トヨタが”ようやく”2019年シーズン2勝目を飾った。WRC世界ラリー選手権初開催の第6戦チリで、オット・タナクが優勝。第2戦スウェーデン以来となるポディウム最上段にのぼった。
”ようやく”と記したのは、勝てたはずのラリーを2戦連続で落としていたからだ。第4戦ツール・ド・コルスではホイールが破損。第5戦アルゼンチンではオルタネータに問題が生じた。いずれのラリーでもタナクは首位を快走していたが、トラブルで下位に沈んでいた。
ホイール破損に関してはドライビングミスの要素もゼロではないが、オルタネータは完全にメカニカルトラブル。第3戦メキシコでもヤリ‐マティ・ラトバラ車のオルタネータに問題がおこったが、チームはそれを解決したと宣言していた。
それだけに、アルゼンチンでまたしてもオルタネータに問題がおきてしまったことに、大きな失望と強い危機感を覚えたようだ。
調査の結果、メキシコとアルゼンチンでは問題の質が異なり、後者はオルタネータ本体ではなく、取り付け部に不具合があったことが判明した。マイナートラブルと言えるレベルの問題だったようだが、それがタナクから勝利を奪い去り、選手権争いに大きな影響を及ぼすことになった。
第6戦チリまでインターバルは約1週間。同様の電気系トラブルを絶対におこさないようにするため、チームはトヨタ自動車の市販車開発エンジニアに協力を求めた。ある点においては競技車以上に厳格な、市販車の品質管理方法を採用することにしたのだ。
まず、問題がおこり得る部分をリストアップした。そのなかで優先順位をつけ、トラブルの芽を潰していった。チリまでには1週間しかなく、できることは限られていたが、市販車開発エンジニアの尽力もあり、短期間でそれなりの対策は施せたようだ。
その結果、チリではとくに問題はおこらず、タナクはSS2でベストタイムを刻むと首位に浮上。その後、1度も首位の座を譲ることなく最後まで駆け抜けた。
また、最終SSであるパワーステージも制し、ボーナスポイントの5ポイントを獲得。完勝でラリー・チリを終え、ドライバーズ選手権ランキングでは2位に浮上。1位のセバスチャン・オジエ(シトロエン)に、10ポイント差に迫ることになった。
■トヨタ、王座防衛は黄色信号。深刻なラトバラの不振
チリのグラベルSSは全体的にかなり高速で、速度は高いのに道幅が狭く、路面のグリップが低いトリッキーな区間も多かった。クルマの総合力が試される1戦で、タナクとトヨタ・ヤリスWRCの組み合わせは最強だった。
オジエも、大クラッシュで戦列を去ったティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)も、タナクのペースにはついていけず、スピードの差は明らかだった。
次戦以降のラウンドでもクルマにトラブルがおきなければ、これからの数戦でタナクが連勝し、選手権首位に復帰する可能性は充分にある。
その一方で、マニュファクチャラー選手権に関してトヨタは苦戦している。タナク以外のふたり、ヤリ-マティ・ラトバラとクリス・ミークが開幕から1度も表彰台に立っていないからだ。とくにラトバラの不振はかなり深刻で、速さと安定性の両方が足りていない。
対するライバルのヒュンダイは、セカンド待遇のドライバーが地道にポイントを獲得している。チリでは、約半年ぶりにグラベルラリーを戦ったセバスチャン・ローブが3位に入るなど大活躍。エースであるヌービルのリタイアを、しっかりとフォローした。
その結果、ヒュンダイは2位のトヨタに29ポイント差をつけ、選手権首位に立っている。
トヨタが王座を防衛するためには、ラトバラとミークが安定して5位以上に入り続ける必要があるだろう。