2019年05月18日 10:11 弁護士ドットコム
三菱UFJ銀行は5月から、2歳未満の子どもを持つすべての男性行員に、約1カ月の育児休業の取得を実質的に義務付ける制度をスタート。メガバンク初として話題になりました。
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女性にとって、「1カ月の育児休業」は当たり前のように思えるかもしれませんが、男性にとって、育児休業取得のハードルはまだまだ高いようです。厚労省の調査によると、企業で働く女性の取得率が83.2%だったのに対し、同じく男性では5.1%にとどまっていました(「平成29年度雇用均等基本調査」)。
また、育児休業を取得できたとしても、女性に比べて男性は極端に日数が少ないです。女性の場合は、「10カ月~12カ月未満」が31.1%と最も高く、次いで「12カ月~18カ月未満」が27.6%、「8カ月~10カ月未満」が12.7%でした。しかし、男性の場合は、「5日未満」が56.9%と最も高く、1カ月未満は8割を超えていました(「平成27年度雇用均等基本調査」)
中には、実質的にはたった1日しか取らないケースもあるようです。あるワーキングマザーはTwitterでこんなツッコミを入れて、話題を呼んでいました。
「弊社も数年前部署ごとの男性の育休取得率の目標が設定されたんだけど、1日でも取れば育休者1名としてカウントされるためみーんな1日だけ申請してた 1日の育休で何育てる気なんだよ 豆苗か?」
果たして、たった1日でも「育児休業」になるのでしょうか。今井俊裕弁護士に聞きました。
たった1日でも「育児休業」は成立しますか?
「育児休業は原則として子が1歳になるまで労働者の権利として休業を請求できるものです。仮に職場に就業規則がなくとも、法律に基づいて直接労働者が行使できる権利です。休業できる最長期間の定めはありますが、逆に最短期間の定めはありません。したがって、労働者の真意ならば、たとえ1日だけ育児休業することも自由です」
しかし、父親の育児休業がたった1日だけというのは、母親にとって非現実的です。
「実際のところ、そんな休業の請求の仕方は普通に考えて不自然ですよね。これは、育児休業の取得率、特に夫の取得率が高いことを職場として誇示したい職場による無形の影響力によるものではないかという勘ぐりもできますよね。
実際に休業中は、育児休業給付金として雇用保険から従前の給料の67%や50%に相当する給付金の支給を受けることができます。休業期間中には給料はないでしょうから、所得税も雇用保険料の負担もありません。
さらには、休業期間中の社会保険料についても免除される制度もあります。休業中は社会保険の資格は失わないのですが、とすれば労働者にも社会保険料負担がかかってきます。しかし、それでは休業給付金が給与の満額ではなく、多くともその67%なのですから、そこから社会保険料の半額を従前のとおり労働者が負担しなければならないならば、実質的な可処分所得が十分ではない、という趣旨からです。
しかし、これを逆手にとって、例えば5月31日だけ、1日の育児休業を取得して、5月の1カ月分の社会保険料を免除してらおう、という方もおられるかもしれません。あくまで社会保険料の負担は1か月単位で算定し、日割計算はしない制度だからです。
以上のように、我が国では制度が導入された趣旨とは違って実際の職場で休業制度が運用されています。まだまだ労働者の福祉につながる働き方という面から見た場合、社会として未成熟ですね」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における個人情報保護運営審議会、開発審査会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html