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令和によみがえったスズキ新型カタナ、開発秘話。最も苦労したのは「ハンドルの変更」

2019年05月28日 08:11  AUTOSPORT web

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スズキ新型カタナ
スズキから5月24日、日本での発売が発表された新型カタナ。その開発に至った経緯と開発のなかで苦心したポイントなどを中心に、発表会当日の開発者の談話と、その後行った開発者インタビューをお届けする。“現代のカタナ”はどのようにして復活を遂げたのだろう。

 まずはカタナの歴史をひも解いてみよう。1980年にドイツのケルンモーターショーにGSX1100Sカタナがプロトタイプとして出品され、話題を集めた。ヨーロッパではその翌年から発売がスタート。日本仕様車は1982年、GSX750Sとして発売されたのが最初のモデルとなる。以降、250ccや400ccモデル、1994年にはGSX1100Sが日本で発売。しかし、2000年のファイナルエディションをもって一度、生産を終了していた。

 そんなカタナの復活が明らかになったのは、2018年10月にドイツのケルンで行われたインターモト。ここで新型カタナが正式発表された。

 新型カタナのスペックについて少し触れておこう。水冷4サイクル直列4気筒DOHC 4バルブエンジンを搭載。このエンジンは、2005年から2008年のGSX-R1000のエンジンをベースとしてストリート用にチューニングされている。「現代のオートバイということで、空冷という選択肢はなかった」ということだ。

 最高出力は10000回転で148馬力を発生。前後のサスペンションは一から調整を行い、多くの灯火器類は、新型カタナのために開発された。ヘッドライトは新設計LEDヘッドライトだ。

 ほか、イージースタートシステムや3つのモードを持つトラクションコントロールシステムを搭載。メーターはフルデジタルで、イグニッションをオンにすると“刀”の文字が浮かび上がる遊び心も加えられている。

 新型カタナがよみがえった背景には、“カタナ3.0コンセプト”の存在があった。カタナ3.0コンセプトは2017年11月、イタリアで開催されたミラノショーに参考出品されたもので、モトチクリスモ社という雑誌社の企画によって生まれたもの。このモデルに対する市場からの反響の大きさや、スズキとしてもデザインに共感したことから、量産化が決まったという。

 二輪企画部チーフエンジニアの寺田覚氏は「カタナはスズキにとって大切なブランドで、2000年にファイナルエディションが出たあと、次のカタナにはどのような(形の)カタナがあるのか、という話は、社内でことあるたびに上がっていました」と語る。

 しかし、それまではなかなか実現に結びつくことがなかった。そこへ2017年に登場したのが、カタナ3.0コンセプトというモデルだったのだ。

「こういうのもアリなのか、というのが(カタナ3.0コンセプトを見たときの)正直なところでした。こういうアプローチの仕方のカタナもあるのか、と。これなら我々がもう一度造るカタナにできる、ということで、社内で進めれられたのです」

 イタリアの雑誌社が企画したカタナ3.0コンセプトがきっかけとなり、スズキによって新型カタナが誕生したというわけだ。

「最初のカタナは、外部にデザインをお願いしました(※1980年ケルンショーに登場したプロトタイプのカタナはドイツ人デザイナーによるもの)。今度は我々からお願いしたわけではありませんでしたが、『これがカタナだ』と呼べるデザインが外からやってきました。(新型カタナを開発するのは)今しかない、と」

 実はこのカタナ3.0コンセプト、「現地の法人に打診はありましたが、スズキ本社としては特に関わっておらず、出品されたものを見ました」と寺田氏。「ですから、当時は社内としても衝撃が大きかったですね」と、カタナ3.0コンセプトはスズキ社内でも旋風を巻き起こしたようだ。

 カタナ3.0コンセプトが世に現れてから翌年の2018年1月には、スズキは開発を決定。発表の場を2018年10月のインターモトと定め、1年ほどという短期間での新型カタナ開発がスタートした。24日の発表会では開発者として壇上に立った寺田氏含め、車体設計の三池翔太氏、テストライダーの大城光氏なども口々に、短期間で行われた開発のなかにあった苦労をにじませていた。なぜ、新型カタナは1年という短期間で開発が行われたのだろう。

「(カタナ3.0コンセプトで)反響をいただいたのですから、熱が冷めないうちに新型カタナにしたかった、というのが一番の理由です。各部には非常に負担をかけましたが、なんとしても2018年に発表して、2019年の春に発売しようと計画をしました」

■デザインが決まっているなかのハンドルの変更に苦心
 新型カタナは“カタナ3.0コンセプトのデザインを最優先する”ことが開発方針と定められた。そのため、カタナ3.0コンセプトのデザインを再現しながらも量産化を実現するには苦労が重ねられたという。


 そんななかでもカタナ3.0コンセプトから変更されたのが、ハンドルだ。カタナ3.0コンセプトではローハンドルだったが、新型カタナではアップライトの幅広バーハンドルが採用されている。これは開発において、最も苦労した部分だったそうだ。

 テストライダーを務めた大城氏によれば、ローハンドルのカタナを実走したところ「ハンドルが低い位置にあり、乗ったときにバイクとしてバランスが取れていないなというのが、正直なところでした」と言う。プロトタイプということで、デザインがよくても実際に走ったときの感触としてはベストというわけではなかったようだ。

 車体設計を担当した三池氏は「コンセプトモデルから変更したなかでも一番大きい点です」とハンドルの変更について述べている。

「デザインが決まっているとシートの着座位置もある程度決まっているので、そのなかでどこがベストなのか、というのは考えるプロセスとして、通常の開発としてはあまりやらない方法でした。どこがいいのだろう、と探すというのが大変苦労しました」

「デザインに『こうしたい』と要望を出しながら進めるのが通常の流れです。これが、(カタナ3.0コンセプトという)大枠が決まっているとなると、それを成り立たせるという、新しいアプローチになります」

 新型カタナはカタナ3.0コンセプトというデザインの具現化が追求されていた。そのデザインを再現しつつオートバイとして機能性や耐久性、快適性、そして法規を満たした市販車とする、それは並大抵の困難ではなかったに違いない。ハンドル変更について腐心した様子を振り返りながら、それでも三池氏は「新しいアプローチで設計できたので、設計としては大変楽しかったですね」と語った。

 こうしたハンドルの変更とともに、ライディングポジションにも試行錯誤が重ねられた。シートの着座位置は従来モデルよりも前寄りとなっている。ライダーの重心が車体の前方になることで、フロント荷重が増大。これに合わせ、前のサスペンションは硬め、リヤサスペンションは柔らかめにセッティングされているということだ。

 こうしてたどり着いたライディングポジションは、スポーツ走行から快適なライディングまでを実現しているという。これには変更された、アップライトで幅広のバーハンドルが貢献の一端を担っている。僭越ながら筆者も発表会でまたがらせてもらった際、ライディングポジションが楽にとれることに驚いた。筆者は小柄(153cm)なのだが、1000ccの大型バイクである新型カタナは、乗車姿勢に無理を強いなかったのだ。この部分において見ると、様々なライダーを受け入れる懐の深さを持つバイクなのではないか、と思わされた。

 さて、こうしたアプローチで開発が進められた新型カタナ。カタナシリーズから踏襲された、こだわりの部分について聞くと、「まったくそのまま、という部分はありません。しかし、誰が見ても、これはカタナだなと思えるデザインですよね。シートからタンク、フロントカウルに流れるようなデザイン。そこは大切にしなければいけないと思って開発をしました」と寺田氏。

 新型カタナは、カタナ3.0コンセプトのデザインを現実にしようという開発陣の尽力によって生まれた、まさに”現代の”カタナなのだ。寺田氏は発表会の壇上で、こう述べている。

「新型カタナはファーストカタナの復活ではない。ほかにはない独自デザインと、最新テクノロジーを融合させた、新しいカタナです」