ホンダ製パワーユニット(PU/エンジン)を搭載する全4台が、今季初めて予選トップ10内に入った。「あくまでマシンパッケージが優れているからこそ」と控えめに語るホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターだが、高い信頼性でマシンを一度求める事態に至らず、何よりモナコに求められる優れたドライバビリティをしっかり提供できたという自負が、言葉の端々から感じられた。
さらにフェルスタッペンについて聞かれた田辺TDは、彼について非常に興味深い言及をしたのだった。
──今季初めて、予選Q3に全4台が進出しました。
田辺豊治F1テクニカルディレクター(以下、田辺TD):はい。それもさることながら、抜きにくいモナコで全4台がトップ10のグリッドを取れたのはよかったかと。
もちろんダントツに速いメルセデスの2台にはかないませんでしたが、(マックス)フェルスタッペン選手は何とか食い下がってくれてそこから近い位置でスタートできる。(ピエール)ガスリー選手は残念ながらグリッド降格のペナルティを受けて、8番手ですか。
とはいえトロロッソのふたりも含めて、そんなには悪くないポジションで、十分に挽回は可能かと思います。
──4台Q3進出は、まず何よりもマシンパッケージが優れているからこそでしょうか?
田辺TD:そうだと思います。トロロッソはこのところ、2台揃っていつQ3に進んでもおかしくない速さを見せていましたしね。Q3に3台進めるポテンシャルは十分にありました。その意味で今日はきちんと、4台が本来の速さを発揮できたんだと思います。
──ただQ3初進出の(アレクサンダー)アルボン自身は、Q3でQ2の自己ベストを更新できないことを、非常に悔しがってました。
田辺TD:Q1からQ2、Q3とタイムを詰めていくことは、ドライバーにとってとても重要なことですしね。前との差も、少し離されてしまっていますし、本人としては不本意だったのでしょう。言い換えれば、まだ伸び代があるわけですが。
──今週末、パワーユニット側はどれだけ貢献できたという手応えを感じていますか。
田辺TD:われわれとしてはクルマを一度も止めるようなことも起きず、4基のパワーユニットがきちんと仕事をしたと満足しています。
──ドライバビリティの調整も、うまく煮詰められましたか?
田辺TD:問題なく行ったと思います。調整も問題ない状態になっていますね。
──二日目に入って路面の改善が予想より大きかったと、他チームでは言っていました。パワーユニットはその変化に、しっかり対応できましたか?
田辺TD:パワーユニット側が対応に苦労するほど、劇的な改善ではなかったですね。
■限界点を感じ取る能力が優れているマックス・フェルスタッペン
──ガスリーが自信を持ち始めていると、田辺さんも言ってました。一方でフェルスタッペンは盤石というか、一発アタックも確実に決めてまったくミスがない。ドライバーとしての彼の能力を、どう評価していますか。
田辺TD:安心して見ていられる、というと彼に対して失礼かと思うんですが、とにかくそういうドライバーですね。行ってくるよ、という感じでコースに出て行って、ぱーんと期待通りのタイムを出す。パワーユニットのデータを見ていても、まったく不安がない。
──予選Q3の走りを見ても、1回目のアタックではターン1でまだタイヤが冷えていると無線で言って、でもそういう状況でもしっかりタイムを出していました。さらに2度目のアタックで遅い車に詰まると、焦ることなくすぐにピットに戻ることを決める。大人ですよね。
田辺TD:こういう市街地コースですから、ライバルたちのタイムの伸びを注視していて、こちらもさらにタイムを伸ばせるのか、リスクが大きすぎるか、その辺のところをしっかり把握している印象です。
──レース全体を、俯瞰して見てますよね。
田辺TD:これ以上やっても無駄だと見極めると、さっさとやめる見切りの良さがありますね。
──アタック前にすでに、この状況だとここまで行ける、このタイムが出せるというのが見えてるんでしょうか。
田辺TD:かもしれません。エッジ、限界を感じ取る能力が特に優れていて、そこには決して入り込まない。彼のコメントやタイムの出し方を見ていると、ここまで行くと危険だから引いておこうというのを、非常に意識的にやってますね。スローモーションで、ものが見えるというか。
──今まで田辺さんが付き合ってきたたくさんのドライバーの中でも、かなり特異な存在ですか。
田辺TD:そうですねえ……。(しばらく考えて)時代も違うわけですが……。
──クルマも違いますから、直接比較はできないと思いますが、速く走らせるという点では同じです。
田辺TD:トップドライバーであることは確かですね。これからさらに、伸びてくるでしょう。