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松山ケンイチ×早乙女太一×中島かずき『プロメア』鼎談 松山「プレッシャーがすごくあった」

2019年05月24日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 人気TVシリーズ『天元突破グレンラガン』『キルラキル』を手がけた今石洋之監督と脚本家・中島かずきが再タッグを組んだ完全オリジナル劇場アニメーション映画『プロメア』が5月24日より公開されている。


参考:全ての人が心震える怒涛のラスト 『泣き虫しょったんの奇跡』は“夢を見続けること”を肯定する


 全世界の半分が焼失したその未曽有の事態の引き金となったのは、突然変異で誕生した炎を操る人種<バーニッシュ>の出現だった。あれから30年、攻撃的な一部の面々が<マッドバーニッシュ>を名乗り、再び世界に襲いかかる。対バーニッシュ用の高機動救命消防隊<バーニングレスキュー>の燃える火消し魂を持つ新人隊員・ガロと、<マッドバーニッシュ>のリーダー・リオ。2人の熱き魂がぶつかりあう。


 今回リアルサウンド映画部では、W主演を務めた主人公で消防隊<バーニングレスキュー>に所属する新人隊員ガロ役の松山ケンイチ、ガロの宿敵となるリオ役の早乙女太一、そして脚本を担当した劇団☆新感線の座付き作家でもある中島かずきによる鼎談を行った。キャスティングやアフレコ時のエピソードなど語り合ってもらった。


ーーお三方は劇団☆新感線の舞台などで長いお付き合いだと思います。松山さんと早乙女さんは中島さんの脚本を読んだ時はどんな感想を持ちましたか?


早乙女太一(以下早乙女):「かずきさんだ!」となりましたね(笑)。舞台だと生身の人間がやるから、という部分もあると思うんですけど、舞台で感じるかずきさんのエネルギーを更に強く感じたのが最初の印象です。


中島かずき(以下中島):舞台だと火を扱って戦うなんて無理だからね(笑)。


ーー松山さんはいかがですか?


松山ケンイチ(以下松山):僕はもともと『キルラキル』『天元突破グレンラガン』の大ファンで、この台本を今石洋之監督や檜山修之(ゲーラ役)さんが読んでいるのかと思ってウキウキしていました。でも自分が演じるガロを主体に読んでいくと、これどうやって喋るんだろうなと。普段は台本を読んでいると「こういう風に喋るのか」となんとなくわかるものなんです。『髑髏城の七人』の捨之介、『ふたがしら』の弁蔵の時はそう感じたけど、『蒼の乱』の小次郎と今回のガロは自分の中で材料がなかったんです。


中島:え、捨之介はあるのに?


松山:捨之介は、自分より前に演じている人がいたので、理解することはできました。でも小次郎とガロはなかったんですよ。だからこれは大変だと思いました。ただ、“熱血”という部分では、小次郎もガロも共通していましたし、『キルラキル』『グレンラガン』にも、作品の熱さが必ずあったので、とにかく“熱血”な人間だというのはわかるんですが、自分の中でどう消化して表現するのか見つからなかったです。


 台本を読めば読むほど、檜山さんの声が浮かんできました。檜山さんも『勇者王ガオガイガー』の獅子王凱で、すごく熱血な役をやっているから、それが蘇ってきて。でもそういうことではなく、自分が演じるのならどうしようかと、それに困りました。


ーーそれはどのように解決したのでしょう?


松山:ガロ自体もそういう性格なんですけど、計算してもしょうがないなって(笑)。 とにかく出たとこ勝負でぶつかってみて、今石さんもかずきさんもいるし、後で言ってもらおうと思って、とりあえずやってみたんです。そして、僕は『グレンラガン』や『キルラキル』からも勇気をもらっていた側で、今回それをあげる側になったわけだから、気負いやプレッシャーがすごいあったんです。かずきさんには言ってないんですけど、アフレコが最初2日連続で1日休みがあった時に、寝込んじゃったんですよ。今まで撮影で寝込んだこともなかったので、「これだけ叫んだら寝込むんだ」と初めて知りました(笑)。


中島:それはエネルギー切れみたいな感じになったってことなの?


松山:そうです。その時にガロってすごいなと思いましたし、声優さんみんなすごいなと思いましたね。舞台でも寝込んだことなかったのに(笑)。


ーー身体を使うより声だけの演技の方が体力を使うんでしょうか?


松山:だと思うんですよね。


中島:逆に体を使う方がエネルギーを発散する部分はあるかもしれないね。


松山:逃している部分はあるんでしょうね。


中島「太一くんが第一声を発した瞬間、『リオがいる』という空気に」
ーー一方で早乙女さん演じるリオは静かな怒りを見せるキャラクターです。声だけでそれを表現するというのはいかがでしたか?


早乙女:かずきさんが描いてくれる僕のキャラクターって悲しみや怒りみたいなものを背負っていることが多いのですが、舞台だと体を使って表現するものだったなと。今回声優として声だけに絞った時に、バリエーションを出すのがものすごく難しかったですね。


中島:太一くんが第一声を発した瞬間、ブースの中は「リオがいる」という空気に包まれました。その背負った感じというのは僕がよく背負わせているからなんだけど(笑)。でもこれがバーニッシュのリーダーの声なんだ、とすごく頷けたんです。あの瞬間に「いける」と思いましたし彼で良かったなと思います。


早乙女:僕はどちらかというと闇属性な役が多いのですが、闇をやる時、どこのタイミングでそれが薄れるかはその時の話や役柄によって違います。その闇を振り払ってくれるエネルギーを松山さんは持っていて、最初の舞台の時に、その光のエネルギーに感動したんです。松山さんは僕と一緒にやる時はエネルギッシュな役が多く、今回もそうだったので一緒にやれてよかったです。


ーー中島さんは脚本執筆時から、このキャスティングを意識していましたか?


中島:アニメのシナリオの場合はかなり前から書くので、当て書きということではないのですが、『ふたがしら』というドラマで、弁蔵と宗次という陽気な熱血男とそれに突っ込むクールな男というコンビをこの2人で書いていたんですね。『プロメア』を書いている時もなんとなく弁蔵と宗次だなと思いながら書いていた部分もあって、キャスティングの時に希望を聞かれて、松山くんと太一くんでと、最初にリクエストしました。


ーーセリフの間が特に印象的だなと感じました。アフレコの時の様子をお伺いしたいのですが。


松山:僕は間を意識するというのはなかったです。録音のマークの間に喋るというのが絶対条件で、芝居だとある程度自分でジャッジできたりするんですけど、それどころじゃなかったですね。その間というのは今石さんが作っているんじゃないかな。


早乙女:僕もいっぱいいっぱいになってました。でもずっと2人でアフレコをやらせていただいたので、そこは良かったです。1人でやっていたら訳わからなくなっていたでしょうし、松山さんが一緒にいてくれて前のセリフを聞いた上で、声を発せるからやりやすかったです。


ーーアフレコをバラバラに撮ることも多いと聞きますが、2人一緒だったんですね。


中島:今回はこの2人の掛け合いは空気感を生かしながらやってもらったんです。後半のパートにはそこに堺(雅人/クレイ役)くんも入って3人でやりましたね。


ーー堺さんが入ることによってまた違った雰囲気になったんでしょうか?


松山:基本的に僕らがコミュニケーションを取る堺さんは心優しいクレイみたいなんですよ。撮影の合間もニコニコしながら子どもの話とかしてて、「本番やります」となった瞬間にスイッチが入るので、なんでそんないきなり切り替えられるんだろうと(笑)。


中島:でも堺くんも小劇場上がりで、早稲田劇研の池田成志さんの系譜にいる人だから(笑)。池田成志の系譜と思えばなんとなくわかりませんか?(笑)。


松山:そうですね(笑)。 いや本当にすごかったです。


ーー早乙女さんは堺さんの印象はいかがでした?


早乙女:さらにボルテージを上げてくれたというか、2人でいる時のエネルギーとはまた違ったエネルギーが押し寄せてきて、その大きさをすごく感じました。


中島:俺もブースでそのエネルギーに腹を抱えて笑ってたからね。そのトーンでセリフを言うんだ! と(笑)。


早乙女:全部のセリフが必殺技に聞こえるんですよ(笑)。それぐらいの力があって、見た時もそれを感じたし面白いなと。


中島:お2人は今までそういう力を込めたセリフもあったけど、芝居の時は堺くんはそんなに強いトーンを出すのは少なかったから、こっちのセリフはどうなんだろうなと思ったけど、想像以上だったよね。


ーーこの作品のテーマとして、「他者との差異を認める」というのがあると思うんですけど、このテーマについてどのように考えましたか?


中島:実は新感線ではそのテーマを割と書いていて、今回はそれがバーニッシュとして現れているのかなと思います。まさに今の社会では多民族の問題があるけど、そういったことをどう対応していけばいいのかなと自分でも考えていて。どう受け止めるのか、どれだけの大きさで受け止めるのかということを1人1人が意識していけばいいなと思います。


松山;ガロはまっすぐでバカだけど、でも許容する器の大きさを感じるんです。それってある意味すごく大人だと思うし、一方でどう考えても子供っぽい部分もあって、そのバランスが絶妙なんです。“熱さ”は作品全面に出ていますが、色々な人を許しているという部分は、今の世の中に少し足りなくも感じているので、注目していただきたいなと思います。


(取材・構成・撮影=安田周平)