適切なトルクモードでレースができていたら、レースは少し違った結果となっていても不思議はなかっただろう。