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椎名林檎、乃木坂46、NakamuraEmi……歌詞にインパクトがある女性アーティストの新作

2019年05月28日 10:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 克服すべき煩悩をテーマに据えた椎名林檎の5年ぶりのオリジナルアルバム、普遍的にして前向きなメッセージを響かせる乃木坂46のニューシングルなど、インパクトのある歌詞が印象的な女性アーティストの新作をピックアップ。アーティストのキャラクターと放たれる言葉のコントラストにもぜひ注目してほしい。


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 前作『日出処』以来、約5年ぶりとなる通作6枚目の椎名林檎によるオリジナルアルバム『三毒史』。タイトルに配された“三毒”とは、仏教において克服すべきとされる代表的な煩悩“むさぼり・いかり・おろかさ”を意味しているという(それを表しているのが1曲目の「鶏と蛇と豚」だ)。さまざまな欲望、葛藤、絶望、怒りといったどうしようもない感情を抱えながら人間の本質を照射し、政治、経済、文化などあらゆる場面において、既存のシステムの底が抜けつつある現代社会を切り取るリリックは、前衛的にして普遍的。ジャズ、ヒップホップ、ギターロック、歌謡、ゴスペルクワイアなどを縦横無尽に駆使したサウンドメイクを含め、2019年という時代を生々しく描き出した一大叙事詩である。


 〈LA LA LA LA LA LA…/Happy!Happy!〉という大らかなコーラス、楽曲全編を包み込むハンドクラップ、そして、ゆったりと大空に向かって解き放たれるようなメロディが印象的な乃木坂46の23rdシングル表題曲「Sing Out!」。心地よく広がるストリングス、素朴な雰囲気のアコースティックギターなどを取り入れたサウンドのなかで描かれるのは、“分かり合うのは難しいけど、それでも私たちは支え合って生きていかなくちゃいけない”というあまりにも切実なメッセージ。特に〈自分のしあわせを/少しずつ分け合えば/笑顔は広がる〉というフレーズは、いがみ合い、批判し合うのが目立つ、いまの社会にもっとも必要なことを示唆しているように思う。言葉を伝えることに意識を向けたボーカルもこの曲の魅力だろう。


 怒ったり悲しんだり寂しくなったり落ち込んだりしながら、でも、何かをきっかけにして次の瞬間には〈明日もちょっと頑張ってみますか〉とポジティブな気分を取り戻す。様々な女性像をモチーフにした魅力的にして奥深いポップミュージックを生み出し続けているNakamuraEmiの新シングル表題曲「ばけもの」は、いろいろな壁にぶち当たり、他者との関係と(自分のなかで)格闘しながら、数秒ごとに感情を変化させるアラサー女子の生々しい実情を描いたナンバー。しなやかなファンクネスをたっぷりと含んだアコースティックギター、リズミックな気持ちよさと強いエモーションを共存させたボーカルによって、すべての憂いを吹き飛ばしてくれることこそが、この曲のポイントだろう。


 瑞々しいライブ感に満ち溢れたギター、ドラム、ベースによるアンサンブル、切なさと愛らしさがせめぎ合うメロディライン、そして、“君”との微妙な距離感と“手を伸ばして触りたい”という欲望をストレートに描いた歌詞。エッジの効いたサウンドと華やかなポップネスを共存させた音楽性によって注目度を上げているthe peggiesのニューシングル表題曲「スタンドバイミー」は、人と人とのつながりという普遍的なテーマを掲げたアッパーチューンに仕上がっている。大切な人を求める気持ちを真っ直ぐに歌い上げる北澤ゆうほ(Vo/Gt)のボーカルも絶品。〈君の熱に抱かれたいだけなんだ〉に代表されるエモーショナルで情熱的なフレーズをポップに響かせる天性のセンスにも、ぜひ注目してほしい。


 ヨルシカのn-bunaのプロデュースによるシングル曲「ファンタジック」、TVアニメ『川柳少女』(TBS系)OPテーマ「コトノハノオモイ」などを含む井上苑子の3rdアルバム『白と色イロ』。“未完成のままでいい、そのままでいい”とエールを送るスカコア風ナンバー「My Friend」、アコギを軸にした素朴なアレンジのなかで、ずっと強がってきた自分の道のりを回想する「何でもない」、疾走感に溢れたバンドサウンドとともに“君のことを何度も思い出したい”という思いを解き放つ「リメンバー」。自らの等身大をストレートに歌うことで、それがそのままタイムレスなポップチューンにつながる、井上苑子の天性のセンスがさらに開花した充実作だ。


■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。