二輪ロードレース専門誌『ライディングスポーツ』のMotoGPコラム。第4戦スペインGPのMoto3クラスでは、日本人ライダーの鈴木竜生がMoto3で初めて表彰台を獲得した。鈴木はどのようなキャリアを経て世界選手権参戦を果たしたのか。
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2019年のMotoGPは目が離せない。日テレG+のライブ放送と、ドルナスポーツのウエブ年間契約、motoGP.comをPCで見て、全情報を確認しながら観戦している。フライアウエイの開幕3戦、カタール、アルゼンチン、アメリカズは、時差が大き過ぎて、月曜日が辛かった。第4戦のスペインからはヨーロッパラウンドになり、日本時間の深夜にレースが終わるので、日常生活に支障を来さずにみることができる。かなり楽になった。
そのヨーロッパラウンド、スペインのヘレスでは、鈴木竜生がやっと表彰台に上ることができた。前戦の第3戦アメリカズGPでは、17周のレースで8周の間トップを走りながらの単独転倒。その悔しさを生かして第4戦スペインGPでは最後まで走り切り、自身最高位の2位でチェッカーを受けた。
竜生は1997年生まれの21歳。今年、グランプリ参戦5年目のベテランでもある。だが、今でも思い出すのは、2015年、竜生がグランプリに参戦した年のシーズンオフだ。戦闘力が低いと言われていたマヒンドラでフル参戦するタツキ・スズキとはいったいだれなのか。
以前は、グランプリへ上がる前に国内で全日本選手権を戦うのが通常ルートだったが、竜生は地方選手権から全日本を飛ばしてスペインのCEVへ駒を進めた。高校2年生の年だ。通っていた千葉の高校からフランスの高校へ留学し、ヨーロッパで生活をしながらCEVを戦った。ここでの活躍が認められて、グランプリチームから声が掛かり、翌15年からグランプリフル参戦が決まったのだ。
チームはCIP。フランスのチームで、元GPライダーが監督を務めている。日本との関わりも深く、富沢祥也や藤井謙汰もこのチームからグランプリ参戦を果たしている。ミニバイクから地方選手権、そして全日本というルートでは、今はグランプリへの道は遠くなっている。
竜生と同じクラスを走るほかの日本人ライダーたち、鳥羽海渡、佐々木歩夢、真崎一輝、そして小椋藍は、ホンダの育成プログラムであるアジアタレントカップからヨーロッパへ渡り、そしてグランプリの参戦権を得ている。だが、アジアタレントカップが始まったのが2014年、竜生がCEVにフル参戦し、拠点をフランスに移した年だったのだ。
竜生は、他の日本人ライダー4人たちより3歳年上だ。海渡、歩夢、一輝はみな2000年生まれ(藍は2001年の1月生まれだが、学年は同じ)。そのため、グランプリまでの道のりも、竜生と他の4人は時期がずれていて、子供のころのポケバイやミニバイクの時代も、やはり竜生は彼らと同じレースで戦っていない。
そして彼ら4人は、アジアタレントカップ、ヨーロッパで開催されているKTMのルーキーズカップ、そしてグランプリの入門レース、FIM CEVレプソルインターナショナル選手権に進み、そこからグランプリ参戦のチケットを得ている。竜生は、そのルートができる前に、自らの力でグランプリライダーになっている。
2017年から竜生はSIC58スクーデリアコルセに移籍し、ホンダのマシンを手に入れた。SICは2011年に亡くなったMotoGPライダー、マルコ・シモンチェリのお父さんが作ったチームで、若いライダーを受け入れ、そして最高峰へ押し上げることを目的としている。
オールイタリアンのようなチームに、竜生はスタッフを含めて唯一の日本人として活動している。フランスからイタリアへ居を移し、ほとんどイタリア人の感覚で生活しているという。
「一緒にいる時間が長いバスティアニーニとかがレース中に前にいると、負けられないっていう気持ちになります。2016年シーズンまではイタリア人ライダーと関わりがなかったから、同じ日本人ライダーには負けたくないという気持ちしかなかった。でも今は、イタリア人に負けたくない」
「『バスティアニーニが表彰台に上がっていて、何で俺が上がれないんだ!』って。昔の日本人ライダーが強かったころは、日本人同士で優勝争いをしていたから負けれない気持ちが大きくて強くなったんだと思います。だから、日本人にもイタリア人にも負けられないって思う気持ちはいいことだと思っています」
昨年のシーズン前、編集部を訪れてインタビューに応じてくれた竜生の言葉だ。
竜生は普段の生活ではイタリア語、パドックでは英語、イタリアの中央東側、ミサノサーキットのそばのリミニに住んでいる。シモンチェリの生家があり、シモンチェリのお父さん、パオロさんの家からも近い。
「家に帰って料理を始めようとするとシモンチェリパパから電話がかかってくるんです。家に食べに来いとか、一緒に食べに行こうとか。しかも、シモンチェリママの手料理がおいしんですよ!」
このあとフランス、イタリア、カタルーニャと続く。竜生の優勝が見られるのも、そう遠くない。表彰台で泣いている竜生の姿を、見たい気がする。