学生時代、僕は狭い家で母親と暮らすのが嫌でさっさと自活したかった。念願叶って高卒で就職し、そこでやっと一人暮らしの真似事をすることができた。家事を自分のペースでやって、誰かに邪魔されないというのは結構嬉しいものだ。実家暮らしより一人暮らしのほうが断然楽しい。やっぱり家に自分だけが住んでいるというのは気楽なものだ。
ただ、一人暮らしをしているからと言って、それが実家暮らしをする同世代より優れているかと問われると、これは首を縦には振れない。本当の意味での自立ができているかどうかなんて、暮らしの形態だけではなかなか判断つかない。(文:松本ミゾレ)
実家で暮らすメリットは「金が貯まる以外に分からない」
先日、2ちゃんねるに「なんで一人暮らし=偉いみたいになっとるんや?」というスレッドが立っていた。スレ主は一人暮らしだが、実家暮らしの人を尊敬するのだという。「親と生活するとかしんどい。よくやってると思う」と、どうやらスレ主は僕と同じような考えの持ち主のようだ。
そうなのだ。親子関係はどこも金太郎飴みたく一律で円満ではない。顔を合わせればお互いに複雑な感情が湧きあがるような家庭もある。そういった家庭で暮らした者たちは、実家暮らしにはなかなか後ろ向きになってしまう。
ただ、この理屈って、その人の育った環境によっては全く相手にされないのが困ったところである。世間には「親と一緒に暮らすなんてヌルゲー。同居は甘え」みたいな風潮がある。
スレ主はそもそも、実家で暮らすことのメリットについて「金が貯まる以外に分からない」とも書き込んでいる。実家暮らし最大のメリットはここにある。一人暮らしをするよりも、財布から金が出て行きにくい。
場合によっては、家事を家族に任せることができるというのもメリットに数えられるだろう。でも、これぐらいじゃないだろうか。実家暮らしって、別にそれ以上に素晴らしいものではないし、一人暮らしに比べると制約は多く思える。
「両親と一緒に生活=子供部屋おじさん」という揶揄はいずれ自分の首を締める
インターネット掲示板では昨今、成人しても実家を出ない人たちのことを"子供部屋おじさん"と呼ぶ。なかなかパンチのあるスラングである。大人になっても子供の頃から育った部屋に居住する人たちを馬鹿にする意味合いがあるのだろう。
でもこれって、他人に揶揄されるべき状況だろうか。僕らは幸いにして一人暮らしをしていられるが、世間はとにかく不景気なのだ。実家に留まって、余計な出費を減らさないと生活できない社会人も大勢いるはずだ。
それに、両親にとってはニートとちゃんと就労している我が子とでは全く印象が異なる。まともに働いていて、それで実家にも留まっている我が子というのは、これはある意味で親孝行者ではないか、と思う節もある。
なんにせよ、不労者と労働者は違うのに、これらを一まとめにして「やい子供部屋おじさん」と誹謗中傷するのは短絡的だ。悲しいことに今回紹介したスレッドには、この手のスラングが多く見受けられた。他人の生活スタイルには各々の最適値というものがある。それを理解せずに批判をするのは、ちょっとどうかと思う部分もある。
いずれ親は老いる。人によっては、介護のために実家に戻る者が必ず出る。そういう人は「俺は子供部屋おじさんじゃない」と憤ることだろう。でも、そういう人だって他の人からは「子供部屋おじさん」に括られてしまう。生活の表面的な特徴だけで他人を判別するのは危険だ。
一人暮らしなんて、親の仕送りで成り立ってるボンボンもいる。「なんとなく自立してそうな人の代名詞」程度で一人暮らしを捉えるのはお粗末だ。