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ソニーとマイクロソフトのタッグは“コンソールビジネスの終わり”を示唆するか?

2019年05月20日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 ソニー株式会社(以下、ソニー)とマイクロソフト コーポレーション(以下、マイクロソフト)が、それぞれのゲームやコンテンツのストリーミングサービスでの用途を目的とした、将来のクラウドソリューションをMicrosoft Azureを活用して共同開発すること、ソニーのゲームやコンテンツのストリーミングサービスに、現在のAzureのデータセンターベースのソリューションの利用も検討していることを発表。新たな顧客体験を開発するためのパートナーシップに関する意向確認書を締結した。


 今回の協業により、両社はそれぞれの世界中のユーザーにこれまで以上に充実したエンタテインメント体験を提供するとともに、コンテンツ制作者コミュニティに向けて、より良い開発プラットフォームを提供していくことを目指す。このタイミングでライバル同士が手を取り合った背景と、2社のタッグがゲーム業界・社会に与える影響とは? まずは2社が手を組んだメリット・デメリットについて、eスポーツ業界アナリストで、ゲームシーンの動向に詳しい但木一真氏に話を聞いた。


「今後、非ゲーム業界からのクラウドゲームへの参入が相次ぐことが予想されるため、プラットフォームのシェアを確実に握るべく、技術力・コンテンツ力がある2社が手を組んだと思います。Google社が発表しているStadiaが最大のライバルであることは間違いないでしょう。クラウドゲームを運営するにあたり、一番重要なのはゲームタイトルを囲い込むこと。ゲーム企業である二社が手を組んだことで、囲い込みの交渉力が格段に向上することが一番のメリットです。デメリットとしては、コンソール機でビジネスを行う2社がクラウドサービスへの転換をにおわせたことで、消費者が次世代コンソール機を買う動機が薄れる懸念があるということです」


 Xbox、PlayStationと、それぞれゲームハードを提供している2社にとっては、ある程度のリスクを覚悟したうえでの提携ということだろう。その上で、Google(Stadia)とAppleと今回のSONY&MS連合を比較し、それぞれの強みについても聞いた。


「上述の通り、目的はゲームタイトルの囲い込みです。技術力のあるパブリッシャーを囲い込んでオリジナルコンテンツをつくる、という、動画配信サービスでもみられる戦略をとるための布陣だと考えられます。一方、GoogleとApple、Amazonといった企業に対抗できるのは、他サービスとのバンドルです。Amazon Primeのように自社で展開するサービスを複数バンドルしてサブスクリプションの付加価値を上げるという戦略をとれる企業は、積極的にそこに注力していくと考えられます」



 また、今回の提携によって、ゲーム市場はどう変わり、ユーザーにとってはどんな身近な変化があるのか。但木氏に問いかけてみた。


「コンソールビジネスの終わり、という風にも見られなくはないです。ソニーもマイクロソフトも端末に依存しないゲームビジネスを展開する方向に舵を切ったように思います。ゲーム業界の未来は通信速度とディスプレイや周辺機器の性能にのみ依存するクラウドサービスが担っていくことは間違いないのですが、ゲーム業界の一部であるeスポーツ業界では”チート”(ゲームを有利に進めるための技術的不正)の問題があります。コンソール機と比較して極めて自由度の高いPCではゲームプレイを補助するソフトが開発されてしまい、”オンライン上で純粋な競技シーンが実現できない”という懸念があります。


 なので、チートを防ぐという専門的な需要、あるいはVRなどの技術的要因も含む、特定の領域の需要を満たす専用機は今後も可能性があると考えます」


 ゲーム業界が大きくハードに依存しない方向へ進むにあたり、その勢いを大きく加速したといえる今回の提携。但木氏の指摘するように、今後のクラウドゲームにおける大きな課題は「PCゲームで正しくチート対策が取られること」。これをクリアすれば、さらにゲーム業界における「クラウドゲーム」の立ち位置は、確固たるものになりそうだ。


(文=中村拓海)