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『集団左遷!!』の魅力は『大脱走』に通づる? 集団としてのポテンシャルを急速に上げる蒲田支店

2019年05月20日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ドラマ『集団左遷!!』(TBS系)第5話が5月19日に放送された。


参考:主役は福山雅治じゃない!? 群集劇としての面白味を加速させる『集団左遷!!』へのエール


 地元・蒲田の“下町パワー”によって活気を取り戻した蒲田支店。「ここから本当の奇跡をかなえるんです!」と息巻く片岡洋支店長(福山雅治)の横で、副支店長の真山徹(香川照之)が檄を飛ばす。がっちりとタッグを組んだ2人に続けとばかりに、行員たちは鼻息も荒く次々と融資依頼を獲得する。だが思わぬところから横槍が入る。


 隣接する羽田支店には、これまでも本部の差し金で実績を横取りされてきたが、支店統括部長の宿利(酒向芳)が直接乗り出し、蒲田支店の顧客に攻勢をかけてきた。宿利は片岡らを止められなかったことで横山常務(三上博史)から𠮟責を受け、本部での立場も危うくなっていた。かつての同僚であった梅原(尾美としのり)からそのことを聞き、蒲田支店の存続が1支店の問題を超えて銀行全体に波及していることを片岡は知る。


 第5話の舞台は三嶋食品。一代で会社を興した社長の三嶋(赤井英和)とは地元の岩盤浴で顔なじみになった縁から商談に。余談だが、片岡行きつけの岩盤浴には幼なじみの鈴木(パパイヤ鈴木)や青島(赤堀雅秋)もよくやってきて、仕事や家族のグチを言い合うという設定。零細な企業を営む経営者で町場の景気に敏感な彼らとのやり取りは、片岡が銀行支店長としてやっていく上で意外と役に立っている気がする。


 そうじゃなくても、家と職場の往復(しかも走って!)ばかりの片岡なので、こういう「第3の場所」があるだけで視聴者としても少しだけホッとする。同じTBS系の『わたし、定時で帰ります。』で吉高由里子演じる東山結衣が、毎日退社後に寄る中華料理屋みたいに、ひと呼吸置いてリセットできる空間がこれからますます大事になってくるのではないだろうか。


 話がそれたが、岩盤浴で出会った三嶋がこれまたちょっといわくつきだったことから騒動が持ち上がる。かいつまんで言えば自社ビル購入をネタにした融資詐欺で、怪しい取引の匂いをかぎ取った片岡だったが、まんまと20億持ち逃げされてしまうのだった……。


 「そんなのおかしい。ふつうはこんな悪事気づくはずだ」と思った皆さん。考えてみてほしい。そもそも蒲田支店は、経営合理化を図る三友銀行本部によって廃店になるシナリオだったのを、片岡たちが無理くり言って、これまでに出したことのないような実績を、片岡隊長以下行員たちの「がんばり」によって叩き出しているのだ。そりゃあ、ずさんにだってなるというもの。そして、会社も人間も落ち目のときに限って、怪しい人たちが寄ってくるものなのである。


 目の前の数字をなんとかしたいと思って、溺れるなんとかを掴んでしまう悲しい性。コメディー、サスペンス、家族の絆、友情、働き方。ひとくちに「経済ドラマ」という枠に収まり切らない『集団左遷!!』を、個性豊かな囚人たちを活写した名作映画『大脱走』(1963年)になぞらえるのは飛躍しすぎだろうか?


 次々と指示を出しながら蒲田支店の転覆を虎視眈々と狙う横山。青筋を立てて正論をまくしたてるかと思えば、高笑いしたのち、突然キレて机を横倒しにする。なにがしたいのかまったくわからないが、それでも目が離せず見てしまう三上博史の怪演ぶりはエスカレートする一方だ。


 第5話では、ひさびさの「とりビー!」な蒲田支店の面々や、眼鏡の似合うクールビューティ・藤枝薫(橋本真実)の面倒くさいエピソードもあった。片岡支店長といえば、逃げた三嶋を探し、高熱をひきずって空港へ。


 廃店から、舞台は海外? という筋書きに戸惑いつつも、ここに来て集団としてのポテンシャルを急速に上げている蒲田支店の面々に逆転の期待もかかる。波乱含みの展開に早くも次週の放送が楽しみだ。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。