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差を付けるための“コスプレ撮影”の極意とは? ポートレート写真との違い、最新トレンドを凄腕カメラマンに聞いた

2019年05月19日 13:22  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

差を付けるための“コスプレ撮影”の極意とは? ポートレート写真との違い、最新トレンドを凄腕カメラマンに聞いた
「素敵なコスプレイヤーを自分も撮ってみたい」。昨今、コミックマーケットや池袋ハロウィンコスプレフェスなどコスプレイヤーが注目されるイベントによって、ニュースやTwitterなどのSNSでコスプレ写真を見かける機会が増えました。触発されてイベント参加してコスプレ写真を撮りたいと思った人もいるのではないでしょうか。

墟霊さん@xuling0211 島村卯月『アイドルマスターシンデレラガールズ』※画像クリックまたはタップで他の写真を見る
しかし、コスプレ撮影は人物を撮る点では従来のポートレート撮影と同じですが、ポートレート撮影が得意でもコスプレ撮影は苦手、逆も然り、という声も聞かれます。そこで、どうすれば良いコスプレ写真が撮れるのか、日頃からポートレート写真とコスプレ写真の両方を撮影し、アニメ!アニメ!でも日本と中国でコスプレイヤーの取材をする中国カメラマンの追风少年淡さんに訊きました。

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■コスプレ撮影の流行の撮り方を把握しておく
報道の世界に身を置く筆者ですが、そもそもプロカメラマンであっても、SNSで拡散されたり、「いいね」を多くもらえたりするコスプレ写真を撮るのは難しいという声を聞きます。それほどまでにコスプレ撮影の撮り方は独特なのでしょうか?

「日本大学芸術学部や専門学校などで写真を勉強してきた人たちの『芸術性を意識した目線』からすると、“コスプレ写真”はズレがあるかもしれません」(追风少年淡)。
筆者も取材とプライベートでコスプレ撮影を良くするのですが、基本的には顔に影が映らないことが好まれているように窺えます。そこには、ポートレート写真で見かけるような陰影を付けた写真とは違う狙いがあるようです。

「中国も2013年くらいに丸いLEDライトを顔に近づけて、顔の傷や凹みを白飛びさせて撮るスタイルが流行りました。しかし、今では陰影を付けた写真が増えていますね。徐々に見る人の美意識が変わっています。何が言いたいかというと、どの撮影ジャンルにおいても流行があるということです」(追风少年淡)。

墟霊さん@xuling0211 島村卯月『アイドルマスターシンデレラガールズ』※画像クリックまたはタップで他の写真を見る
流行の撮り方を一つの参考にして撮ることで、全く予備知識がないよりも一歩踏み出しやすいはずです。ただし、流行はこまめに変化を見せるので、都度、SNS上の写真をチェックして空気感を掴んでおく必要もあります。

実際に、中国でも少し前まではコスプレ撮影では、ストロボを正面から大きく焚いていましたが、今の流行はストロボを側面の半分などにしか使わず、後ろの光を強くした自然な感じに変わりました。

「一般的な報道写真と違って、コスプレ写真は芸術性が求められるので正解はありません。人それぞれですから」(追风少年淡)。

■コスプレイヤーが好む写真はバストアップ?
コスプレイヤーによっては、広角レンズで撮られるのが好き、背景を思いっきりぼかして撮って欲しいなど好みは当然あります。一方でTwitterを見てみると、カメラマンが構図に拘った写真よりも、コスプレイヤーの自撮り写真のほうが拡散されているケースをよく見かけます。多くの人にとっては、構図の良し悪しよりも可愛い、あるいはカッコいい顔のアップが好まれるのでしょうか。

墟霊さん@xuling0211 島村卯月『アイドルマスターシンデレラガールズ』※画像クリックまたはタップで他の写真を見る
大雑把に女の子を可愛く、男の子をカッコ良くとるのが前提だとすれば、コスプレ写真もポートレート写真も大きな違いはないのではないかと淡さんは考えています。大きく分けて、「被写体の魅力を強調する」か「物語を演出する」かで撮り方が違うそうです。

「被写体を構図のど真ん中に置いてアップで撮る(日の丸構図)のは、その魅力を強調したいからでしょうし、背景を大きく写したり、目線を切ったりするのは物語性を出したいからでしょう。枚数を連ねて物語を表現する場合もあります。単なる良し悪しの問題ではありません」(追风少年淡)。

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現在は日本だけでなく中国でも「被写体の魅力を強調する」撮り方が主流のように見受けられます。例えば中国だと淡さんがコスプレ撮影を始めた頃は原作のシーンを再現する写真を求める人が多かったそうですが、今はだいぶ減ったと感じているそうです。

■今は似たようなポーズでの撮影が増えている?
「今は中国に限らず日本でも、どのキャラクターのコスプレをしていても、女性ならば可愛いポーズ、胸とお尻のラインを強調したポーズ、脚が長く見えるポーズが多くなりましたね」(追风少年淡)。

墟霊さん@xuling0211 島村卯月『アイドルマスターシンデレラガールズ』※画像クリックまたはタップで他の写真を見る
比べると、カメラマンが構図や天候にこだわった良い写真は、SNS上で相応の評価がもらえているとは言い難いのかもしれません。トレンドのスタイルが高評価を得やすいので、多くの人が同じスタイルを追いかけている側面もあります。

■もう一歩先を行くコスプレ撮影をするために物語性を追求しよう
「1枚の写真が何を語っているのか?」という物語性は、芸術的な写真を撮るカメラマンが大事にしていることだと思います。淡さんは一般の方々に喜んでもらえつつも、物語性を感じる写真は両立すると考えており、実際にそのような写真は拡散されて高評価を得ています。

物語性を演出するには、背景を意識して撮ることが大事です。被写体を全体の構図の中で小さく撮るのは、ともすれば魅力を損なうと感じて勇気がいることでしょう。しかし、アニメやマンガのコマ割りと同じで、そこに意図があるならばチャレンジすることで驚くような魅力的な写真を撮ることができるかもしれません。

墟霊さん@xuling0211 島村卯月『アイドルマスターシンデレラガールズ』※画像クリックまたはタップで他の写真を見る
そのためには、コスプレイヤーとカメラマンが意思疎通することが大切なので、カメラマンは自分がどういった写真を撮りたいかを被写体に伝えるようにしましょう。もちろん、相手が好む好まざるがあるので、押しつけはいけませんが。

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■コスプレとポートレートの明確な違いは光の使い方
コスプレ写真がポートレート写真と明確に違う点もあります。それは、ストロボによる光の使い方です。

「ポートレートは日常、コスプレは非現実感を現す傾向が強いです。コスプレは2次元キャラクターを再現するのが根底にあると思います。それこそ、鎧を着て剣を持った人物を現実の日常風景で撮るようなことは基本的にはしません」(追风少年淡)。

そこで、非現実感を強調するためにストロボの光の使い方が変わってきます。ポートレート写真ですと、基本的にはストロボを使ったとしても、自然な感じに留めます。例えば、夕日を演出したり、自然光の不足分を補ってあげたりするような使い方です。

コスプレ写真ではそういった自然な光の使い方ではなく、極端だと後ろの光は青、右は赤といった現実にはありえないような光の演出も見られます。

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茶々丸さん@cyama28 ラム『Re:ゼロから始める異世界生活』※画像クリックまたはタップで他の写真を見る
「現実にはないものを表現するのがコスプレなので、そういった光の使い方と非常に相性が良いんですよね。まさにコスプレの醍醐味だと思います。コスプレ写真はつまるところ、創作写真ですから」(追风少年淡)。

また、コスプレ写真には皮膚の質感がないものが多く見られます。本来の人の肌には質感がありますから質感がないと平面みたいな写真に見えがちですが、コスプレはアニメの世界を表現しているので、その観点では“正しい”表現と言えるかもしれません。

■イベントでのコスプレ撮影のコツ
コスプレとポートレートの撮影の違いを踏まえた上で、数分単位でしか取る時間が持てない、機材制限があるイベントでのコスプレ撮影のコツを訊きました。

コスプレ参加型の大規模イベントは増えていますが、レフ板やスタンド、大型ストロボといった撮影機材の使用制限に加え、参加者が多いのでコスプレイヤーが決まった場所から動くことが難しいといった環境です。

墟霊さん@xuling0211 島村卯月『アイドルマスターシンデレラガールズ』※画像クリックまたはタップで他の写真を見る
そうすると、ここまで紹介した撮り方を実行するのは難しいです。しかし、コスプレイヤーと時間をかけられるスタジオ撮影などでしか実践できないわけではありません。日本にしろ、中国にしろ、イベント撮影であっても、「被写体の魅力」と「物語性」を両立させた素敵な写真は生み出されています。

「自分が心がけているのは妥協しないことです。難しいのですが、他の人と同じような写真にならないように工夫をしたいです。日本のコミックマーケットのように人が溢れすぎて被写体と距離を取るのすら難しい環境もありますが、一つでも妥協したり、楽をしたりすると、ズルズル崩れていく気がするんです」(追风少年淡)。

常にどのように撮るかを考えて、アイディアの瞬発力を養うことが大事。そして、それを実践できる技術を手に入れるためには試行錯誤が必要でしょう。最初から上手くいかなくても挫けず、課題を持って取り組むのは、逆に言えばイベント撮影に限らず、スタジオ、ロケ、どこだって同じことなのです。イベント撮影だから撮れないと諦めるのはもったいないです。

一瓶橙汁儿さん(weibo:@一瓶橙汁儿) 黑涅托『ドールズフロントライン』/中国上海・動漫イベント「「魔都同人祭Comicup23」」※画像クリックまたはタップで他の写真を見る
また、機材が十分に使えない環境だからこそ、自分の技術向上やスタイルの確立に結びつくかもしれません。例えば、ストロボを使うと現像の段階でセッティングした色合いから大きく変更することが難しいことがあります。
現在はハイスピードシンクロが流行っています。通常は被写体の顔を明るく撮るとしたら背景が白飛びしますが、強いストロボの光にシャッタースピードを早くすることで、人物は明るく、背景を暗く撮ることができます。そうすることで、青空が色飛びしないような写真を撮ることができます。その分、被写体と背景の対比が強くなるので、現像の段階被写体に当てた光を変えるのは難しくなります。

森川唯さん(weibo:森川唯)/中国広州・動漫イベント「YACA58春季動漫展」※画像クリックまたはタップで他の写真を見る
そこで、機材制限に引っ掛からない小型のストロボを、自然光と対立させない程度に使うことで、現像の時に自分の表現したい色合いを出すように心がけるやり方もあります。最後に、淡さんは美意識を培うことが大切だと伝えました。

「技術は青天井ですから、ひとまず合格点を撮れる技術を身に付けたなら、次は美への意識ですね。プロとは限りませんが、ポージングや光の使い方が美しい写真集や絵画などに触れることも大切になります」(追风少年淡)。

何も考えずにシャッターを切るのではなく、知識も含めた準備が良い写真を撮る近道です。

撮影:追风少年淡(Twitter:@himeko_hong、Weibo:@追风少年淡)