今年のインディ500の200周を見終えた時、今年エントリーしていたフェルナンド・アロンソのことなど頭の中からキレイさっぱり忘れていた。最後の10周に魂を奪われて手に汗握るほど興奮した。誰かが夢を叶え、誰かがすべてを失う。まるで人生の縮図を見るようなレース。それがインディ500なのだ。
佐藤琢磨は、今年インディ500に10回目のチャレンジとなる。かつてはF1ドライバーでありながら、インディ500と言えば佐藤琢磨と思われるくらいになった。2017年のアジア人初制覇はそれぐらい強烈な印象を植え付けていた。
琢磨は予選を14番手で通過していた。持てる力はすべて出し切ったと言うポジションだった。
14番手からスタートした琢磨は、第1スティントを終える頃には11番手に浮上し、37周目までピットストップを引っ張った。だが右のリヤタイヤの交換に手間取り、同じラップに後から入ってきたスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)に先を越されていた。
ピットアウトした琢磨は「すぐにリヤタイヤに違和感を感じた」と言いターン3でそれを確信。無線で異常を伝えるも、その周は後続車両にラインを阻まれピットインできず、その翌周にピットイン。
再度リヤタイヤを交換して戦列に戻るが、大きく出遅れトップからは2ラップダウンの31番手という致命的な順位となってしまった。
優勝を狙っていた琢磨にとっては厳しいポジションだったが、彼は諦めてはいなかった。
チームもイエローコーションが出るたびにポップオフしてストレッチ。挽回のタイミングを図っていた。
イエローコーションを利用し2ラップ遅れからリードラップに戻るまでおよそ100周も要し、177周目最後のピットストップに入る直前に一瞬トップに立って、最後のピット作業に入った。
琢磨がピットアウトするその頃にターン3でチームメイトのグラハム・レイホールを巻き込む多重クラッシュが発生。すぐさまイエロコーションとなり、その後赤旗中断となった。なんとこの時点で7番手まで浮上していたのだ。
琢磨はツイていた。もしアクシデントが最後のピットストップの前で起きていたら、またもや大きく順位を落とすことになっただろう。
ピットロードに一列縦隊で待つドライバーたち。残り20周弱のスプリントレースで全てが決まる。琢磨のスタイル上、ここで優勝を狙わないワケがない。場内アナウンスも琢磨の浮上ぶりを伝えている。
コースの清掃などが終わり、ペースカーが先導してレースが再開。琢磨の前を行く2台がピットに入らざるを得ず、自ずと5番手に。そしてそこからグリーンとなって、レースが再開する。
琢磨は前のエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)をサイド・バイ・サイドでまず攻略し4番手に。その後ジョゼフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)もかわして3番手に上がった。
予選まででそのスピードに手も足も出なかったエドカーペンターとペンスキーのクルマを攻略したのだ。前を行くのはアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)とシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)の2台のみ。
「赤旗の後はね、もう順位が順位だから、優勝狙っていきましたよ(笑)」と琢磨が言うように、琢磨は仕切りに前のマシンのドラフティングを使い抜こうと試みるが、横に並ぶまでにいかない。前ではロッシとパジェノーが優勝を賭け大バトルを繰り広げている。そこにあと一歩加わることができなかった。
シモン・パジェノーがロッシを198周目に交わし、今年のインディ500チャンピオンとなった。琢磨はそこからわずか0.5秒差の3位だ。
2周遅れの31番手から、3位でフィニッシュ。レースには勝てなかったが、琢磨がどんなレースをしたか、30万人の大観衆は目撃した。ラスト10周の大バトルを誰もが目に焼き付けたはずだ。
「最初のピットストップのトラブルの後、2周遅れになって31番手になったけれど、チームが一生懸命作戦を考えてくれて、順位を挽回してくれた」
「そりゃあ最後はあの位置でしたからね(笑)。当然優勝も狙っていたけど前のシモンとロッシは速かったですね。追いつけなかった。インディ500はウイナーしかないけれど、チームがすごく頑張ってくれたし、今日は喜んでもいい3位だと思います」
「ただ僕らが足りなこともしっかりわかった。その点を十分に反省してシーズンの残りのレースにのぞみたいですね」と琢磨。
シリーズランキングはトップと48ポイント差の4位となり、ふたたび今週末のデトロイト戦へと挑む。