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平井堅の“これから”がさらに楽しみに 亀田誠治、あいみょん登場『Ken’s Bar』20周年ファイナル

2019年05月27日 17:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 平井堅のアニバーサリーツアー『Ken’s Bar 20th Anniversary Special !! vol.4』の最終公演が5月22日、東京・日本武道館で開催された。昨年5月の全国ライブビューイングも行なった東京・TOKYO DOME CITY HALL公演(vol.1)からスタートし、ニューヨーク(vol.2)、札幌、福岡、広島、宮城、横浜(vol.3)、大阪、三重、徳島(vol.4)で開催され、1年がかりでファイナルを迎えたこのプロジェクトは、アコースティック形式でオリジナル曲、カバー曲を歌うコンセプトライブ『Ken’s Bar』の“開店”20周年を記念したもの。そのラストを飾る日本武道館公演は、豪華なゲスト、未発表の新曲など、サプライズがたっぷり詰まったスペシャルなステージとなった。


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 この日の日本武道館には、約1万人のオーディエンスが足を運んだ。アリーナ前方の円形テーブルには、カクテルやおつまみを楽しむお客さんの姿も。好みのドリンクを片手に、ゆったりと平井堅の歌を堪能できる『Ken’s Bar』の雰囲気はやはり特別だ。


 客席の照明が落とされ、「even if」のピアノインストが流れるなか、ピアノの鈴木大、アコースティックギターの石成正人がステージに登場。さらに平井堅が白いシャツ姿で登場すると、会場からは大きな歓声が巻き起こる。最初の楽曲は、「half of me」。2009年夏以来、このコンセプトライブでだけで披露されていたこのバラードは、『Ken’s Bar』を象徴する楽曲のひとつ。ピアノ1本のシンプルなアレンジで哀切な感情を美しく歌い上げ、オーディエンスを惹きつけていく。さらにアコギの演奏とともに「魔法って言っていいかな?」へ。表情豊かなボーカルによって、歌のなかでの情景が頭のなかで生々しく再現される。この没入感もまた、『Ken’s Bar』の魅力だ。


 「『Ken’s Bar』開店20周年を記念して、アニバーサリーツアーをこの1年行ってきましたが、いよいよ本日、最終日となります! 今日はお日柄もよく、こんなにたくさんの人が集まってくださって本当に幸せ者です」「『Ken’s Bar』がようやく成人を迎えまして、これからどんな『Ken’s Bar』になっていくのか、そんな未来も踏まえて、新たなチャレンジを交えつつ、今回のツアーは行っております。今宵も死に物狂いで歌います。最後までよろしく、日本武道館BOYS&GIRLS!!」という平井堅の冒頭のあいさつに対し、会場からは温かい拍手が送られた。


 平井自身がリスペクトする楽曲のカバーが聴けることも、『Ken’s Bar』の愉しみ。第一部ではまず、竹内まりやの1998年の楽曲「カムフラージュ」をピアノの伴奏で披露。お互いに恋人を持ちながら、どうしようもなく惹かれてしまう“あなた”に対する切実な思いを叙情たっぷりに歌い上げる。どんなに痛々しくても、どんなに悲しくても、ギリギリのところで上品さを保ち、幅広い層のリスナーが楽しめるポップスに導く。それこそが平井堅の真骨頂だろう。


 「第1部は、歌と楽器ひとつだけでどこまで表現できるかを追求しているんですが、新たなケミストリーを僕自身も見てみたいと思い、各地でゲストミュージシャンを呼んでいます」という言葉とともに紹介されたのは、この日の最初のゲスト・亀田誠治。「大きな古時計」「瞳をとじて」「POP STAR」などの代表曲をプロデュースしている亀田はこの日、ベーシストとして出演。「いつも客席から拝見してたんですけど、まさか自分がステージに立つ日が来るとは」(亀田)、「亀田さんのベースと歌だけっていうのは初めて。ドキドキワクワクしてます」(平井)というトークを挟み、2曲を披露した。ジャニス・イアンの「Love Is Blind」では繊細なコード感、メロディアスなフレーズで平井のボーカルを際立たせ、「かわいいの妖怪」ではスラップを交えたファンキーなプレイで心地よいグルーヴを演出。“歌とベース”による刺激的なケミストリーを体感できる、きわめて貴重なセッションだった。第1部の最後は、「瞳をとじて」。ピアノをバックに名曲を濃密に歌い上げ、大きな感動を生み出した。


 ブレイクタイムを挟み、第2部は「哀歌(エレジー)」から。深く、重く、痛い感情がずっしりと伝わり、会場全体をシックな雰囲気で染め上げる。そのムードを一変させたのが、「ガラスの十代」。光GENJIの1987年のヒット曲だが、アコギ1本のアレンジによって、楽曲の豊かな魅力がまっすぐに伝わってきた。続いては『Ken’s Bar』の定番、リクエストコーナー。「I want your request~」と歌いながらアリーナ中央のサブステージに移動し、選ばれた2人のファンとトークしつつ(「平井堅のライブは何回目?」「バスタオルはどれくらいの頻度で洗濯する?」など)、リクエストされた「青空」(1stアルバム『un-balanced』収録)と「PAUL」(シングル『大きな古時計』収録)を歌唱。観客との距離の近さを感じさせるこのコーナーも、『Ken’s Bar』の人気の理由だ。


 「とおりゃんせ」を歌いながら(めちゃくちゃ上手い)メインステージに戻り、ライブは後半へ。まずは「彼女の登場でJ-POP界は世界を変えたように活気づいたと思います」と紹介し、2人目のゲスト・あいみょんが登場。以前からラジオ番組などで、あいみょんに対するリスペクトを表明していた平井は、「こういうめんどくさいおじさんはいっぱいいると思うんだけど、(あいみょんは)俺が見つけた」「30分くらい褒めちぎってしまいそうだけど……応援しています」とコメント。「ありがとうございます」というあいみょんの照れた笑顔も印象的だった。2人で披露されたのは、あいみょんも大好きだという「鍵穴」、そして、彼女のオリジナル曲「愛を伝えたいだとか」。しなやかなグルーヴを放ちながら、平井、あいみょんの声が重なる瞬間はまちがいなく、この日のライブのハイライトだった。


 さらにパーカッションのLambsy、ベースの大神田智彦が加わり、新曲「いてもたっても」(映画『町田くんの世界』主題歌)を披露。「恋愛感情って何だろう? と改めて考えて。結局わからなかったんだけど、考えていることと行動が伴っていなかったり、コントロール不能な状態が恋の醍醐味なのかな、そんな瞬間を切り取れたらと思って書いた曲です」というこの曲は、平井堅の新たな代表曲として浸透しそうだ。その後は「告白」「KISS OF LIFE」とヒットチューンを連発、会場全体を華やかな高揚感で包み込む。平井がいったんステージから姿を消し、バンドメンバーのソロ演奏が繰り広げられる。再び登場した平井は、なんと白と紫のストライブによるピカピカの衣装(派手なラメが施された三角帽子も)。アライグマ、モグラの着ぐるみと一緒にパフォーマンスされた「POP STAR」は、平井のぶっ飛んだエンターテインメント性に直結していた。


 洗練されたチャコールグレーのスーツに着替えて登場したアンコールでは、まず「本当にありがとうございます。とっても楽しかったです」と感謝を告げる。さらに「これからもいい歌を歌える未来を作っていくためにも、新しい曲を最後に歌わせてください」「これからも自分を壊して、過去を見るのではなく、怖いけども、未来の扉を開いていきたいという気持ちを込めて、みなさんの胸に届くように歌いたいと思います」と新曲を披露。歌という表現に対する思い、そして、“あなたの寂しさ、哀しみのそばにいたい”という切実なメッセージが込められたこの曲は、すべての観客の心をしっかりと揺らしたはず。記念すべき『Ken’s Bar』20周年のファイナルを新曲で飾ったこと、そして、その曲が“これからの平井堅”を予見させる素晴らしい楽曲だったことが、この日のライブの収穫だったと断言したい。(森朋之)