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EXILE SHOKICHI、『1114』で具現化した音楽性 独創的なサウンドメイクとリアルな歌詞に迫る

2019年05月20日 11:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 EXILE SHOKICHIは、インタビューをしていて最も楽しく、最も心に残るアーティストのひとりだ。まずは、活動を共にしているグループのメンバー、自分たちを支えてくれるスタッフ、楽曲制作に関わるクリエイターたちに対するリスペクト。常に謙虚で、感謝を忘れず、(自分のインタビューに際しても)周囲の人たちのすごさ、魅力について語ることが多いのだ。まだ世に出ていない同世代の仲間をフックアップしたいという思いもめちゃくちゃ強い。00年代前半、札幌時代に同じクルーで活動していたSWAY(DOBERMAN INFINITY)を自らの1stシングル『BACK TO THE FUTURE』(2014年)にフィーチャーしたのは、その好例。当時の取材でSHOKICHIが「SWAYってヤツがいて、めちゃくちゃヤバいんですよ!」とアピールしていたことは、いまも強く印象に残っている。


参考:EXILE SHOKICHI、1114日の軌跡と 初アリーナツアーに注ぐ情熱


 さらに特筆すべきは、自らが志向する音楽を多くの人に届けたいという意志だ。ご存知の通りSHOKICHIは、2006年、EXILEのボーカルオーディション「VOCAL BATTLE AUDITION」に参加。3次審査で落選するも、2007年に二代目J Soul Brothersに参加。2009年にEXILEに加入し、2012年からはEXILE THE SECOND(当時:THE SECOND from EXILE)としても始動。さらに2014年にソロデビューを果たし(自ら“ソロアーティスト・EXILE SHOKICHI”の企画書を作り、スタッフに直談判したのがきっかけ)、クリエイターとしての資質もアピール。現在では、EXILE THE SECONDのメインコンポーザーの一人となり、シンガーとしてはもちろん音楽面でもグループを引っ張る存在となっている。活動の形態が大きく変わるたびに「自分がやるべきことは何か?」と試行錯誤を繰り返してきた彼だが、その音楽的スタンスも徐々に固まってきているようだ。


 と、彼の人柄とキャリアを改めて紹介したのは、もちろん理由がある。5月15日にリリースされた2ndソロアルバム『1114』。このアルバムには、SHOKICHI自身のキャラクター、音楽的志向、これまでの軌跡(そして未来のビジョン)が明確に示されているのだ。シングル曲の「Underdog」、「Futen Boyz」(映画『DTC -湯けむり純情篇- from HiGH&LOW』オープニングテーマ)、さらに彼自身の音楽ルーツであるオーセンティックなR&Bをアップデートさせた「白夜」(写真集『BYAKUYA』の初回発行版に収められたバラードナンバー)、2カ月連続配信シングル曲の「君に会うために僕は生まれてきたんだ」「サイケデリックロマンス」などを収めた本作は、アーティスト/クリエイター/シンガーとしてのSHOKICHIの全体像が初めて具現化されたアルバムと言っていいだろう。


 全楽曲の作詞/作曲を手がけ、国内外トラックメイカー、クリエイターとのコライトが繰り広げられた『1114』。まず印象的なのは、リリック、メロディ、トラックメイクを含め、楽曲プロデュースのセンスと能力が大きく向上していることだ。前作の1stソロアルバム『THE FUTURE』(2016年4月)から1114日の間にSHOKICHIは、EXILE THE SECONDで2枚のアルバムと2度のツアー、EXILEで1枚のアルバムと1度のツアーを経験した。それぞれのグループにおける役割をしっかりと担い、楽曲制作に関わったことで、“ソロアーティストとして何を提示するべきか”というテーマに改めて向き合うことになったはず。その最初の成果が、本作『1114』なのだと思う。たとえばアルバムのオープニングを飾る「1114 Miracles」。壮大な風景を想起させるシンセサウンド、エレクトロ~ハウスミュージック~オルタナR&Bのフレイバーを織り重ねたトラック、大らかに解放されるメロディがひとつになったこの曲からは、現時点におけるSHOKICHIのモードが明確に伝わってくる。そのポイントを端的に言えば、“ジャンルを超越した独創的なサウンドメイクと自身の感情や体験をリアルに反映させた歌詞”ということになるだろうか。


 SKY BEATZ、JAY’ED、 P-CHO(DOBERMAN INIFINITY)といった盟友たちとの共作による「マボロシ」も強烈なインパクトを放っている。最新鋭のヒップホップのトレンドを取り入れながら、よりエモーショナル&アグレッシブに進化させたトラックのなかで描かれるのは、SHOKICHI自身の“これまで”と“これから”。たとえば<北の大地から Take off/J soul から成功目指し仲間達と Bet/2009 で EXILE/夢を書き溜め 進む明日へ>というラインは、まさに彼自身の人生そのものと言っても過言ではない。この楽曲もまちがいなく、SHOKICHIの人間性/音楽性を強く反映させたアルバム『1114』を象徴するナンバーだと思う。


 一方で『1114』は、幅広い層のリスナーに届く“わかりやすさ”を備えたアルバムでもある。曲名が示す通り、これ以上ないほどストレートでピュアなラブソング「君に会うために僕は生まれてきたんだ」、気鋭のトラックメイカーAva1anche、ラッパーのSALUとともに“2019年のEXILE SHOKICHIのサマーチューン”をテーマにした「サイケデリックロマンス feat. SALU」など、誰もが楽しめる楽曲が数多く収められているのだ。これまでのソロワークスでは、どちらかというとコアな音楽性に根差した楽曲が多い印象だったSHOKICHIだが、本作の全体的な印象はかなりポップ。ブラックミュージックに対するこだわりをしっかりと持ちながら、多くのオーディエンスを巻き込むポップミュージックに結びつけているところも、このアルバムで示したSHOKICHIの成長だろう。


 「アルバム『1114』はライブをイメージして制作した」というコメントがあるように、6月からの初アリーナツアー『EXILE SHOKICHI LIVE TOUR 2019 “UNDER DOGG” 』への期待も高まる。左目で先を見据えているCDジャケットのビジュアルが示唆する通りーー“左目”はおそらく、“未来を見通す目(プロビデンスの目)”のメタファーだろうーー本作『1114』を作り上げたことでSHOKICHIは、自身のキャラクターと音楽性を明確に提示することで、アーティストとしての新たな地平を切り開いてみせた。そのこと自体が、このアルバムのもっとも大きな収穫なのかもしれない。(森朋之)