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アンダーソン・パーク、アリ・レノックス……高橋芳朗が選ぶR&B注目アルバム4選

2019年05月28日 14:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今回もR&Bの注目アルバムを4作。


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 まずは前作『Oxnard』からわずか5カ月という短いインターバルでのリリースとなったアンダーソン・パークのニューアルバム『Ventura』を。『Oxnard』と並行して制作を進めていたという今回の新作は、2014年のデビューアルバム『Venice』から『Malibu』を経て『Oxnard』へと続いた「西海岸ビーチシリーズ」の完結編。全米チャートではキャリア初のトップテン入りを果たすなど大団円を飾るにふさわしい好セールスを記録しているが、内容的にも現時点でのキャリア最高傑作といえる出来。NBA選手のレブロン・ジェームズにリスペクトを捧げたエンパワーメントソング「King James」やブランディをフィーチャーした「Jet Black」といった得意のブギーファンク路線の安定感もさることながら、スモーキー・ロビンソンをゲストに迎えたスウィートミディアム「Make It Better」から、The Temptationsを気取ったネイト・ドッグとの擬似共演「What Can We Do?」まで全編を満たすこれまでになく濃密なソウル臭にぐっとくる。大胆な転調にしびれるレイラ・ハサウェイとのコラボ「Reachin’ 2 Much」にも顕著だが、的確なゲストの人選がまたアルバムの完成度を高めているところがある。


 ジェニファー・ロペスが主演を務める映画『Hustlers』への出演が決定するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのリゾが満を持してのメジャーデビューアルバム『Cuz I Love You』をリリース(全米チャートでは初登場6位をマークしている)。ど迫力のファンク「Water Me」や80’sディスコ調の「Juice」など、一連のリードシングルで打ち出されていたファンキーディーバ的なイメージで臨むとややポップに響くかもしれないが、ボディポジティブやブラックエクセレンスの最良の体現者といえる彼女の持ち味はなんら損なわれていない。ミッシー・エリオットをフィーチャーした「Tempo」のようなクラブバンガーも良いが、豪快でいてその実チャーミングなリゾの本領は案外「Cuz I Love You」や「Heaven Help Me」といったゴスペルタッチの楽曲で発揮されている印象。彼女をいち早く見出したプリンスの遺伝子=ミネアポリスファンクの影響も随所で聴き取ることができる。


 Vampire Weekendの新作『Father of the Bride』で大々的にフィーチャーされるなど、ここ最近はスティーヴ・レイシーの活躍が目立っているThe Internetだが、そんな状況のなかマット・マーシャンズが2ndアルバム『The Last Party』を発表。これがローファイ&メロウなサイケデリックソウルの傑作といえる仕上がりになっている。スリック・リック「Children’s Story」を参照したと思われる「Movin’ On」、マック・デマルコが制作に関与したN.E.R.D.マナーのファンクジャム「Pony Fly」、ブラジリアンフィールあふれる「Southern Isolation 2」など、2曲でフィーチャーされているスティーヴ・レイシーの2017年のEP『Steve Lacy’s Demo』をさらに拡張したような全8曲。共にオマー・アポロの客演曲があるからというわけではないが、同時期に出たStill WoozyのEP『Lately』に通じる淡いレイドバック感が心地よい。


 J・コール率いる<ドリームヴィル>所属のアリ・レノックスが2016年のメジャーデビューEP『Pho』から2年半を経てようやくフルアルバム『Shea Butter Baby』のリリースに漕ぎ着けた。これが長らく待たされた甲斐のある充実ぶりで、エラ・フィッツジェラルドやエリカ・バドゥの影響を自認する彼女のジャジーな魅力を尊重しながらも、ミニー・リパートン~ダイアナ・ロス風のセンシュアルなソウルフィーリングも同居させた制作陣の絶妙なバランス感覚が素晴らしい。バスタ・ライムス「Woo-Hah!! Got You All in Check」やフェイス・エヴァンス「I Just Can’t」でおなじみガルト・マクダーモット「Space」をサンプリングした「BMO」、Mndsgn「Land of Passion」やFlamingosis「Riding the L」で引用されたヒューバート・ロウズ「Land of Passion」使いの「New Apartment」など、アリの90年代R&Bへの憧憬をうかがわせるネタ物の楽曲も良いアクセントを生んでいる。冒頭の「Chicago Boy」を含む3曲に参加しているトランペット奏者、テオ・クロカーの存在感も見逃せないだろう(彼は「Whipped Cream」のソングライティングにも関与している)。コズ『Effected』、バス『Milky Way』、J.I.D『DiCaprio 2』、そして本作と、昨年からコンスタントに良作を供給し続けている<ドリームヴィル>の堅調ぶりはもっと評価されていい。(高橋芳朗)