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Saucy Dogが提示した“歌モノバンドの王道” 一つの目標だった日比谷野音でのライブを振り返る

2019年05月17日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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「俺ららしさをずっと残したまま、でもちょっとずつ変わりながら、みんなの毎日を彩れる曲を書いていきたいな」(石原慎也)。


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 Saucy Dogが、4月30日に東京・日比谷野外大音楽堂にて、ワンマンライブ『YAON de WAOOON in TOKYO』を開催した。Saucy Dogは、石原慎也(Vo/Gt)、秋澤和貴(Ba)、せとゆいか(Dr/Cho)の3人からなるロックバンド。石原の実体験を基にした情緒溢れる歌詞と癖になる切ない歌声、キャッチーなメロディラインと絶妙なバンドアンサンブルからなる聴き心地の良いサウンドは、一瞬で体内に染み込んでいく。日常の1ページを切り取ったようなノスタルジックな楽曲たちは、観る者の脳裏にそれぞれの情景をリアルに描かせるのだ。私たちが心の奥底にしまいこんだ想いを、言葉と音で優しく包み込んで掬い上げてくれるような、そんな温かいバンドである。


 Saucy Dog再始動すぐの1st EP『あしあと』(2016年8月リリース)から、最新作となる2ndミニアルバム『サラダデイズ』(2018年5月リリース)、4月5日配信リリースされた「ゴーストバスター」に加え、タイトルが未発表の新曲2曲を含む全18曲が演奏されたこの日は、彼らが今に至るまで歩んできた道をすべて辿るようなセットリストだった。日比谷野外大音楽堂という大きな会場には、程よい緊張感と高揚感が漂う。天気はあいにくの雨だったが、ライブ冒頭でせとが「今日のサウシーの日比谷野音は、雨が降ってたからこそめっちゃよかったって、そんな風に思ってもらえるようなライブをしに来ました。慎ちゃんの声とサウシーの曲は、雨、めちゃくちゃ似合うと思う」と話していたように、“雨だからこそ”Saucy Dogが生み出す楽曲の世界観がより深まり、雨音とあいまって彼らの紡ぎだす音がダイレクトに心に響くライブだった。


 そのステージで、特筆すべきは、“歌モノバンドの王道とは何か”が提示されていたことだろう。たとえば、中盤に披露された「いつか」。石原が「『いつか』だけに助けられたくない」(引用:Saucy Dog「サラダデイズ」インタビュー/音楽ナタリー)と語るほどの代表曲だ。石原の地面を力一杯に蹴るカウントから一斉にはじまる、郷愁漂うゆったりとしたイントロ。その後Aメロでは歌をじっくり聴かせるかのように、ボーカルの声とコード弾きのベースのみが響き渡る。Bメロではシンプルで控えめなドラムが入り、伸びやかなベースラインへと移り変わりながら、サビに向かって盛り上がっていくのだが、1曲通してあくまで楽曲の主体は歌ということを感じさせる。もちろんそれは、石原の声量と抜けの良さゆえにとも言えるのだが、それだけではない。せとの安定したドラムがしっかりと基盤を築きながら、そこに秋澤の計算されつつも自由に遊ぶようなベースラインがのる。この二人のリズム隊が音圧をしっかりと保ちながら、石原の声を活かしているのだ。


 特に、野音という屋外でのライブでは、石原の歌声がこれでもかと空に向かって突き抜けていく。〈じゃあね/またどっか遠くで/いつか〉と切なく叫ぶように歌う石原。最高に気持ちいい。アウトロではせとの透き通るように綺麗なコーラスが、〈ラララララララ…〉というハミングを包み込む。日常の中で静かに始まった恋が佳境を迎え、そして後を引きながらも徐々に消えていき、エンディングを迎えるこの曲は、まるで1本の物語のようだ。“歌モノバンドの王道”とは、紡ぎ出した言葉を、楽器隊がボーカルを支えながら届け、リスナーそれぞれの中にリアルな情景を生み出しながら一つの物語を完成させることではないだろうか。Saucy Dogはまさにそれを具現化させたバンドと言える。


 同時にこの日のライブは、冒頭の石原の発言のように、“らしさと変化”からなるSaucy Dogの今が詰まっていたように思う。たとえば、現体制になる前に作られた曲「Wake」は、コーラスの入れ方など少しずつアレンジが加えられた今の「Wake」として披露。また新曲「ゴーストバスター」では、これまでの一人だけの物語の曲とは違い、石原が会場にいる全員の背中を力いっぱい押すかのように絞り出す歌声が印象的だった。ライブを見るたびに、彼ら3人の絆とグルーヴがより深まっているのを感じる。そしていつも音と戯れるように楽しそうな彼らの姿がステージで輝いているからこそ、観客たちも自然と笑顔になる。Saucy Dogは、センチメンタルポップネスとキャッチーなサビのメロディは残したまま、着実に進化と変化を遂げているのだ。だが、どんなときでも私たちリスナーに寄り添うようにして、生活を彩り続ける。それは今この瞬間もそしてこれからもずっとそうなのだろうと、雨の中にも関わらず野音を埋め尽くす観客たちの笑顔を見てふと思った。


 アンコールでも勢いが止まることなく、Saucy Dogは最後まで全力で駆け抜ける。この日最後の曲となった「グッバイ」では、〈昨日までの自分にさよなら〉と石原が訣別を告げ、〈グッバイバイ〉という約3000人の大合唱が優しく夜空を包み込んだ。彼らが紡ぎだす一音一音は、雨とともにじんわりと心に沁み渡っていく。「雨が降ってたからこそめっちゃよかった」、間違いなくそう思えるライブだった。Saucy Dogが3人で歩んできた過去、そして彼らの一つの目標である野音に辿り着いた今、たくさんの可能性に溢れている未来。Saucy Dogは、今後も“王道歌モノロック”として、3人にしか出せない音を届けていく。彼ららしい物語は少しずつ形を変えながら、どこまで大きく広がっていくのだろうか。(文=戸塚安友奈)


■セットリスト
Saucy Dog『YAON de WAOOON in TOKYO』
4月30日(火)東京・日比谷野外大音楽堂


01. 真昼の月
02. ナイトクロージング
03. ジオラマ
04. あとの話
05. 曇りのち
06. マザーロード
07. Wake
08. 新曲
09. いつか
10. コンタクトケース
11. へっぽこまん(アコースティック)
12. 世界の果て(アコースティック)
13. 煙
14. メトロノウム
15. バンドワゴンに乗って
16. ゴーストバスター
EN1. 新曲
EN2. グッバイ