トヨタの若手ラリードライバー育成プログラムに参加している勝田貴元が5月25日(土)に開催されたフィンランド・ラリー選手権“リーヒマキ・ラリー”にトヨタ・ヤリスWRCで参戦し、同マシンでグラベル(未舗装路)ラリー初優勝を飾った。
このリーヒマキ・ラリーは、勝田にとってヤリスWRCで出場する初めてのグラベルラリー。WRカーでの出場は勝田を含めて2台だけだったが、もう1台はヒュンダイのワークスカー、i20クーペWRC。ドライバーは、勝田と同じくWRC2に出場する地元のヤリ・フッツネンだった。
フッツネンはヒュンダイのWRC育成ドライバーであり、つまり勝田と同じ立場にある。フィンランド人の若手選手のなかでは、カリ・ロバンペラと並び、次期WRCワークスドライバー候補と誉れ高い強豪だ。しかも、フッツネンは過去リーヒマキ・ラリーに出場経験があり、その点に関しては勝田よりも有利な立場だった。
ラリー開始前、勝田は「もっとも重要なのはすべてのステージを走り切り、ヤリスWRCで可能な限りマイレージを増やすこと」と語っていた。しかし、やはりフッツネンを意識しない訳にはいかない。それはフッツネンも同様で、今後ヒュンダイのWRCレギュラードライバーになれるかどうかの、テスト的な側面も今回はあったようだ。
ラリーは8.92kmのグラベルステージから始まったが、そこで勝田はフッツネンより0.4秒速かった。「最初はやや抑え気味で、少しづつペースを上げていきたい」と勝田はスタート前に語っていたが、SS2でもベストタイムを記録し、差を1.3秒に拡げた。
続くSS3とそのリピートステージであるSS4は、軍用施設の中を走る全長2.55kmのショートSS。ターマック(舗装路)が大部分を占めるが、タイヤもサスペンションもグラベル仕様のまま走る。
途中で激しい雨が降り、雹まで降る悪コンディションだったが、その短い2本のSSで勝田はフッツネンとの差を一気に3.1秒に拡大した。「グラベルタイヤでターマックを走るのはWRC 2でも得意だったので、自信がありました」と勝田。
しかし、30分のサービスを挟んで始まったSS5では、フッツネンがベストタイム。勝田は3.4秒差の2番手タイムに終わり、逆転を許し0.3秒差の2番手に後退した。
「オット・タナク選手のような、なるべくクルマを横に向けないスムーズな走りをしようとしていたのですが、SS5の一部区間で思ったような走りができず、大きく遅れてしまいました。これはマズイと思い、あえてドライビングを大きく変え、クルマの向きを積極的に変えるアグレッシブな走りに切り替えました」
ドライビングスタイルを変えた勝田は、SS6でフッツネンに3.3秒差のベストタイムを刻み、首位奪還に成功。全長20kmのSS7では6秒という大差をつける圧巻の走りでギャップを一気に広げた。
さらにSS8も制し、リードを12秒に拡大。大雨により多くの水たまりや、マディなセクションができたトリッキーでハイスピードなステージを、勝田はミスすることなく快走した。
最終ステージとなったSS9は雨による路面コンディションの悪化によりキャンセルとなり、その瞬間、勝田の優勝が決まった。WRカーでの優勝は3月の“イタ・ラリー”以来2回目。前回は降り積もった雪の除雪役に苦しみ、R5カー相手ながら辛勝だった。しかし、今回はR5勢に2分以上の差を築き、WRカーのフッツネンも完全に抑え切っての完勝だった。
「優勝した瞬間は、フッツネンに勝ったことよりも、すべてのステージを走り切るという目標を達成できて、ほっとした気持ちの方が大きかったです。スピンなどのミスはなく、クルマにダメージを与えることなくフィニッシュできたのは良かったと思いますが、多くの課題も見つかりました」
「とにかくクルマがR5とは比べ物にならないくらい速く、全開で攻め切れたコーナーもありましたが、そうでないところも多く、一体どこに限界があるのか完全には掴みきれませんでした」
「すべてのSSを限界で攻められないと、WRCのトップでは戦えないので、これからさらにスキルを上げていかなければならないと実感しました」
勝田は、約2週間前に開催されたWRC第6戦チリでもフォード・フィエスタR5でWRC 2優勝を飾っており、いい流れを保っている。次戦は、やはりフィエスタR5での出場となる、WRC第7戦ポルトガル。WRC 2のトップドライバーが集うポルトガルでの、勝田の活躍に期待したい。