「今日の僕らは7位になれたはずだ。その可能性を自ら逃してしまった」
F1第5戦スペインGPを9位入賞で終えたダニール・クビアトは、満足と落胆が半々といった表情でそう語った。
今季のトロロッソSTR14は高いポテンシャルを持っている。開幕前テストでトップタイムも記録したこのバルセロナで、2カ月後のグランプリ本番でもフリー走行から好走を見せた。
「正直言って僕らのアップデートはBカーと言うべきか分からないくらいだ。それが想定通りに機能してくれることを願っているよ」
各チームが大きなアップデートを持ち込んできたのに比べると、トロロッソ・ホンダのアップデートは見た目では気付かないほど小規模だった。そして何より、開幕からずっと中団グループの上位を争うポテンシャルがありながらミスやトラブルでそのチャンスを逃し続けてきたのが今季のトロロッソ・ホンダだった。とにもかくにもクリーンなレース週末を送ることができていないのだ。
それでもスペインGPのトロロッソ・ホンダはフリー走行でしっかりと走り込んでデータを収集し、その分析を元に予選に向けて良いセットアップに仕上げることができた。
クビアトはQ3に進出し予選9位。アレクサンダー・アルボンもQ2最後のアタックでミスがなければQ3に進めていたという速さがあった。
「ターン5で攻めすぎてワイドになってしまって、出口でスロットルを使って向きを変えようと思ったら大きくスナップしてしまった。そのせいでターン7に行く頃にはリヤタイヤが終わってしまっていた。僕のミスだよ。あれがなければQ3に行けただけに残念だ」
それでも1ストップで走り切れるかどうかギリギリのスペインGP決勝に向けて、タイヤを自由に選ぶことができる11番グリッドは絶好の位置と言えた。
実際にトロロッソ・ホンダの2台は最初から2ストップ作戦でプッシュしてハース勢を上回るペースで周回を重ねた。
金曜フリー走行の時点から手応えを掴んでいたレースペースは、予選ペース以上に良好だった。
「今日の僕らは速かった。中団グループの中で一番速かったと思うよ。ハース勢、キミ(・ライコネン)、(ダニエル・)リカルドなどコース上でたくさんオーバーテイクできたし、自分自身もチームもパフォーマンスを最大限に引き出すことができた」(クビアト)
■ピットストップ後にミディアムタイヤを選んだトロロッソ・ホンダ
レース終盤を前に、クビアトは8番手、アルボンは10番手と2台が入賞圏内を走っていた。ホンダとしても目標としてきた4台入賞は目前だった。
しかし46周目にターン1~2で起きた事故処理のためにセーフティカーが入り、レースは大きく動いてしまった。いや、レースが動いたというよりも、トロロッソ・ホンダ自身が自滅してしまった。
セーフティカー導入と同時に2台を同時にピットに呼び入れて2回目に予定していたピットインを済ませる戦略に出たが、チームクルーはアルボンが先に入ってくると思い込んでアルボンのタイヤを用意して待っていた。
しかし先に入って来たのはクビアトで、クルーは1周後に用意するはずだったクビアトのタイヤを慌てて取りに戻って装着し、大幅にタイムロス。クビアトの後ろで待っていたアルボンも同様にタイムロスを余儀なくされ、ピットストップ後には9番手・11番手に順位を落としてしまった。
もうひとつのミスは、ここでミディアムタイヤを履かせてしまったことだ。
周囲の中団勢はセーフティカー明けのタイヤウォームアップを優先してソフトタイヤを履いていた。どのドライバーも予選で使った中古しか残っていなかったが、燃料が軽くなった状態での残り15周弱の走行なら摩耗的には問題がなかったからだ。
そのためトロロッソ・ホンダ勢はリスタート直後の威力に欠け、クビアトは後方からソフトタイヤで攻めてくるカルロス・サインツに抜かれてしまった。前方でチームメイト同士で接触してコースオフしタイヤのグリップを失ったロマン・グロージャンをパスすることはできたが、その自滅がなければクビアトは10位のままレースを終えていたかもしれない。
トロロッソ自身はソフト勢がペースを落としたところで攻めていくつもりだったようだが、あまりに残り周回数が少なすぎた。
「カルロスにはあとちょっとのところまで接近できたしあと1周あれば追い抜けたと思う。彼らはセーフティカー明けでウォームアップが良いソフトタイヤを選んだからすぐにペースを上げてオーバーテイクをすることができたけど、僕らはミディアムだったからしばらく経ってからペースが逆転して彼を追い上げることができた。でも最後まで全開でプッシュしたんだけど少しだけ届かなくて抜けなかった」(クビアト)
アルボンもグロージャンを追いかけたが0.804秒届かず。
終わってみれば、セーフティカーでミディアムタイヤを選んだのはミスだった。STR14の実力を考えれば、ピットストップでのタイムロスもさることながら、このタイヤチョイスの失策も決して見逃すことのできない大きなミスだったと言える。
そしてクビアトは「7位になれたはずだった」と言ったが、それは間違いだった。
レース全体を通して争っていると思っていた相手のハース勢は、実は1ストップ作戦だった。見た目上は順位を争っていたが、実際にはピットストップ1回分の差があったのだ。ハースのエンジニアは言う。
「ウチはタイヤ摩耗的には余裕で1ストップで行けた。トロロッソが2ストップなのは分かっていたから、途中でケビン(・マグヌッセン)が抜かれても心配はしていなかった」
しかしトロロッソ自身の全力を出し切るという意味においては、“クリーンな週末”には着実に近付きつつある。マシンがピタリとハマるウインドウの狭さは相変わらずだが、そこに上手く合わせ込むことができるようになってきている。ドライバーたちのミスも少なくなってきている。
トロロッソ・ホンダの歩みは、ゆっくりとしてはいるものの着実に前に進みつつある。