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『緊急取調室』天海祐希と“対決”するゲスト女優配役の巧さ 長期シリーズに新展開訪れる

2019年05月16日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 現在放送中の『緊急取調室 3rd SEASON』(テレビ朝日系)は、捜査一課の緊急事案対応取調班、略して“キントリ”が被疑者を取り調べる様を中心に描いた、1話完結型のサスペンス刑事ドラマだ。


 天海祐希演じる真壁有希子はキントリ唯一の女性メンバーで、その能力の高さから、管理官の梶山(田中哲司)、口が悪くて気が短い「菱やん」こと菱本進(でんでん)、常に冷静で穏やかな「春さん」こと小石川春夫(小日向文世)に対して臆することなく、一歩も引けをとらない活躍を見せている。


 昨シーズンまで出演していた大杉漣が逝去したことから、大杉が演じていたキントリメンバー「ホトケの善さん」こと中田善次郎が退職し、塚地武雅演じる玉垣松夫が捜査支援分析センターから異動してきて、新たにメンバーに加わった。中田とは警視庁の将棋部で親しい間柄だった、というエピソード付きだ。この玉垣、最初こそキントリメンバーの危ない橋を渡ることも厭わないやり方に「異動してきたばかりで処分を受けるのはごめんだ」と戸惑いを見せており、真壁の決めゼリフ「面白くなってきたじゃない」に対して「全然面白くない」と切り返すなどしていたが、メンバーからは「玉ちゃん」と親しみを込めて呼ばれ、初回から画像解析のエキスパートとしての手腕を発揮して事件解決に貢献したり、早々に馴染む様子を見せている。


 これまで真壁にとってキントリメンバーは、梶山が同期である以外は全員先輩だったが、玉垣が来たことにより先輩風を吹かせる相手が出来た気安さも感じられるようになってきた。また、お笑い芸人でありながら、俳優としての活躍も目覚ましい塚地の生き生きとしたコミカルな演技が、これまでのシーズンに比べてより軽妙でテンポのよい流れを生んでいる。


 新メンバー参加という変化に加えてもう一つ、今シーズンの特徴として大きいのは、真壁たちキントリメンバーが対峙する被疑者のうち、事件の最も重要な鍵を握る人物が女性ばかりであるという点だ。


 初回は、自身の地位と出世のために罪を犯す、警視庁初の女性刑事部参事官を浅野温子が冷徹に演じ切った。第2話は殺人の疑いをかけられる女流棋士を松井珠理奈と紺野まひるがそれぞれ演じ、どちらが犯人か先の読めない二人の駆け引きが見ものだった。第3話は、世間からもてはやされていたカリスマトレーダーを裏で操っていた狡猾でしたたかな女性の役を、仙道敦子が視聴者も思わず翻弄されるほどの巧みさで演じ、第4話は連続殺人事件の被疑者として逮捕された男の姉役・松本まりかが、一見おとなしそうだが底知れぬ闇を抱えた様を迫真の演技で見せた。そして前回、第5話ではベテラン女優・真野響子が登場。失踪した嫁を心配する心優しい姑の役かと思いきや、調べを進めるうちに怪しい点が次々と現れ、その優しい笑顔が徐々に不気味さを帯びる演技で見る者を強く引き付けた。


 決して派手さはないが、確かな演技を見せる俳優を配しているからこそ、この作品が上質で見ごたえのあるドラマになっている。そしてなんといっても、手ごわい“敵”である彼女たちと向き合う天海祐希の安定感のある演技があるからこそ、対決の緊迫感が増している。能力は高いが、決して人を見下さず、被疑者といえども同じ目線で話を聞く真壁の愛にあふれた正義感が、天海の持つ清潔感とうまく適合しており、毎回心痛む事件が起こる中で一服の清涼剤のようになっていることも、ドラマ全体の程よいバランスを保つ要素の一つだろう。


 今シーズンの放送も中盤戦に差し掛かり、第5話ではとうとう梶山からメンバー全員に、キントリの組織変更が検討されており、チームは解散する方向で話が進んでいることが告げられた。今後の展開がどうなるのか気になるところだが、その中でも要注目人物となりそうなのが、キントリの上司にあたる刑事部長の磐城(大倉孝二)だ。チーム解散を推し進める立場にある磐城だが、第5話の終わりには、キントリメンバーに対して「(キントリに)不満はないよ、もう」と力なく告げていて、その言葉の真意が気になる。これまで自身の立場を守るためにキントリを利用してうまく立ち回ろうとしていた彼が、今シーズンではキントリの真実と正義を求める姿勢に、今まで以上に振り回されているようにも見える。果たしてすべて保身のためだけに動いているのか、それともキントリメンバーを見て心が揺れ動いているのか。磐城の動向も含め、キントリの行く末を見守るためにも、残りの放送回から目が離せない。(文=久田絢子)