「モナコまでには、最高の結果を出したい」。それが今シーズンが始まってからの、山本雅史F1マネージングディレクターの口ぐせだった。王者ルイス・ハミルトン(メルセデス)を最後まで追い回し、内容的には素晴らしいレースだった。しかし山本MDの願いは、残念ながら叶わなかった。
レース後、インタビューを始めようとすると、山本MDはこちらが質問を投げかける前に「いやあ、あのペナルティ、惜しかったねえ」と、切り出してきた。
──────────
山本雅史F1マネージングディレクター(以下、山本MD):車載映像を見ると、マックス(フェルスタッペン)がほんの少しですけど右に寄せているんですね。あれがペナルティの対象になったのかもしれない。それで(バルテリ)ボッタスと接触して、右側のガードレールにぶつかってしまった。あのままステアリングを切らずにまっすぐ行っていたら、もしかしたらセーフだったかもしれません。ドライバーの心理としては、わかるんですけどね。
──なるほど。それはさておき、ホンダ搭載車4台がQ3進出、そして4台入賞という結果を出してくれました。
山本MD:そのことは、素直にうれしいです。ただ長い視点でシナリオを描きながら、レースをやっているじゃないですか。ホンダがレースをやるのはあくまで勝つためですし、その大命題からすると、モナコにはすごく思い入れがあったんですよ。
──モナコまでに勝ちたいと、ずっと言ってましたよね。
山本MD:ええ。レッドブルもトロロッソもみんな頑張ってくれて、ベストを尽くしてくれた。それは、最高にうれしいです。でも手放しで大喜びという気分の前に、何であそこでペナルティなんだという気持ちになってしまう。
──もしペナルティを受けず、2位表彰台だったら?
山本MD:いいレースでしたし、たとえ勝てなかったとしても気持ちよくモナコから帰れたと思いますね。初めてメルセデスの間に割って入りましたし。無線を聴いていても、マックスがハミルトンをプッシュし続けていました。F1ファンが観ていて、最高に楽しいレースだったんじゃないでしょうか。
私自身、パソコンをすぐに閉じて、モニターに釘付けでしたから。何が起きるかわからない、ミスも犯しやすいモナコで、4台がきっちりポイントを取ったというのは、本当に素晴らしかった。前回のスペインとは打って変わって、トロロッソのピットワークも完璧でしたしね。なので半分満足、そして半分はレースの厳しさを思い知りましたね。
──フェルスタッペンはスタートでメルセデス2台に割って入れないと、そのあとに順位をあげるのは厳しいかと思いましたが、決して諦めなかった。
山本MD:凄いですよ。1コーナーも、惜しかった。それも含めて、いいレースでした。
──同世代のふたりの才能、フェルスタッペンと(シャルル)ルクレールですが、今回はルクレールに若さが出てしまった印象です。
山本MD:そうですね。若さゆえの焦りもあったし、フェラーリとルクレールの速さをもってしてもモナコでは抜けない。本当に難しいコースです。それを先に見てしまったからか、マックスがずっと1秒以内でハミルトンを追い回し続けた凄さが、いっそう感じられますね。不利なミディアムタイヤで決して隙を見せなかったハミルトンも、もちろん凄いですけどね。
とにかく今回の結果は、ホンダにとって明日への活力になることは間違いないです。開発部門もレース現場も、すべて含めてですね。着実に、前進しています。
■「着実にトップチームに近づいている実感がある」
──今回のホンダは信頼性で足を引っ張らなかったことはもちろん、モナコに欠かせないドライバビリティの面での貢献も大きかったのでは?
山本MD:非常に改善していますよね。初日手こずっていた(ダニール)クビアトも、レース後には「本当にありがとう」と言ってきましたし。私も研究所、現場スタッフに感謝ですよ。
──それだけにいっそう、もうひとつ上の結果がほしいですね。
山本MD:本当に。終盤のシケインで、マックスが仕掛けたでしょう。あの気持ちも、本当に痛いほどわかります。
──クルマが大きくなった影響もありますか?
山本MD:それはありますね。モナコは特に。趣味でミニカーを集めているのですが、昔のF1と今のF1のあまりの大きさの違いには唖然としますからね。ラスカスでの渋滞もしかり。車幅もそうですが、ホイールベースが長すぎるのだと思います。
──今回のレースの満足度は、何点ぐらいでしょうか。
山本MD:そんな上から目線で、点数なんて付けられませんよ。さっきも言ったようにモナコまでには勝ちたいと思ってたので、今の気持ちは正直複雑ですね。
──今後、最高の結果を狙えそうなレースはどこでしょう。
山本MD:具体的にどことは言えませんが、着実にトップチームに近づいている実感はあります。今回のモナコも、次に繋がるいいレースだったと思いますよ。