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マキシマム ザ ホルモン、なぜ2号店を開店? デビューライブを観て感じたこと

2019年05月20日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2019年5月5日、さいたまスーパーアリーナ『VIVA LA ROCK 2019』の3日目、屋外のGARDEN STAGE、17時。マキシマム ザ ホルモン2号店のデビューライブを観た。


(関連:マキシマム ザ ホルモン『デカ対デカ』は、“ホルモンと遊ぶ”ための作品である


 マキシマム ザ ホルモン2号店のメンバーを、すでに『VIVA LA ROCK』への出演が決まっている状態で一般公募する。一次審査(書類&映像選考)→二次審査(集団面接)→三次審査(合宿)→最終審査(各パート2名まで絞ってその2名とメンバーでセッションしたり話したり)の審査4回で、メンバーを決定するーーという流れを、ドキュメンタリー番組『ガチンコ ザ ホルモン』にして(一部フェイクドキュメンタリーもあり)、YouTubeのホルモンのオフィシャルチャンネルにアップしていく、という企画。0回から7回目まで観て、リアルサウンドテックにレポを書きました。こちらです(参考:YouTube番組『ガチンコザホルモン 』は映像企画のエポックに? 書類審査からオーディション編までを振り返る)。


 その後、『ガチンコ ザ ホルモン』は、14回目まで更新された。9回目から12回目までは合宿編。大縄跳びや丸太切りをやらされたり、マナー講座を受けさせられて先生にめちゃめちゃ罵倒されたり、「爪爪爪」の〈ねっちょりナポリタン〉の部分だけ延々と練習させられたり、アルバイトに行かされたり(上ちゃんも)、催眠をかけられたり(ダイスケはんも)、みんなでカレーを作って食べたり、演奏の腕をチェックされたりする。で、13回目と14回目で、その中から絞り込まれた各パート2名を、八王子のリハスタに呼んで最終審査、そして結果発表。その14回目がアップされたのは、『VIVA LA ROCK』出演の前日、5月4日だった。


 4弦(ベース)は21歳女子大生レフティベーシスト・わかざえもん。ドラムは、「女子高生が卒業記念に【絶望ビリー/マキシマム ザ ホルモン】をニタニタしながら叩いてみた」動画が書類選考時250万回再生(2019年5月13日現在は270万回再生)を記録し、それを観たメンバーに大好評だったオマキ(現在20歳)。歌と6弦(ギター)は、「亮君と同じで電車に3駅しか乗れない」等の、社会生活を送るにはいろんな難を抱える男・ヨシムラタクマ22歳。二次審査の段階で、彼に若き日の自分を重ね合わせた亮君から、メンバー審査とは別に「生活習慣病にならないためにダイエットする」というミッションが与えられ、その様子を追う『腹ペコ・ノンフィクション』が作られた。彼は別枠なので最終的に選ばれないであろうと予想されたが、まさかの大抜擢。そしてボーカルは、スクリームも女声も出せる、つまりダイスケはんとナヲちゃんの役割をひとりで担える「せき君」こと、オメでたい頭でなによりのボーカリスト・赤飯(以下、セキはん)。さらに。亮君原作のマンガに出てきたキャラクターに扮した被り物DJ・DANGER×DEERも“第五のメンバー”として選ばれた。最後に明かされた中身は、なんとワールドワイドで活躍するEDM DJ/プロデューサー・KSUKEだった。


 マキシマム ザ ホルモン2号店が出演する『VIVA LA ROCK』のGARDEN STAGEは、会場外の飲食ブース多数出店エリア『VIVA LA GARDEN』の中にあって、フェスのチケットを持っていない人も観ることができる。一段低くなったフロアがネットで仕切られており、リストバンドを持っているお客さんが優先的にその中に入れて、そのあとリストバンドを持っていない人も入れるし、ネットの外からも観ることができるーーというふうに普段はなっているのだが、この時間だけはリストバンドを持っている人限定で整理券を配って入場させる、というオペレーションに変更。A、B、Cと分けて、100人ずつ(私の目測です)並ばせての入場だったのだが、最終的にNまで行っていたので、1,500人近くになったんじゃないかと思う(これも目測です)。で、入りきれないすさまじい人数、2000人ぐらい(あくまで目測です)がそのネットの外をぐるーっと取り囲む中、定刻の17時にメンバーが登場。まずDJ DANGER×DEERがいつものSEをプレイし、ライブがスタートした。


1 ぶっ生き返す
2 包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・キリ
(※「包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・キリ」の正式名称は各単語に×表記)
3 シミ
4 「F」
5 恋のメガラバ


 という5曲の間に私の目と耳に止まったポイント、以下、箇条書きにします。


・合宿のマナー講座でしごかれたため、セキはんによる最初のMC、異常に丁寧な言葉遣い。で、途中で「マナー講座で怒られた」ロックバンドらしいMCに変わる。


・本店ライブでは恒例「恋のおまじない」を「2号店の一味違ったおまじない」にアレンジして決行、腹ペコたちもご唱和。最後の「やったー!」のところをエドはるみで言うところの「グー!」の形にし、協賛企業の日清カップヌードルコッテリ―ナイスをモチーフに、「ナイス!」と叫び会場中が一つになる、というもの。


・このライブを観て「やっぱりホルモンの演奏と比べるとな……」と思った人、いると思う。僕もそう感じたが、「あたりまえじゃん」と、すぐ思い直した。個々のメンバーの演奏スキルの確かさはオーディション時であきらかだし、そもそもセキはん=赤飯とDJ DANGER×DEER=DJ KSUKEというプロの人も入っているわけだが、だからといって組んですぐにいい音が出せるわけじゃない、バンドというものは。しかも比較対象がホルモンって。組んでいきなりそれにひけをとらない音を出せる人なんていない。むしろプロでもコピーするのが難しいあの演奏をよく再現していた、と言っていい。


・DJ DANGER×DEERの音が一番フィーチャーされていたのは「恋のメガラバ」。5曲の中で、もっとも新しい解釈のあるバージョンになっていた。


・セキはんは、ダイスケはんのスクリームとナヲちゃんの女声の両方を担っているし、そもそも自分のキャラを確立しているボーカリストなので、ホルモンをそのままコピーしただけ感はあまりない。だが、最後のMCの長くて熱くてちょっと校長先生入った感じは、見事にダイスケはん節だった。


・途中まで審査に残ったが惜しくもメンバーに選ばれなかった候補者が数名、ライブを盛り上げるべく客席でヒートしまくっていたのが印象的。特に、ホルモンへの思いを泣きながら語って亮君をもらい泣きさせた男・マキシマムザ竜君の姿が目を引きました。


・最後にメンバーが本家ホルモンの4人を呼び込む。そこで本家のみなさんが、お客さんやこのフェスにお礼を言ったり、メンバーをねぎらったりした末に、ライブ活動を再開すること、6月からツアーを行うことを発表する。


 こんなところでしょうか。こんなところでしょうね。で。総じて、これがどんな時間だったのかは、最後に出て来たナヲちゃんのこの言葉が、端的に表していると思う。


「いや、ダメ! (2号店の)顔見たら泣いちゃうわ!」


 そう、めちゃめちゃ感動的なライブだったのだ。『ガチンコ ザ ホルモン』を観て、彼ら彼女らのストーリーを追って来た身にとって、そういうものだった。ここまで辿り着いた彼ら彼女らと完全に気持ちが同化してしまっていて、「よかったねえ!」という祝福の気持ちと、「やったあ!」という達成感が同時に襲ってくるような。特に後者。俺ただYouTube観てただけなのに達成感? と、自分でも不思議になるような。


 逆に言うと、『ガチンコ ザ ホルモン』を観てなくて事情を知らない人にとっては、「やたら盛り上がってたホルモンのコピーバンドのライブ」にしか見えなかったかもしれない。ただ、そんなような「外の人にとってはどうでもいいけど中の人にとっては大事、その落差がものすごくでかい」というマインドは、そもそも、ホルモンにおける重要なポイントのひとつであるように思う。


 亮君パートにヨシムラタクマが選ばれた理由が、このライブを観てよくわかった。彼に決まった時は、正直、ちょっと心配になった。他のメンバーと違ってライブ経験もバンド経験もなさそうだし。歌えるしギター弾けるけど、技術面だけで見るともっとうまい人もいたし。あと何より、メンタルに大きな負担がかかりそうだし。いきなりフェス出るとか大丈夫? 赤の他人と一緒にバンドやるのとか大丈夫? 倒れたり、ステージに立てなくなっちゃったりしない? という。


 しかし、だからこそ、ここに集まった腹ペコたちは、目の前にいる2号店を「自分自身」として観ることができたのだ。要は、タクマは俺なのだ。彼がいなかったら、「赤飯、もともとプロのボーカルじゃん」とか「わかざえもんめちゃめちゃうまいじゃん、俺あんなふうに弾けないもん」とかいう気持ちが入ってしまったかもしれない。バンドがよくライブで「ステージの上も下もない」とか「みんなもメンバーなんだ」とか言うじゃないですか。気持ちはわかるけど、でもなあ……と思うことが少なくないが、ことこの日に限ってはまさにそうだった。会場全体がマキシマム ザ ホルモン2号店のメンバーだったのだ。


 途中の審査で落ちた人たちが客席で大盛り上がりしている姿が「悔しいだろうに健気だなあ」みたいな、せつない感じに見えなかったのも、そのせいだと思う。彼らもステージの上にいるのと同じように、僕には映った。くり返しになるが、それは彼らだけでなく、この場にいてこのストーリーを共有している全員がそう見えたのだ。


 タクマがあたりまえにギターを弾いて歌うことができたのも、そんな空気のおかげもあったのではないかと感じた。最終的に選ばれたひとり、というよりも、この場にいるひとりとしてギターを弾いて歌ったからだと思う。


 きみたちも2号店なんだ。きみたちもホルモンなんだ。ということを、腹ペコたちが本当の意味で理解できるように、亮君はこの企画を行ったのかもしれない。嘘です。そのためだけにここまで手の込んだことは、やらないと思います。ただ、基本、常にそれが信念にある人なので、何をやっても結局そこを含んだ表現になるんだなあ、とは思う。


 最後にもうひとつ。この「2号店」企画、エンタテインメントビジネスというもののあり方に対する問題提起や提案、という側面もあるように感じる。しかもけっこうマジに。たとえば僕は、この企画を追いながら、こんなことを連想しました。これも箇条書き。


・CD売れない、稼ぐのはライブで、っていうのはもう聞き飽きたけど、ライブの本数って限度があるじゃないですか、身体がひとつしかないから……あれ? じゃあふたつあったらどうなる?


・たとえば新日本プロレス、一回の興行になるべくいっぱい人気選手を出すために、6人タッグや10人タッグの試合が増えてるけど、いっそ2チームに分けて巡業すればよくない?……あ! それWWEがやってるわ。SmackDownとRAW。あと、調べてみたら新日もそのような構想がある、という発言を、菅林直樹会長がしていることがわかった。(参考:新日本プロレスNYで大盛況 “逆輸入パターン”戦略とその課題とは?)そうか。なるほど。というか、やはり。


・違うメンバーで同じバンド名を名乗るのって、歌舞伎や古典落語で「×代目」として襲名していくのにちょっと近い感じがする。エンタメ業界では昔からある、ということは、ある部分では理にかなったシステムなのかもしれない。


・昔、BO GUMBOSがデビューしたばかりの頃のインタビューで、どんと(久富隆司)が「BO GUMBOS生涯一バンド。メンバーが死んでも『二代目どんと』とかがいるみたいにしたい」という話をしていた。ということを思い出しました。


 今すぐ具体的に何かするわけじゃないが、そんなように、いろいろ発想が広がっていくのでした。というふうに、固定概念に揺さぶりをかける、常識を壊したり刷新したりしていく、というのも、ホルモンが一貫してやり続けていることですね。(文=兵庫慎司)