2019年05月19日 10:31 弁護士ドットコム
「タイムカードが手書きってありですか?」。こんな質問が弁護士ドットコムニュースのLINE@に寄せられました。
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相談を寄せたのは、九州地方で介護士をしている30代男性です。男性が働く施設では、タイムカードは紙に「鉛筆」で出勤・退勤時間を自分で手書きし、その上に自分の印鑑を押す決まりだそう。
男性は「印鑑押してるので、こちらも了承してると受け取られそうだと考えています。さらに、書くのは鉛筆と決まっています。何故ですかね?」とかねてから疑問に感じているようです。
職場で「手書き」で労働時間を管理するのは、法的に問題ないのでしょうか。岡村勇人弁護士に聞きました。
「結論としては、鉛筆書きでの自己申告は問題があると言えるでしょう。詳しく説明していきましょう」
出勤簿に手書きで始業・終業時刻を記録する方法はOKですか。
「厚生労働省のガイドラインでは、労働時間の把握を、原則として使用者による現認やタイムカードやパソコンの使用時間記録等の客観的な記録によって行うこととされています。ですが、労働者の自己申告によって労働時間の管理を行うこと自体が否定されているわけではありません。
ガイドラインでは、やむを得ず自己申告制により始業・終業時刻を把握する場合には、使用者が労働者に対して適正に自己申告を行うよう十分な説明をしたり、報告が適正に行われているか確認したりするなど一定の措置をとるよう示しています。
『手書き』の点について、特に法令の定めがあるわけではなく、労働者が出退勤時刻を申告する際の記録方法の一つといえます。そのため、『手書き』で記録すること自体が違法であるともいえないでしょう。
ですが、手書きの出勤簿で自己申告制により労働時間を管理する方法は、不正防止の観点からは、問題があるといえます」
なぜでしょうか。
「このような労働者が自分で出退勤時刻を書き込む管理方法では、労働者が実際の労働時間よりも労働時間を多く申告したり、逆に、使用者によって労働者が実際の労働時間よりも少なく申告させられたりする不正が生じる危険があるからです」
相談者は、手書きであるうえに、鉛筆で書き込むよう言われているようです。
「鉛筆書きの場合、記入後に消しゴムで消して簡単に時刻の訂正や改ざんができるため、不正が行われるリスクがさらに大きくなります。したがって、鉛筆書きでの自己申告は労働時間の把握・管理の方法として適切とはいえないでしょう」
相談者のような事例は、まだまだ多いのかもしれません。手書きの出勤簿や労働者の自己申告制での労働時間の確認・管理は改められるべきでしょうか。
「残業代などを含めた労働者の賃金額を算定するためには、正確な労働時間をきちんと把握することが必要です。また、労使間で労働時間を巡って紛争が生じた場合に、手書きの出勤簿や労働者の自己申告での記録では、不正などにより実態を正確に反映していない可能性があるため、労働時間を証明する証拠として十分に機能しないことが考えられます。
ですから、タイムレコーダでタイムカードに出退勤時刻を打刻する方法など機械による客観的な労働時間の管理が望ましいと言えます。
2019年4月1日に施行された『働き方改革関連法』と呼ばれる一連の法改正により、労働安全衛生法において、労働者の健康保持の観点から、使用者が労働者の労働時間の状況を把握する義務を負う規定が新たに設けられました(労働安全衛生法第66条の8の3)。
この法律でも、労働時間の状況の把握は、タイムカードによる記録やパソコン等の使用時間の記録などの客観的な方法によって行うことが原則とされています(労働安全衛生規則第52条の7の3)。
賃金の正確な算定のためだけでなく、労働者の健康管理の面からも、労働時間をきちんと把握し、記録することの重要性が高まっています。小規模な職場においても、機械を用いた客観的な方法への切り替えを進めていくべきだと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
岡村 勇人(おかむら・はやと)弁護士
企業の法務部門などでの会社員経験を経て、2008年に弁護士登録。労働事件のほか、交通事故、相続などを中心に幅広い分野の案件を扱う。
事務所名:岡村法律事務所
事務所URL:https://www.okamura-lawoffice.com