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福山雅治が走るのは河川敷から首都高の高架下へ 『集団左遷!!』第1章完結で見せた銀行員のプライド

2019年05月27日 06:11  リアルサウンド

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 日曜劇場『集団左遷!!』(TBS系)第6話が5月26日に放送された。


参考:『集団左遷!!』の魅力は『大脱走』に通づる? 集団としてのポテンシャルを急速に上げる蒲田支店


 半期業務目標100億円を達成できなければ廃店という蒲田支店。実現すれば目標達成に大手がかかる三嶋食品への20億の融資が詐欺であることが判明し、逃げた三嶋(赤井英和)を追って空港へ向かうところまでが前回のストーリーだ。


 なんとか三嶋を取り押さえたまではよかったが、片岡(福山雅治)はその場で倒れてしまう。その頃、三友銀行本部では頭取の藤田(市村正親)と常務の横山(三上博史)が火花を散らしていた。20億の融資詐欺を問題視し「1円でも届かなければ廃店は断行」と主張する横山を、合併前の大昭和銀行出身の藤田が牽制する。銀行上層部の対立は蒲田支店の運命にも影響することになった。


 ドラマ前半戦のクライマックスを迎える第6話は、銀行員としての姿勢をあらためて問いかける内容だった。実績を横取りされた羽田支店から顧客を取り返そうと話す滝川(神木隆之介)に、片岡は「どんなに状況が厳しくても、オレたちが仕事をするのはあくまでもお客様のため」で、それが銀行員のプライドなのだと返す。それに深く頷く行員たち。知らないうちに片岡イズムが浸透し、支店のメンバーもそれぞれが「ミニ片岡」として顧客のもとに足を運ぶ。


 そんなある日、サイボーグ義足をつくる会社を立ち上げたいという若者3人が片岡を訪ねてくる。「自己資金がないと難しい」と答えながらも「まずは事業計画をつくるように」とアドバイスする片岡。最後までプライドをもって銀行員の使命を貫く片岡に、妻のかおり(八木亜希子)や元蒲田支店の花沢(高橋和也)も新たな融資話を持ってやってくる。さらに、頭取の藤田からは大昭和時代に担当した西村精機を紹介される。稼働していない精密機械の工場をたたんでコインパーキングにする資金を融資してほしいと言うのだが……。


 あと1億、西村精機の融資が決まれば目標達成というタイミングで浮かない顔をしている担当の滝川。西村精機は、社長だった夫の亡きあと、妻の雪子(丘みつ子)が会社を切り盛りしてきた。動いていないはずの機械に潤滑油を補充している様子を目にして、雪子に工場を再建する意思があることを察した滝川は、融資を進めるべきかひとり悩んでいたのだ。


 最後の最後に立ちはだかった銀行員としての究極のジレンマ。悩む滝川に向かって片岡は言う。「おまえが考えていることって蒲田支店の首を絞めることなんだよな。みんなに相談してみるか」。お前を一人にはしないぞ、という一言。第5話でスパイがばれた花沢に「怖いのも、生き残るのも一緒」と話したように、部下ひとりに背負わせないという片岡らしい言葉であった。


 結局、片岡たちは西村精機への融資を取りやめる。それは「お客様のためになることをする」という銀行員としてのプライドを貫いた結果だった。その決断が最終的に片岡たちを救うことにもなる。廃店となった蒲田支店だが、藤田のとりなしもあって行員たちは全員、他の支店で銀行業務を続けることになったのだ。


 片岡たちのカッコよすぎる対応は一見すると自殺行為のようにも見えるが、実は理にかなっている。心理学でいう「返報性の原理」では、人間は他人に何かをしてもらうと、お返しをしなければいけない心理になるとされている。片岡たちが雪子にした「心意気という名の融資」が、以前、西村精機を担当していた藤田の心を動かしたとも考えられるし、片岡が雪子に引き合わせた3人には今後の重要な伏線になりそうな予感が漂う。


 激動の『集団左遷!!』第1章はこうして幕を閉じた。慣れ親しんだ蒲田を離れて銀行本部に舞台を移す第2章。次に走るのは河川敷ではなく首都高の高架下だ。融資部に配属された片岡は、横山たちのいる本丸に乗り込む。バッドエンドを乗り越えて、令和最初の下剋上はいよいよこれからが本番だ。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。