スーパーGT第3戦鈴鹿で表彰台独占の圧倒的なパフォーマンスを見せたレクサス陣営。前回の第2戦富士ではZENT CERUMO LC500が優勝を果たして、劣勢の開幕戦から復活の狼煙を上げたが、実は富士では薄氷の勝利でドライバー、チームからはさらなるエンジン面でのパフォーマンスアップが求められていた。
実際、勝利したZENTもトップを争ったMOTUL AUTECH GT-Rに直線では引き離され、さらにはレースを半分すぎたあたりで36号車au TOM’S LC500のエンジンがブローしてリタイアするという、課題の多いレースとなっていたのだ。
レクサスLC500のエンジン開発を担当するTRDの岡見崇弘エンジニアが話す。
「これまで開幕戦で(燃焼系に)不具合があって性能を制限せざるを得なくて、性能を戻した富士ではたまたまセルモさんが勝ってくれましたけど、コース上ではどの局面でもGT-R、NSXに置いていかれる状況でクルマとしてはいいところがなくて、レクサスは負けているというのを露見してしまったレースでした。さらに、そんななかで36号車がエンジンブローしてしまった」と、第2戦富士を振り返る岡見エンジニア。
開幕時の燃焼系の問題をある程度解決したとはいえ、直線ではライバルにまだまだ離され、さらにトラブルも出てしまった。その現状を見て、岡見エンジニアを始めとしたTRD開発陣は覚悟を決めた。
「壊れたエンジンを分解して検査をしましたが、正確な原因はまだわかっていません。エンジンが遅い上にブローしてしまってはチームにとっては厳しいですよね。エンジンの性能を絞って遅くてブローするくらいなら、エンジンの性能を制限するのをやめてフルに出してみてもいいんじゃないかと、今回は全開で性能を出してみました」と岡見エンジニア。
さらに、詳細は明かさなかったがエンジン面にこの鈴鹿用にアップデートも行ってきた。
「これまで見てきたらお分かりかと思いますが、レクサスのエンジンはGT-RやNSXのように予選でドンと前に行くことができないので予選は厳しい分、決勝で抜けるようなアイテムを考えればいいのではないかと、今回から決勝で強くなればと考えてアップデートを入れました。制御系を含めてですが、細かい部分は言えません」
今回の第3戦では第2戦でエンジンブローしたau TOM’S LC500が同じ仕様の2基目のニューエンジンが導入され、残りの5台と合わせてアップデートが行われた。その結果、おそらく予選向けにブースト圧をライバルほど上げられないからか、今回、レクサス陣営が苦手としている予選でホンダの4台に次ぐ、3台のレクサスLC500をQ2に送り込むことができた。
「僕たちにとっては予想外。出来すぎの予選でした。どうして予選で速かったのかわからないです。ライバル陣営が低迷したとしか考えられません」と岡見エンジニア。もともと決勝向けに勝負に出ていたエンジン。予選でフロントロウが獲得できれば、決勝は言わずもがなの結果となった。
レースではライバルメーカーがトラブルやアクシデントで戦線を離れていくなか、レクサス勢がホンダのホームコースの鈴鹿で表彰台を独占。レクサスLC500は開幕戦の不振からは考えられないV字回復となる2戦連続勝利で、完全復活を印象付けた。
「こんなことを言ったら不謹慎ですけど、今回に限ってはエンジンが何台壊れてもおかしくない状況でした。それは覚悟してサーキットに来ました。でも、エンジンは壊れなかった。正直、ホッとしています」とレース後に安堵の笑顔を見せる岡見エンジニア。
「守っても壊れるんだったら、勝負に行けばいいじゃないか」
TRD開発陣がギリギリの状況下で決断した開き直りとも言えるこの攻めの姿勢が、今季初のオールドライコンディションでのガチンコの戦いで表彰台独占という、この上ないリザルトを手繰り寄せる要因になったことは間違いない。