今年もライバルたちを圧倒しているメルセデス。その最大の理由は、彼らが最高のマシンに最強のエンジンを有しているからにほかならないが、それを可能にしているのは、チームが目標に向かってしっかりと団結しているからにほかならない。だから、チーム内の雰囲気がとてもいい。それはメルセデスを取材していると、よく感じる。
F1第5戦スペインGPのレース直後に開かれたトト・ウォルフ(メルセデス・ベンツ・モータースポーツ責任者)の記者会見は、メルセデスがいかに風通しのいいチームであるかを感じさせるものだった。
会見の途中で、メルセデスのエンジン責任者を務めるアンディ・コーウェルがサーキットを去る前に、ウォルフにあいさつに来たのだが、会見中ということで会見場の後ろで待っていた。すると、それに気づいたウォルフが会見を中断して、コーウェルへ歩み寄って抱き合い、開幕5連勝の喜びを分かち合った。
このとき、筆者はちょうど目の前にいたのだが、ウォルフが「バッテリーは問題なかったよ」と笑いながらコーウェルにささやいていたのを聞き逃さなかった。じつは、前日の予選でメルセデスは、ルイス・ハミルトンがバッテリーを十分に充電することができず、最大限のパフォーマンスを発揮できずに2番手に終わるという、小さな問題に見舞われていた。
もちろん、これはハードウェアに問題があったわけではなく、ハミルトンがアウトラップで渋滞に引っかかったために起きた問題なのだが、そういった困難もジョークで笑い飛ばせるほどの信頼関係を築いているあたりにメルセデスの強さを感じた。
また会見の終盤には、スペインGPがダイムラーCEOとして最後のグランプリとなったディーター・ツェッチェ博士が会見場にやってきた。ツェッチェを見つけたウォルフは、再び会見を中断したものの、椅子から離れることはなく、マイクを使って、ツェッチェに感謝の言葉を贈った。
「彼はこの素晴らしいブランドを代表する者としてわれわれを信頼し、私たちは誇りを持ってそれに取り組んできた。彼ほどスタッフに権限を与えるCEOはそう多くない」
それを聞いたツェッチェは、黙って右手を上げて、感謝の意を表して会見場を出て行った。
こういうシーンは、例えばフェラーリでは決して見ることはできない。2018年までのフェラーリは、サーキットに会長(故セルジオ・マルキオンネ氏)が来ると、多くのスタッフが会長をサポートし、時にはチーム代表(マウリツィオ・アリバベーネ氏)がセッション中にもかかわらず、サーキットに到着した会長を出迎えるというシーンを見かけたものである。
またスペインGPではウォルフが、現在のF1会長のチェイス・キャリーに代わって、その後釜に収まるのではないかという噂が広まったが、すぐに否定している。
「多くの憶測があるようだが、私はメルセデスという特別で、素晴らしいチームにいる。私はチームの株主であり、そして素晴らしいメンバーとともに仕事できることに幸せを感じている。それは私にとって重要なものだからね」